「見える化」と時間コスト、赤字案件の対処

掲載日:2021年4月5日

印刷会社が優先的に「見える化」すべき数字は(1)日次付加価値と(2)受注一品別収支の二つと考えている。

(1)日次付加価値

目的は、月次の付加価値目標に対して、日々の実績の進捗状況を確認するためである。結果がでてから振り返るのではなく、悪い結果が出る前に先手で対処するという先行管理の考え方である。
売上ではなく、付加価値の数字を使うのは、印刷業は個別受注生産であり、印刷物の仕様や工場の稼働状況によって材料費や外注費の額が大きく変動するためである。
ここでの付加価値とは、売上から変動費である用紙代と外注費を引いた金額である。厳密にいえば変動費には、インキ代やCTPの版代、電気代や残業代も含まれるが、用紙代と外注費の二つに絞っているのは、金額が大きいことと受注した仕事に紐づけて金額が把握できるためである。先行指標として利用するので、手間をかけずに数字が容易に把握できることが重要である。インキ代と版代については、年間経費総額の対売上比率で簡易的に計算して付加価値から引くケースもある。

(2)受注一品別収支

目的は、採算が合わない案件を特定して、赤字の原因を明確化し、具体的な対策を打つためである。小さなPDCAサイクルを素早くまわすことが肝要である。個別の収支がわからず月次で締めてみたら会社が赤字だったというようなケースでは、会議で対策を検討しても結局、具体策が打てずに「売上を増やす」か「コストを下げる」というスローガンで終わってしまうことが多い。
受注一品別収支を計算するときに用紙代や外注費は比較的容易に実費を把握できる。難しいのは社内の製造原価である。人件費や設備の償却代、水道光熱費といった諸々の経費を仕事1点ずつに割り振るのは不可能ではないにせよ運用上、現実的ではない。そこで、用いるのが「時間コスト」である。作業にかかった時間に比例して原価がかかったとみなす。例えば、印刷機の時間コストが1万5千円だったとする。ある仕事の印刷をするのに、その印刷機を使って2時間作業したとすると、その仕事の印刷の原価は、1万5千円×2時間で3万円となる。
では、「時間コスト」とは何かというと、1時間当りに必要な付加価値額、言い換えると1時間当りの固定費+目標利益となる。

参考記事:時間コストを理解する

赤字案件の対処

個別収支が赤字になったときに、その仕事を断れば利益が増えると思う方も多いだろうが、ほとんどの場合、単純に断っただけでは収益改善にはならない。実は赤字のケースには2パターンある。1つは仕入より安く販売している場合である。100円で仕入れて80円で売るのがこれに該当する。真性赤字と呼んでいる。このような仕事は当然、断れば収益改善するが、印刷会社でこのようなケースを目にすることはまずない。これまでの経験では、しがらみにまみれた仕事で先輩から引き継いだものの詳しい事情は知らされず、ずっと同じ条件でリピート受注しているうちに外注費が値上がりしていて気づいたら逆ザヤというケースがあった。この場合でも、ただ断るのではなくダメ元のつもりで顧客と折衝するのが原則である。仕事を断るのは最後の最後である。

赤字の2つ目のパターンは、仕入よりは高く売っているが、社内原価を含めると赤字になるという場合である。疑似赤字と呼んでいる。赤字の仕事のほとんどはこちらのパターンである。
意味合いとしては、投入した時間に対して、得られる付加価値が少ない、つまり割の合わない仕事といえる。大変な仕事の割に時給が安いアルバイトをしているようなものである。労力の割に時給が安いとはいえ辞めてしまったら収入はゼロになる。印刷会社でいえば、仕事がなく印刷機が止まって遊んでいるくらいなら請けたほうがいいという判断になる。印刷通販のラクスルが、当初?うたっていたビジネスモデルは、この理屈を利用して印刷機の遊休時間に仕事を入れるので安くなるというものであった。

時間コストを使った「見える化(案件別収支把握)」は、作業した時間と生み出している価値(お金)がバランスしているかどうかをチェックするものである。疑似赤字の場合は、作業にムダがあったのではないか、作業効率を上げる方法がないかをまず考える。製造現場だけでなく、営業のスケジューリングや入稿方法、製造とのコミュニケーションによっても作業効率は大きく変わるので、営業も巻き込んで検討する。
お客様との交渉はその後で、まずお客様の仕事のやり方を変えてもらうことでの改善策を提案する。入稿方法であったり、校正の承認のフローであったりする。それでもどうにもならないときに価格交渉をお願いし、それでもラチがあかないときに断るかどうかを検討する。断る場合でも断ることで失う付加価値を別の仕事でどのように補うかという検討は欠かせない。

時間コストの定義はシンプルであるが、部門別や設備別に設定することや共通経費の扱い方など自社の時間コストを設定しようとすると戸惑うことも多い。
4月27日(火)に実施する研究会では、仮想の印刷会社を題材に、時間コストの算出方法についてわかりやすく解説します。

時間コストの出し方 徹底解説
4月27日(火) 14時~16時半

(研究調査部 花房 賢)