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DTPエキスパート、2段階制で受験者大幅増

DTPエキスパート認証試験は、2020年より2段階制に改定され、第53期(3月)と第54期(8月)の2回の試験を実施した。2段階制に改定したその後の状況について報告する。

前年同期比146%と大幅な受験者増

第54期試験は8月30日に学科試験が行われた。受験者には体調管理表の提出をはじめ、検温の実施、手指消毒とマスク着用の徹底、座席間隔の確保などを行い、コロナ感染対策に配慮した上で試験を実施した。

受験者数は、エキスパート:189名、マイスター:117名、アップグレード:3名であり、合計309名であった。2019年8月に実施した第52期試験は212名であり、前年同期比146%と大幅な受験者増となった。
内訳を見ると、新しく制定されたエキスパート受験者(学科試験のみ)が全体の61%となっている。
つまり、実技試験は必要ない、もしくは次回以降に受験する方が増えたことを表しており、2段階制の効果により受験者層が拡大したことが推定される。

営業部門の門戸を開くDTPエキスパート2段階制

DTPエキスパート認証試験は、文字・画像・色などのデジタル技術に強い人材を育成し、DTPを普及させるために創設された制度である。1994年以来、DTP・印刷に関する知識を問う学科試験、および課題を提出する実技試験から構成されていた。

しかし、創設から25年を越え、エキスパート試験を取り巻く状況は大きく変化した。近年では、企画・営業部門の方が30%前後となっている。
また、DTPエキスパート試験を受験する意義として、共通言語が身に付くことを挙げる方も多い。印刷業界では、営業部門と製造部門、および関係するデザイナーやクライアントとやり取りする際に、専門用語や業界特有の表現は欠かせない。若手社員や経験が少ない方は、それらの理解が深くないため、誤解が生じたり、不測の事態を招くこともある。

DTPエキスパートの学習を通じて幅広い知識を身に付けることで、業界特有の共通言語を理解し、どんな部門や立場の人とも、正しいコミュニケーションを取ることができる。

企画・営業部門の方のニーズに応えるには、独立した資格制度として学科試験を実施すべきという議論があり、エキスパート試験を監督する認証委員会でも了承された。
その結果が、DTPエキスパートとDTPエキスパート・マイスターの2段階試験である。

2段階制試験の今後

新しいDTPエキスパート試験では、実技試験は行わない。マイスター試験は、従来と同様に学科・実技の両方を受験する。
2つの試験で実施される学科試験は、同時に実施され、内容も同一である。DTPエキスパートが簡易版という意味ではない。

例えば、初回はDTPエキスパート(学科試験)を受験し、次回以降に実技試験(アップグレード試験)にチャレンジし、マイスター取得を目指す2段階方式を選ぶこともできる。
アップグレード試験の受験には期限はなく、半年後でも数年後でもチャレンジすることができる。

また、マイスター試験を受験し、学科試験に合格していれば、実技試験が不合格でもDTPエキスパートの資格を取得することになる。

DTPエキスパート(学科試験)の学習を通じて、印刷工程の全体像、入稿データや品質面の注意事項、その背景などを正確に理解することができる。営業部門の方でも、全体の制作工程や進行状況を理解、把握することができる。
実技試験を受験しなくても、DTPエキスパートの取得を目指して学習することで、その意義を実感できるはずである。

DTPエキスパートの2段階制は、その機会を利用して知識や技術を身に付けたいという人のための手段である。うまく活用し、実務に役立ててもらえると幸いである。

JAGAT 研究調査部 千葉 弘幸

進化した自動組版と活用事例

DBなどを活用した一括処理や自動組版は、DTPが普及する以前、20~30年前から行われている。その時々のシステム環境や技術を取り入れ、さらにその時々のニーズに応じて進化を続けている。しかし、歴史があるから完成したとは言えない現実がある。つまり、印刷原稿やそのデータはいつの時代も完全ではなく、自動化によって校正の精度アップやミスの削減が進んだだけだとも言えるだろう。

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Web会議システムとウェビナーの普及

企業のテレワーク化が進み、社内会議や研修などでWeb会議ツールが活用されている。

これまで、遠隔地をつなぐ会議や研修などで利用された仕組みの代表的なものにテレビ会議システムがある。しかし、専用回線やビデオカメラ・集音マイク・大型モニターなどの機材が必要で、参加者はこれらが設置された会議室に集合しなければならなかった。また、ほとんどは映像・音声を通信するだけのシステムである。

現在、広く利用されているWeb会議システムは、インターネットに接続されたパソコン、またはタブレットやスマートフォンなどのモバイルデバイスさえあれば、容易に利用できるものである。場所を選ばず、自宅からでも問題なく参加できる。また、映像・音声の通信だけではなく、資料・アプリケーションの共有やチャット機能、録画・レポート機能も備えられている。
まさにテレワークに適したツールだと言える。

Web会議システムは、オンラインセミナー(ウェビナー)やオンライン授業のツールとして利用されることも多い。運営側は会場を準備する必要がなく、参加者は会場へ移動せずにどこからでも参加できるというメリットがある。
通常のウェビナーは、告知した日時に配信するリアルタイム型か、参加者の都合で視聴できるオンデマンド型のどちらか、または複合型で実施されている。

欧米では、ウェビナーにはコンテンツマーケティングの側面があると捉えられており、特にB2Bにおいて効果的だとされている。

製品やサービスに関して興味を引くような内容のウェビナーを企画し、SNSやメルマガなどを通じて、 広く開催を告知する。ウェビナーを通じて製品やサービスに関する理解や関心を深めるだけでなく、確度の高い見込み客を獲得することができる。参加者自身がウェビナーの内容や感想をSNS等で情報発信することも期待できる。会場が不要のため、低コストにて開催でき、遠隔地からの参加も数多く見込める。コンテンツは再利用することも、用途に応じて編集し2次利用することも可能である。
見込み客に実際に会える通常のセミナーとは別に、ウェビナーにはウェビナーのメリットがあると言える。

今後も、否応なくテレワークやオンラインセミナー・オンライン授業は定着していくだろう。また、ウェビナーを通じたコンテンツマーケティングも取り入れる企業が増えて行くと考えられる。

(研究調査部 千葉 弘幸)

DTPエキスパートからエキスパート・マイスター2本立てへ

DTPエキスパート認証試験は、2020年3月より学科試験だけのDTPエキスパート(以下、エキスパート)と、学科・実技の両方を受験するDTPエキスパート・マイスター(以下、マイスター)の2本立てとなった。そして、この3月に受験された方のうち、27名が晴れてマイスターに合格された。

DTPエキスパート・マイスターの意義

マイスターは、従来のDTPエキスパートと全く同じではない。

従来のエキスパートの実技課題は、完全な印刷データを制作することと、他者に作業を指示するための「制作指示書」を提出することが求められていた。言わば「制作現場のリーダー」に必要な知識と技能を測る試験であった。

それに対して、新たなマイスターの実技課題は、完全な印刷データを制作することに加え、制作意図を正しく理解しデザインに反映すること、制作意図を共有するための「制作コンセプト書」を提出することが求められている。つまり、「デザイン制作部門のリーダー」として知識・技能を測る試験である。

良いデザインとは何だろう。
見た目の印象が強いとか、形が美しいとか以前に重要なのは、クライアントの意図・伝えたい内容を正しく理解し、デザインを通して表現することではないだろうか。

DTPエキスパート・マイスターに合格するには

実技課題として配布される「実技試験要項」には、制作物の仕様や条件、提出物の内容などが記述されている。さらにテキストや画像などの素材データが支給されている。これらの情報から、制作コンセプトや仕様を理解し、制作用アプリケーションを操作して作品を仕上げることが求められている。

これらは一般的なデザイン制作の流れを踏襲したものであり、特別なことではない。日常的にデザイン制作に携わっている方なら、それほど難易度が高いものではないだろう。

初回のマイスター試験では、雑誌の見開き誌面を制作する課題が与えられた。
制作意図・コンセプトに応じて版面や縦組みの設定を行い、メイン写真とサブ写真、見出し類をレイアウトし、本文テキストを流し込む。写真にはキャプションを配置する。柱や図版類の色を設定する。写真類は、必要に応じてゴミを消したり、トーン調整、シャープネスをかけるなど作業を行う。縦組み特有の数字の組み方や約物を適切な形に修正し、ルビや圏点などを配置する。

マイスターに求められるのは、実技試験要項を読んで制作意図・コンセプトを正しく把握することであり、常識的なデザイン制作を通じて、それらを具現化することである。

例えば、DTP制作のベテランで、印刷に適したデータ制作は熟知しているが、デザイン・レイアウトや配色は自己流と言う方もいるだろう。基本に返ってデザイン手法の参考書などで知識を再確認してみてはいかがだろうか。

また、前回エキスパートに合格された方も、次のステップとしてマイスターに挑戦してみてはいかがだろう。

(JAGAT 研究調査部 千葉弘幸)

マルチチャネル活用によるVMCの認知・販売促進と継続的コミュニケーション施策のご提案

<次世代へと続く顧客のファン化を目指して>

※【第29期クロスメディアエキスパート 論述試験 】解答サンプル

◆【第29期与件:鋳物ホーロー鍋の製造・販売】クロスメディアエキスパート 記述試験

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(設問)下記は、あなたの所属するグループで使っている企画提案書作成の検討フォーマットである。与件文を読み、設問にしたがって各項目を記述しなさい。

[問1]【課題設定】
A社が顧客コミュニケーションにおいて取り組むべき課題を3件、優先度の高い順に記述しなさい。

(1)顧客との双方向型コミュニケーションの不足
強固なファン育成を目指す上で、生活者とコミュニケーションをとる機会が必須であり、現状ではそうした機会が不足している。
(2)他社との差別化
鋳物ホーロー鍋の主要ターゲットが他社と被っている。今後、工場見学や統合施設等の取り組みが控えていることから、そこにもマッチする新たなターゲティングが必要。
(3)ブランドの魅力の周知徹底
広まりつつはあるが、「メイドインジャパンの高品質」をより売り出すと共に今後控える施策の宣伝も必要不可欠である。

[問2]【ターゲット】
A社に提案する施策のメインターゲットとその理由を記述しなさい。

(ターゲット)
ファミリーをメインとする。料理好きで健康志向の高い家庭を想定。子供の年齢は一緒に料理を学ぶ小学生~独り立ちをする前の大学生まで。
(理由)
①主婦層をきっかけとし、次世代へ続く強固なファンを育成するため。
②他社との差別化を図りつつ、今後展開予定の施策にもマッチすると考えられるため。
③料理好きで健康志向な家庭には、貴社の強みが最大限発揮できると考えられるため。

[問3]【提案の骨格・方針】
下記の項目を記述しなさい。

(1)本提案における施策発信の中心となるメディアとその選定理由
[メディア]

Web広告、店頭POP(販売店舗・書店)、出版物、Webサイト(自社)、SNS、イベント
[選定理由]
Web広告、店頭POP :興味・関心の醸成のため。また、購入を考えている層が接触しやすいため。
[出版物、Webサイト(自社)、SNS、イベント ]:ブランドの認知や継続的なコミュニケーションをはかるため。

(2)メディアを通じて発信・訴求する主要コンテンツとそのねらい・意図
[コンテンツ]

①ブランドの魅力を押し出した商品・出版物・今後の施策の宣伝広告
②親子イベントの開催
③LINEによる親子の料理日記の投稿・出版化
[ねらい・意図]
①VMCのブランド・スローガンの周知を図り、直接的に購買を刺激する。
②ターゲットに対しVMCの良さを感じてもらう。今後の施策展開に誘導する。
③次世代へと続く購買を促進する。

(3)本提案の施策において複数メディア間の連携を誘導するしくみ  
[Web広告・店頭POP ]➡[商品の購入・利用、レシピ本の出版・購読 ] ➡[Webサイト(自社)、LINE、SNS、イベント ]➡[工場見学・統合施設]

(4)共有・拡散を促すしくみ
親子イベント開催にあたり、SNSでアカウント作成。親子で作れるレシピを配信する。また、親子イベントのPRをフォロー・共有した人に、抽選で「親子で作れるレシピ本」をプレゼントする。
親子イベント実施後、イベントの様子をライブレポートする(参加者の顔出しに関しては同意の上で)。

(5)A社の競合他社への差別化対策
・何度も受賞するような「メイドインジャパンの高品質」をアピールする。
・ターゲットを高級志向の主婦からシフトすることで、新たな購買層を創出する。
・LINE等を駆使した新たなコミュニケーションチャネルを活用することで、接触機会を増やす。

[問4]【提案する施策内容】
A社に提案する施策を3件にまとめ、記述しなさい。

【第1施策】 
[施策タイトル]
「店頭POP・Web広告においてブランドの魅力を押し出す商品・出版物・今後の施策の宣伝広告」
[施策内容・目的・効果など] 
< 目的 >
購入を検討している層や料理に興味を持っている見込み客層に対し、ブランドの魅力をアピールすることで購買を促進する。ブランドの認知を図る。
< 内容 > 
販売店舗では「手料理と暮らそう」「メイドインジャパンの高品質」をテーマに、モダンで上質なイメージの商品広告を掲げる。
また、「親子で作れるレシピ本」を出版することで、VMC自体や今後の施策の宣伝を行う。書店には出版物の宣伝POPの他、発売時には実物も展示する。本の帯には今後の展開を紹介。Webではレシピサイトをメインに製品・出版物の広告を出す。
< 効果 >
商品やレシピ本からVMCの魅力を知ってもらう。次の施策の足掛かりにする。

【第2施策】 
[施策タイトル]
「VMC親子料理イベントの開催」
[施策内容・目的・効果など] 
<目的>
製品を実際に使うことで、魅力を体感してもらう。親子の思い出作りに貢献することで「VMCのある暮らし」をイメージしてもらう。
<内容>
隔週末の1日2回開催。親子でVMCを使って料理をしてもらう。イベントの様子はSNSでライブ配信(個人情報には配慮)。
事前に参加希望者を募るほか、レシピ本の購入者やSNSのイベントPRを共有した方を抽選で招待する。
また、イベントのPRを共有した方の中から抽選でレシピ本をプレゼント。新製品のお試しや工場見学等のプレビュー招待も検討する。
<効果>
ファン化の一歩としてブランドの魅力を実感してもらう。不特定多数に拡散してもらう。

【第3施策】  
[施策タイトル]
「SNS(LINE)活用による親子料理日記の投稿・出版化」
[施策内容・目的・効果など]
<目的>
親から子へ、次世代へと続くファン育成のため
<内容>
LINEで公式アカウントを開設。
VMCを使ったレシピや感想、親子での写真等を利用者に投稿してもらう。
また、チャットボット等を採用。今日のオススメレシピの配信やQ&Aの応対を行うことで、利用家庭のレシピの困り事を解決し、VMCが生活に寄りそうことをアピール。
継続をしてもらう工夫のひとつとして投稿された写真やレシピをアルバムにしてパーソナルプリントし、抽選でプレゼントする。
<効果>
VMCが生活の一環であることを体感してもらい、次世代のファンを育成し続けていく。

[問5]【実行スケジュール】
施策の実行スケジュールを記入しなさい。

[問6]【概算見積】
施策の概算見積を記入しなさい。

          項 目金額(万円)
 要件定義・設計 350
 店頭POP(デザイン・印刷含む)200
 Web広告 (デザイン・印刷含む) 350
 レシピ本450
 SNS運用300
 親子イベント  450
 LINE400
          合 計 2,500

[問7]【タイトル】
提案書のタイトル(およびサブタイトル)を記述しなさい。

マルチチャネル活用によるVMCの認知・販売促進と継続的コミュニケーション施策のご提案
~次世代へと続く顧客のファン化を目指して~

[問8]【序文(挨拶)】
提案書の序文を「ですます調」で記述しなさい。

この度は、貴社事業に関するご提案の機会をいただき、誠にありがとうございます。貴社は「世界最高の品質にこだわることが、日本のモノづくりとしての誇り、職人の誇り」を理念とし、業績を伸ばしてこられました。貴社が新たに参入した鋳物ホーロー鍋市場には既に競合他社が日本でのシェアを拡大しており、今後ますますの競争激化が予想されます。
しかしながら、貴社の製品であるVMCは、これまで数々の賞を受賞しており、その製品力の高さは他社を圧倒する大きな強みであると認識しております。
本提案では、そうした強みを活かしながら、ターゲットのシフト、それに合わせた出版物の制作・イベントの開催・コミュニケーション施策の実施を通して、VMCの認知・販売促進や顧客のファン化等、貴社事業の発展に寄与します。

[問9]【施策の総合的効果】
問4に記述した施策のまとめとして、下記項目を記述しなさい。

[自社(X社)の強み・X社を採用する意義]
・ A社と過去に取引をした実績があり、スムーズな対応が可能です。
・企画~運用までフルサポートでき、製作にも一貫性があります。
・週単位でレポートし、メディア展開の効果を細かく測定できます。

[施策内容の総合的な効果・まとめ]
・ターゲットを既存顧客+αとすることで、他者との差別化をはかりながら、新たな顧客層を開拓できます。
・出版物の制作やイベントの開催を通じて「VMCのある暮らし」の定着を図れます。
・LINEや他のSNSを活用することで共有・拡散を促すほか、継続的で双方向型のコミュニケーションを実現できます。

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【作成者】 M.K (大日本印刷株式会社)

【コメント】
各メディアの特性を活かした総合的なプロモーションをいかに論理的に展開できるかが鍵だと思います。
勉強法としては、ボリュームのある答案を短い時間内に書ききれるように練習しておくことをぜひお勧めしたいです。
企画提案力や論理的構成力、タイムマネジメント等が身につく良い機会になったと感じています。

第29期クロスメディアエキスパート論述試験の出題意図と講評

第29期クロスメディアエキスパート認証試験は、2020年3月15日(日)、東京・大阪など全国4会場で実施された。第2部論述試験は、架空の企業に関する与件文を読み、顧客の課題を解決するコミュニケーション戦略提案書の内容を記述するものである。

鋳物ホーロー鍋製造販売企業への企画・提案

テーマは、「鋳物ホーロー鍋製造販売企業への企画・提案」である。
提案先は、かつて工業用部品の下請け鋳造を主体とする企業であった。海外企業との競合が厳しくなったため、精密加工技術を活かしたオリジナル製品の開発を模索し、鋳物ホーロー鍋の製造販売へと転身した。

欧州製の鋳物ホーロー鍋は、高価ながら料理ファンや料理専門家に支持されている人気商品である。
提案先の企業は、高度な精密加工技術によって無水調理が可能なホーロー鍋を世界で初めて製品化し、大ヒットとなる成功を収めた。
今後も、製品群の拡充に加え、さらなる認知度アップやブランド浸透を図りたいと考えている。無水調理の特徴を活かした料理レシピや美味しさを幅広く知ってもらいたい。工場にショールームを併設し、工場見学や無水調理の体験コーナーへの集客を通じて、より多くの人に鋳物ホーロー鍋の魅力をアピールし、ブランドを浸透させたいと考えている、という設定である。

そのためにはどのようなコンテンツを用意し、どのようなキャンペーンを行うべきか。SNSや動画配信をどのように活用するか。
これらを提案書の要素として記述することが求められている。

新解答方式のポイントと採点基準

以前の論述試験はフリー形式で提案書全体を記述するものだった。2019年8月の前回試験より、提案書の要素を所定のフォーマットに記述するという設定に変更されている。
すなわち、「課題設定」「ターゲット」「提案の骨格・方針」「施策内容」「スケジュール」「概算見積」「タイトル」「序文」「施策の総合的効果」という項目で設問されている。
どのような意図でどんなコンテンツを用意するか、共有・拡散を促す仕組みは何か、競合他社との差別化などを記述することが求められている。複数メディアの連係を記述せよという設問は、カスタマージャーニーマップの内容を問うものである。

講評

施策内容としては、無水調理の特徴を活かしたレシピをコンテンツとして、その魅力を発信する、レシピコンテストを開催するものなどの解答が多かった。
例えば、ある答案ではファミリー層にアピールするための親子料理イベントの開催やSNS上で親子料理日記の投稿・出版化などが挙げられていた。他には、オリジナルレシピコンテストや調理方法の動画配信を通じてファン育成を図ること、料理愛好家の男性をターゲットにしてSNSでの投稿を促すこと、工場見学やショールームの体験レポートを集めることが記述された答案もあった。

実行スケジュールや概算見積は、表形式のフォーマットに記述する形式となっている。スケジュール項目と見積項目が一致していなければ、見積の信頼性や妥当性に欠ける印象があり、減点となってしまう。

印刷物の製作は、多くは依頼や相談があって実現方法を考えるという典型的な受注ビジネスである。それに対してクロスメディアビジネスは、自ら企画・提案することで顧客の課題を解決する能動的な行動が要求される造注ビジネスだと言える。

この論述試験では、限られた時間内に与件文を読み、提案先企業の状況や市場環境や課題を読み取り、その上で効果的な施策や方針をまとめることが求められる。
しかし、どのようなコンテンツを用意し、どのようなメディアを通じて発信するか、生活者への共有・拡散をどのように実現するかなど、基本的な企画・提案力があれば、難しい問題ではないはずである。
「デジタル×紙×マーケティング」ビジネスを推進し、顧客の課題を解決する道を探るためのトレーニングとして、この試験を活用してもらいたい。

(JAGAT 資格制度事務局)

【鋳物ホーロー鍋の製造・販売】第29期クロスメディアエキスパート 論述試験(与件)

(6/23)『クロスメディアエキスパート論述対策講座』(オンライン同時開催)

【鋳物ホーロー鍋の製造・販売】第29期クロスメディアエキスパート 論述試験(与件)

状況設定

あなたは、首都圏にある中堅総合印刷会社のX社に勤務するクロスメディアエキスパートである。X社は、商業印刷物やSP企画・制作、Webサイトの構築・運用のサービスを顧客企業に提供している。X社にはデザイン制作、およびWebコンテンツや映像・動画の企画制作を専門とする系列子会社があり、グループ総従業員数は約270名である。

A社提案プロジェクト

鋳物ホーロー鍋を製造・販売するA社は、X社が過去に取引を行った顧客企業である。同社のチラシ・パンフレット製作やWebサイトの一部を手がけた実績もある。
営業担当者より「A社は生活者との新しいコミュニケーション戦略を検討している」との報告があった。そこでX社では、営業部門や企画部門、制作部門に所属する数名で、A社提案プロジェクトを立ち上げることになった。クロスメディアエキスパートであるあなたは、本プロジェクトのリーダーを任命された。
X社は本プロジェクトにて提案書を作成し、2020年3月30日にA社へ提出する予定である。

面談ヒアリング

A社について調査を進めたところ、X社の競合企業Y社がインターネットやSNSを活用した企画提案を行う準備をしているとの情報が入った。X社では、営業担当者が中心となり、社長と副社長(兼戦略広報本部長)との面談(※ヒアリング報告書参照)を実施した。
A社は、コミュニケーション戦略を立案するにあたり、社外からの優れた提案を取り入れ、実施を検討する方針である。

2020年3月10日

A社ヒアリング報告書

X社 営業部 第一課  河合 真人

概要    A社からの提案依頼に伴う、ヒアリング調査
日時    2020年3月5日 12時~14時(調理デモンストレーションと試食を含む)
対応者  水嶋和生社長、水嶋芳生副社長(戦略広報本部長 兼務)
内容    下記に記載

1. 提案へ向けて

  • A社は織機メーカーとして創業後、工業用の鋳物を製造する下請け工場に転じた。その後、高い精密加工技術で独自ブランドの鋳物ホーロー鍋の開発に成功した。生活者との接点やPR経験のなかったA社は、PR専門の会社に業務委託し、認知度向上・ブランドロイヤリティの最大化という成果を上げ、販売を軌道に乗せることができた。
  • しかし、副社長管轄の「戦略広報本部」を設置したのを機にPR会社とは再契約せず、自社主導でPR戦略を立て推進する方針である。
  • 今後も新たに料理を始める人、新たな料理に挑戦したい人たちがいる。このような人々への訴求を継続したい。
  • 2020年秋に工場見学を開始、2021年秋にはレストランやパン工房を含む総合ショールームをオープンする予定である。それまでにファンの拡大と関係性を構築したい。
  • 新たに生活者とのコミュニケーション手法を確立し、継続的なプロモーションの実現を模索している。それに伴うコンテンツやメディア展開案を求めている。

2. 施策の運営と実施効果測定

  • 月単位でメディア展開の実績を確認したい。
  • 可能な範囲でメディア利用者のレスポンスを把握し 、厳選して活用したい。
  • A社のメディア展開担当者は、戦略広報本部の運営部を中心に2名を予定。

3. 想定予算

  • 印刷、Web制作費、ハードウェア、ソフトウェア、開発費などで、総額2,500万円以内を想定(初期費用のみ。サービス開始後の維持費は別途算定として構わない)

4. 施策の実施期間

  • 2020年4月に業者選定。5月に要件定義と設計、6月~10月に準備、10月1日に一部施策開始、11月~翌3月末が本施策。全1年。2月に結果を評価し、翌年度計画を立てる。

5. 鋳物ホーロー鍋の市場動向

  • 鋳物(いもの)ホーロー鍋とは、金属を加熱し溶かしたものを型に流し込んで作られた鋳物にホーロー加工(ガラスを焼き付けてコーティング)した鍋である。
  • 保温性に優れ、ムラなく食材全体に熱が伝わるため、煮込み料理に最適である。時間をかけて煮込むようなカレーやシチュー、豚の角煮などをおいしく作ることができる。
  • フランスには高級鋳物ホーロー鍋の有力メーカーが3社あり、日本でも市場を拡大している。赤・青・オレンジ等のカラフルなデザインが特徴で「長時間調理でも煮崩れない」と、料理好きやこだわり好きの主婦に人気がある。
  • 上記高級ブランドの鋳物ホーロー鍋(22cmサイズ)は3万円前後と高価だが、結婚祝いでも人気が高い。1万円以下で購入できる鋼板ホーロー鍋は、軽く扱い易い半面、保温性に乏しい。
  • 鋳物ホーロー鍋は、各社特徴があるとともに料理の作り方が変わってくる。「煮込み料理がおいしく作れる」といっても、手順、火加減、水加減、調味料のさじ加減は各ブランドによって異なる。各ブランド鍋に合わせた、さまざまなレシピ本が販売されている。
  • プロの料理家・料理研究家・フードコーディネータなどのレシピを集めたWebサイトがあり、特定のブランド鍋を想定したレシピとコラムが発信されている。

6. A社の創業と事業モデルの変遷

  • A社は現社長の祖父、水嶋壮太郎が1936年に愛知県で創業した織機メーカーだった。
  • 1983年に現社長の父、水嶋昌平が二代目社長に就任した。その後、繊維産業の衰退に伴い、船舶やクレーン車に使われる精密部品を製造する下請け工場に転換した。
  • 2000年代に入ると精密部品の下請け工場は海外に仕事を奪われ、業績が悪化した。
  • 大手商社出身の長男、水嶋和生(現社長)と自動車メーカー出身の次男、芳生(現副社長)が相次いで入社。兄弟で現場の職人として技術を学びつつ、経営の再建を図った。
  • 発注元からの再三の値下げ要求に直面し、下請け工場の限界を痛感。技術力はあっても発揮できる場は少なく、独自商品を開発して新たな事業の柱にしたいと考えた。
  • 弟がたまたま立ち寄った書店で、フランス製の鋳物ホーロー鍋を紹介する書籍を見つけ、「同じ鋳物ならば自分たちにも作れるのではないか」と調査を始めた。また、密閉性が高く無水調理のできる「ステンレス+アルミ鍋」は、素材の自然な旨味を引き出す効果があり、評価が高いことも分かった。
  • 精密加工技術を保有する自分たちが高い密閉性を持つ鋳物ホーロー鍋を作れば、人気と評価の両方を獲得できると考えた。
  • 2010年より、「世界一の鋳物ホーロー鍋を作る」という目標を掲げ、1/100mmの精度を追求するモノづくりを開始。その後3年間に1万個の試行錯誤を繰り返し、満足いく鋳物ホーロー鍋、製品名「VMC」を完成させた。
  • 「VMCで初めて無水調理した料理を食べた時の感動は忘れられない。野菜本来の甘味とコクが広がる、今までの概念をくつがえす味わいだった。VMCというモノを売るのではなく、VMCで出会える体験を広めるために鍋を売るのだと感じた瞬間である」(副社長談)
  • 主力商品の価格設定は、高級ブランドと同じ3万円。高級ブランド確立のためセールは行わない。ターゲット層は同様の高級ブランド鍋を比較購入してくれる人たちである。

7. VMCのブランドの構築と販促

  • 目標は世界一の鍋ブランドの確立。知名度ゼロからの新市場創造。
  • これまで生活者向けの製品販売の経験はないため、マーケティングやメディア戦略に関しては外部に任せた方が良いと判断し、専門のPR会社に委託した。
  • 同社と2年の長期契約を3回締結した。初年度は3000万円、次年度以降に年間2000万円もかかるのだが、専属社員を数名雇うよりも良いと考えた。
  • ブランド構築の第1フェーズとして、著名な料理専門家や料理ブロガー、工夫好きな主婦といったイノベーター層へアプローチ。招待制の料理勉強会等を開催した。彼らのブログ記事等によって、商品の良さ・魅力を発信してもらうことに成功し、主婦層に向けた信頼感を醸成した。
  • 第2フェーズでは、VMCの認知を最大化するため、料理ブロガーの記事やクチコミを元にWebメディアへアプローチした。さらに、テレビの生活情報番組などへのメディアプロモートを展開した。
  • 第3フェーズでは、「高い技術力で生み出したメイド・イン・ジャパンのホーロー鍋」として、ビジネス系媒体にアプローチ。企業ストーリーやVMC開発のストーリーを伝えることで、ブランドロイヤリティの強化を図った。結果的に主婦層の後押しをする男性にもアプローチできた。

  (主な掲載事例)

   【Web媒体】「日経トレンディネット」「オールアバウト」他

   【テレビ】「スーパーJチャンネル」「ヒルナンデス!」他

   【雑誌】「LDK」「オレンジページ」「男子キッチン」他

   【ビジネス系メディア】「東洋経済Online」「現代ビジネス」他

  • 「キッチンオブザイヤー部門別優秀賞」「ニッポン新事業創出大賞の中小企業庁長官賞」「百貨店バイヤーズ賞のベストセラー賞」「グッドデザイン賞」を受賞。
  • 「無水調理」といった料理トレンドが受け入れられ、Web~マスメディアへ継続的な露出を獲得。
  • Twitterでは「#VMC男子」というハッシュタグで、VMCで作った料理を写真付きで投稿している男性が出てきた。レストランでは味わえない感動が投稿されている。
  • 「#VMC男子」の投稿を見て新たなファンがVMCを購入し、その料理投稿が増えるという循環が起きている。このようにVMCは男性ファンも多い。
  • ブログ投稿には「VMCは料理が苦手な私を補助してくれる」と、当初想定の料理マニアだけではなく、料理が苦手な人にも好評であることがわかってきた。

8. VMCの販売チャネルとA社業績の推移

  • 発売当初はAmazonや楽天市場などECサイトを通じた販売をメインとしていた。その後、4~5年の間に自社Webサイトの整備を進め、オンラインショッピングを行うサイト「vmc.jp」を構築した。製品ガイドや開発ストーリーの紹介、製品サポートも行っている。
  • 上記と並行して家電量販店、百貨店やショッピングモールのキッチン雑貨販売店などへ販路を拡大していった。フランス製ホーロー鍋の取扱店であれば、ホーロー鍋の魅力を理解しており、同等以上の品質や価値があることを認知してもらいやすい。
  • 発売3年目頃より「密閉性の高い高級ホーロー鍋」の認知が進み、売上が急増した。
  • 購入後に会員登録してもらい、マイページを表示するしくみがある。
  • 2019年現在で総売上の80%以上をVMC関連製品で占めるまでとなった。
  • 現在のホーロー鍋の製品構成は、円形(14cm、18㎝、22㎝、26㎝、26㎝浅底)、楕円形(17cm、23cm、27cm)である。
  • 贈答用などのためにネーミング(名入れ)サービスを行っている(3千円、税別)。数字アルファベットなど、最長11文字までを刻印することができる。
  • ホーロー鍋製品には、16ページのレシピブック(非売品)を同梱している。

9. A社の競合

  • もともと、フランスの老舗「鋳物ホーロー鍋」メーカー3社が日本で各社のシェアを拡大していた。ホームパーティなどのシーンをおしゃれに演出する「魅せる調理器具」として人気を得ている。
  • 競合各社は著名な料理研究家を招き、調理デモンストレーション付き試食会という有料イベントをショールームにて開催している。また、大手百貨店キッチンスタジオの定期イベントとして、メーカー派遣のデモンストレーターによる料理教室を行っている。
  • 競合メーカーの顧客には、ブランドに愛着のある人が多い。製品のシリアル番号とともに会員登録することで一定の保証が提供されるため、高い登録率を誇る。
  • 鋳物ホーロー鍋は高価なため、サイズ違いの鍋を徐々に追加購入していく人が多い。フランスのC社はカラーやサイズバリエーションが豊富で、新色や新サイズを発売する際に既存顧客にメールで発信している。

10.  今後の方針

  • 長期契約したPR会社に戦略および施策を任せてきたが、今後は自社主導で戦略を立て、広報・PRに取り組みたい。
  • VMCでは、無水調理でも他社の鋳物ホーロー鍋と若干違うレシピで作る。まだレシピが少ないため、これを増やし、VMCの購入者に周知したい。
  • 複数の出版社からレシピ本出版のオファーがある。人気の出る秋頃に向け、出版物による認知拡大とPR施策を実施したい。
  • 新製品としてIHクッキングヒーターを装備した火加減自動調整のVMC炊飯鍋や、魚料理がしやすい楕円形の鍋、サイズ展開の拡充、カラーバリエーションを計画中である。これらの情報を伝え、継続的なファンになってもらいたい。
  • 2020年より工場見学を実施する。A社の技術と品質へのこだわりを感じて、新たなVMCファンが生まれる場になることを期待している。
  • 2021年には、VMC鍋やVMCの世界観に合う食器を並べたショールームをオープンする。敷地内にVMC鍋でもてなすレストランを設置、またVMC鍋で焼くパン工房とできたてパンを販売する統合施設とする。その前にファンを拡大させておきたい。
  • 食や健康に関するニーズは不朽のものと考えており「手料理と暮らそう。」をVMCのブランドスローガンとした。メッセージとして「VMCを使えば料理が美味しくなり、しかも栄養が失われにくい」ことを広めていきたい。
  • 今後の具体的な施策としては、厳選レシピサイトやアプリ、レシピコンテスト、料理や工場見学の写真コンテスト、調理日記などが考えられる。また、もっと異なる施策でも構わない。
  • 目的としては、強固なファンを作り上げること、そしてVMCが好きなファンが自らの言動でそれを伝え、その行動が新たなファンを作り出す。これが循環するサイクルを作り上げたい。これらを満たす、バランスのよい提案が欲しい。
  • 今後も、新たに料理を始める人、新たな料理に挑戦したい人たちへの訴求を継続していきたいと考えている。 

A社の概要

【基本情報】

  • 法人名       愛知ブイ・エム・シー株式会社(略称:A社)
  • 設 立       1936年
  • 従業員       250人
  • 資本金       2千万円
  • 売 上       23億5千万円(2019年3月期)
  • 所在地       愛知県名古屋市中川区高畑町
  • 役 員       水嶋和生 社長、水嶋芳生 副社長(兼 戦略広報本部長)
  • 事 業       鋳物ホーロー鍋「VMC」の製造・販売、精密部品の鋳造
  • 工 場       愛知県名古屋市中川区高畑町、愛知県名古屋市中川区辰巳町
  • 主要取引先   日本全国の百貨店・家電量販店、アマゾン、自社ECなど

【企業沿革】

  • 1936年       初代(水嶋壮太郎)が愛知県で織機メーカーとして創業。
  • 1983年       2代目(水嶋昌平)社長就任。繊維産業の衰退に伴い、船舶やクレーン車に使われる精密部品の鋳造(下請け)工場に転換。
  • 2000年~     精密部品の鋳造は海外に仕事を奪われ業績が悪化。
  • 2011年       現社長 水嶋和生(37歳)社長就任
  • 2013年       鋳物ホーロー鍋「VMC」発売
  • 2016年       キッチンオブザイヤー・部門別優秀賞を受賞、ニッポン新事業創出大賞で中小企業庁長官賞を受賞
  • 2018年       百貨店バイヤーズ賞リビングでベストセラー賞を受賞
  • 2019年       グッドデザイン賞 特別賞「ものづくり」を受賞

【経営理念】

  • 「世界最高の品質」にこだわることが、日本のモノづくりとしての誇り、職人の誇り
  • 開発は「マーケティングありき」
  • 技術で「料理の作り手と味わう人に感動を届ける」

【経営者プロフィール】

代表取締役社長 水嶋和生(みずしま かずお)(1974年生まれ、46歳)
学 歴 :1996年 大学卒業
職 歴 :1996年 大手商社にて為替ディーラーを務める
     2001年 祖父が作ったA社に入社し3代目として家業を継ぐ
     鋳造技師の資格を持つ技術者でもある。
家族構成:独身
モットー:時流に乗りながら、テクニックにこだわる
趣味     :ドライブ、キャンプ(グランピング)、料理

取締役副社長 水嶋芳生(みずしま よしお)(1977年生まれ、43歳)
学 歴 :1999年 大学卒業
職 歴 :1999年 大手自動車メーカーに入社。原価企画に携わる
     2006年 兄和生の要請に応えてA社に入社。
     精密加工技術を習得し、VMC全製品の製品開発を主導する
家族構成:妻、息子
モットー:モノづくりとしての誇りとこだわり
趣味     :クルマ、カメラ、写真撮影、料理     

【A社損益計算書】

決算年月2018年3月2019年3月
売上高2,249,3642,354,274
売上原価1,395,6761,443,462
売上総利益853,688910,812
販売費及び一般管理費658,238674,182
営業利益195,450236,630
営業外収益6,9447,182
営業外費用4,0965,294
経常利益198,298238,518

(設問)与件文を読み、設問にしたがって各項目を別途配布された解答用紙に記述しなさい。

[問1]【課題設定】

A社が顧客コミュニケーションにおいて取り組むべき課題を3件、優先度の高い順に記述しなさい。

[問2]【ターゲット】

A社に提案する施策のメインターゲットとその理由を記述しなさい。

[問3]【提案の骨格・方針】下記項目を記述しなさい。

(1)本提案における施策発信の中心となるメディアとその選定理由
(2)メディアを通じて発信・訴求する主要コンテンツとそのねらい・意図
(3)本提案の施策において複数メディア間の連携を誘導するしくみ
(4)本提案の施策において共有・拡散を促すしくみ
(5)A社の競合他社への差別化対策

[問4]【提案する施策内容】

A社に提案する施策を3件にまとめ、記述しなさい。

[問5]【実施スケジュール】

施策の実施スケジュールを記入しなさい。

[問6]【概算見積】

実施内容に即した概算見積を記入しなさい。

[問7]【タイトル】

提案書のタイトル(およびサブタイトル)を記述しなさい。

[問8]【序文(挨拶)】

提案書の序文を「ですます調」で記述しなさい

[問9]【施策の総合的効果】

問4に記述した施策のまとめとして、下記項目を「ですます調」で記述しなさい。
[自社(X社)の強み・X社を採用する意義]
[施策内容の総合的な効果・まとめ]

『ロウソクの科学』とデジタル印刷

出版市場が低迷しており、オフセットで大量に印刷して書籍のコストを下げ、大量に販売するというモデルが通用しにくくなっている。
一方でデジタル印刷が進化し、出版分野でも積極的に利用されるケースが増えている。例えば、在庫を持たないオンデマンド出版や極小ロット重版のようなフレキシブルな生産方式が増えつつある。

『ロウソクの科学』と緊急重版

2019年10月、リチウムイオン電池発明の功績によりノーベル化学賞を受賞した吉野彰博士が、自分の原点は『ロウソクの科学』という本であるとコメントし、話題となった。

KADOKAWAは、その翌日に『ロウソクの科学』(角川文庫)、『ロウソクの科学 世界一の先生が教える超おもしろい理科』(角川つばさ文庫)の緊急重版を決定し、プレスリリースやSNSを通じた広報活動を行った。メディアでも取り上げられ、書店からは注文が殺到したという。

そして自社のデジタル印刷機器で印刷・製本し、2営業日で書店に並べた。その結果、重版累計10万部を販売したとのことである。

 角川文庫『ロウソクの科学』緊急重版2万部決定

(※KADOKAWA 2020年3月期 第2四半期決算説明資料より)

話題性の一番高いタイミングで緊急重版を決定し、発表した。さらに、通常10営業日以上のところ、わずか2営業日で製造・出荷した。これらは、自社内にデジタル印刷設備(輪転式大型インクジェット機)を保有するKADOKAWAならではの動きと言える。この事例のようなスピード感のある出版活動は、今後の参考となるのではないか。

小ロット出版とデジタル印刷

出版社が自社内にデジタル印刷設備を持つことは、資金面や人材面など容易ではない。生産設備を持つということは、機器を維持管理し、書籍を製造するだけでなく、資材の調達や保管、品質管理、梱包・発送などの業務を遂行することになる。
むしろ、印刷会社がそのような部分を代行し、スピード感のある出版活動を支えていくことの方が現実的だと考えられる。

また、『ロウソクの科学』は文庫という体裁であり、版型や用紙などの仕様が標準化されていたために、緊急重版がスムーズに実現したのではないか。つまり、出版分野でデジタル印刷を効果的に利用するには、仕様の統一などある程度の制約が伴うという側面もある。

書店・流通など出版界では、高い返本率が収益を圧迫しており、大きな課題となっている。デジタル印刷の活用がそのような課題を解決するキーになると考えられる。

(JAGAT 研究調査部 千葉 弘幸)

 

「デジタル×紙×マーケティング」の実践力を磨く

先般のpage2020は「デジタル×紙×マーケティング for Business」をテーマとして開催し、たいへん多くの来場者を迎え、盛況のうちに終えることができた。カンファレンス・セミナーも過去最高の参加者を数えた。「印刷物の価値を高めるために何をすべきか」というヒントを見つけた方も少なくないだろう。

中でも基調講演1では「デジタル×紙×マーケティング」を実践している事例として、札幌圏のキャッシュレス決済のデータを集めて分析し、エリアプロモーションに活用した活動が報告された。人の流れと購買データを掛け合わせることで地域経済を活性化し、新たな印刷需要を生み出す仕組みを実現しているという。

「デジタル×紙×マーケティング」を一言で言い換えると、デジタルと紙を「良いとこどり」して、顧客のマーケティング活動に貢献することである。

それを実現するには、顧客が考えているマーケティングとはどういうものか、デジタルの強みと紙の強みとは何か、まず知識として身に着けなければならない。さらに、実際に「デジタル×紙×マーケティング」ビジネスをスタートするは、企画・提案力が重要となる。
つまり、このようなビジネスは相談や依頼があって始まる受動的ビジネスではなく、自ら企画・提案することで始まる能動的ビジネスである。能動的に取り組むことができなければ、ビジネスは始まらないし、他社と差別化することもできない。

クロスメディアエキスパート認証試験を通じた学習

JAGATでは、「デジタル×紙×マーケティング」の実践力を磨くために、クロスメディアエキスパート認証試験を実施している。

ここでは、最新のデジタルマーケティング知識を含めた「マーケティング」、デジタルの強みと紙の強みを把握しているかどうかを問う「メディアとコンテンツ」、デジタルメディアで表現するための「デジタルメディア技術」の3分野に関する知識が問われる。

また、第2部の論述試験は、架空の企業に関する与件文を読み、コミュニケーション戦略の提案書を作成するものである。制限時間内に与件文を理解し、一人で解決策を考え、企画・提案として整理する能力が求められる。

したがって、この試験に取り組むことで、「デジタル×紙×マーケティング」を実践するための基礎的な知識や理解力、企画・提案の実力を習得することができる。

2019年8月のクロスメディアエキスパートの論述試験は、「富士山麓の観光牧場」をテーマとした出題であった。

ファミリーや若者向けに自社の乳製品ブランドを浸透させ、来場者を増やすにはどのようなメディア、コンテンツを用意すべきか。SNSや動画配信をどのように活用するか。来場促進イベントとして何ができるか。これらを提案書の要素として記述することが求められる。

実際の答案には、ファミリー層にアピールするための「牧場祭り」「マスコット牛の選挙」などのイベント開催、WebサイトやSNSを通じた動画発信、クーポンの発行など通じて、認知度を高め、来場促進を図る施策などを記述したものが多かった。顧客から見て、「やってみたい」と思える期待感のある提案内容が多くなっている。

クロスメディアエキスパート認証試験を通じて学習することが、「デジタル×紙×マーケティング」の実践に役立つことは疑いないと言える。

(研究調査部 千葉弘幸)

※クロスメディア 記述試験 【過去問題と解答例】

小売り・流通業における「デジタル×紙×マーケティング」と店舗販売の課題

キャッシュレスやスタッフレスなど、店舗の現場では大きな変革が進行している。人手不足や働き方改革など課題も山積している。
また、顧客コミュニケーションの面ではオムニチャネル志向が進展し、DMはがきや電子チラシ、SNSの活用も増えている。

page2020カンファレンス「流通小売における次世代販促と業務改善 <デジタル×紙×マーケティングの実践と店舗販売の課題>」では、 2020年のオムニチャネル・リテーリングとして、 小売り・流通業の最前線や店舗の現場で何が起きているかを、今後の解決策について議論をおこなう。

例えば、「移動販売」は高齢者などネットスーパーではカバーできないニーズのために、取り組みを始めたと言う。しかし、高齢者とは言え大半が キャッシュレス支払いだと言う。オムニチャネルの進展や販促手法、チラシ戦略などについて、ダイエーの吉岡氏に語っていただく。

出典:ダイエー:ニュースリリース

ダイエー/横浜市で「移動販売」開始(2019.11.11 流通ニュース)

また、近年、日本の味噌はヘルシーな発酵調味料として海外からも注目されている。味噌やこうじ製品からフリーズドライ味噌汁など、製品構成も多様化している。
国内有数の味噌メーカーであるハナマルキの平田氏には、現在のマーケティング戦略やブランディング戦略、さらにヒット商品「液体塩こうじ」「透きとおった甘酒」について解説していただく。

スーパーやコンビニなど店舗の現場で、実際の売り上げ構成を左右するのは、商品の陳列手法である。かつては、個人の勘と経験に左右されていたが、現在では棚割マネジメントソフトウェアを使用し、マーチャンダイジング、取引先や発注システムとのデータ連携に活用することが一般的となっている。
サイバーリンクスの牛見氏には棚割マネジメントから見える小売業・店舗の課題と解決策について解説していただく。

小売り・流通業における「デジタル×紙×マーケティング」の最前線や店舗販売の課題から、何が見えてくるのか。今後のマーケティング手法や販促戦略にどのような影響があるのか。最前線の当事者である方々に議論してもらう。

(JAGAT 研究調査部 千葉 弘幸 )

2月7日(金) 15:45~17:45
【CM4】流通小売における次世代販促と業務改善 <流通小売におけるデジタル×紙×マーケティングの実践と店舗販売の課題>