第2次世界大戦後のポーランドを舞台として活躍したヤン・レニツァの功績をたどる「ポーランドの巨匠 ヤン・レニツァ ポスター、アニメーション、イラストレーション、舞台」がギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催された。その概要を紹介する。
ヤン・レニツァ(Jan Lenica 以下、レニツァ)は1928年にポーランドのポズナン1 で生まれた。第2次世界大戦前後の複雑なポーランド情勢2 を目の当たりにしつつ1947年にワルシャワ工科大学に入学して建築を学び、1952年に卒業。並行して1945年から風刺画の創作活動を開始し、やがて映画および舞台の告知ポスターを制作するようになる。
さて、当時のポーランドは政治・経済とともに文化・芸術面でもソビエト社会主義共和国連邦(以下、ソ連)の影響下にあったが3 、この風潮に対抗して自由な表現を推し進める「ポーランド派」と呼ばれる芸術が生まれ、レニツァもその一翼を担った。ポスターのほかに舞台デザイン、絵本、論文などでも活躍し、さらに1957年からはアニメーションフィルムの創作にも取り組み、実験的な作品を発表した。
だが、1963年にはパリに移住し、以降はポーランドを離れて生活することとなる。1966年に開催された第1回ワルシャワ国際ポスタービエンナーレにおいて、アルバン・ベルク作のオペラ『ヴォツェク』のポスターが文化イベントポスター部門の金賞を受賞。

一方、創作活動と並行して1974年からはアメリカのハーバード大学で教壇に立ち、1979年~1985年にドイツのカッセル芸術大学アニメーションフィルム学部長、1986年~1994年にベルリン芸術大学教授を務め、2001年にベルリンで永眠した。
2026年2月12日(木)~3月26日(木)にギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催された「ポーランドの巨匠 ヤン・レニツァ ポスター、アニメーション、イラストレーション、舞台」では、レニツァが残した作品の中から約170点が紹介された。以下では、その一部を分野別に紹介していきたい。
映画・舞台のポスターと舞台デザイン
レニツァが制作した映画・舞台のポスターの特徴は、作品の一場面などを素材とするのではなく、独自に描いたイラストを全面的に配置することで、作品のテーマを象徴的に表現している点にある。うねるような曲線や鮮やかな配色などを多用して紙面を大胆に構成しており、手描きによる描写はもちろん、異なる素材を貼り合わせたコラージュや、素材の一部を切り抜いたカットアウトなども制作手法に取り入れ、斬新な表現を追求した。
映画ポスターでは、ロマン・ポランスキー監督『水の中のナイフ』などのポーランド作品のほか、フェデリコ・フェリーニ監督『道』や大島渚監督の『愛のコリーダ』など海外作品のポーランド版ポスターも展示。
舞台では前述の『ヴォツェク』をはじめヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト作のオペラ『ドン・ジョヴァンニ』、ウィリアム・シェイクスピア作の演劇『オセロ』『マクベス』など多彩な演目のポスターが展示された。また、舞台デザインに関わる作品として、舞台美術や舞台衣装のデザイン画の展示も行われた。
アニメーション
1秒当たりのコマ数を制限するリミテッドアニメーションの手法を用いて、全体を動かすのではなく、例えばキャラクターの身体の一部だけを動かすことで、コミカルでシュールなアニメーションを実現している。ストーリーも特徴的で、日常生活の中に突然不思議な生き物や機械が現れて攻撃されるといった不条理な世界を描くなど社会風刺を感じさせるものとなっている。会場では監督作品の中から『ハウス』(ヴァレリアン・ボロヴツィクとの共作)と『ラビリント』の2作品を上映するとともに、映画の場面を描いたアートワークも多数展示された。
雑誌・書籍の挿絵
雑誌や書籍などに用いられた挿絵の原画も多数展示された。風刺画として1940年代後半から1950年代にかけての作品が紹介されており、例えば「哀しい話」は、簡潔ながらも皮肉を交えた表現が特徴であった。

また、ユリアン・トゥヴィム作『機関車』やゲルダ・ワグネル作『ホッキョクグマのティモ』など、絵本のためのイラストレーションが展示されていた。これらはポスターやアニメーションの斬新な表現とは異なり、柔らかで温かみのあるタッチで描かれていることから、レニツァの表現の幅広さを知ることができた。
そのほかにも、展覧会のポスターをはじめ作品の構想を練るために使っていたスケッチブックなども展示されていた。これらを通じて、レニツァの多彩でユニークな表現手法とともに、批判とユーモアの精神も伝わってくるところが本展の魅力であったといえよう。
ポーランドの巨匠 ヤン・レニツァ
ポスター、アニメーション、イラストレーション、舞台
会期:2026年2月12日(木)~3月26日(木)
会場:ギンザ・グラフィック・ギャラリー (ggg)
協力:ポズナン国立美術館/ポーランド広報文化センター
Collection of National Museum in Poznań and Private collection, deposit in the National Museum in Poznań
©ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2026 G4080
(JAGAT 石島 暁子)
※会員誌『JAGAT info』 2026年3月号より一部改稿












