2019年度グッドデザイン賞に見る社会課題とデザイン(2)

掲載日:2019年12月2日

2019年度グッドデザイン賞に見る社会課題とデザイン(1)」に続き、2019年度グッドデザイン大賞のファイナリスト(大賞候補)のデザインを考察する。

これら4件はグッドデザイン金賞を受賞している。

音をからだで感じるユーザインタフェース「Ontenna」

富士通株式会社、富士通デザイン株式会社

Ontenna

60~90dBの音を256段階の振動と光の強さに変換し、音の特徴を伝達する装置。聴覚に障害のある人でも、音のリズムやパターン、大きさを知覚することができる。コントローラーで複数の「Ontenna」を制御すれば、ダンスや合奏も可能。音楽と音と振動を同時に楽しむイベントなど、エンターテインメント分野への活用も期待できる。
コンパクトなクリップタイプなので、髪の毛や耳たぶ、えり元やそで口など、好きな場所に付けられる。置くだけで充電が可能なマグネット式充電など扱いやすさを追求している。

発案者でプロジェクトリーダーを務める本多達也氏は、大学時代にろう者とともにさまざまな活動を進め、やがてデザインとテクノロジーでろう者に音を届けるための研究を始めた。

富士通入社後にデザイナーやエンジニアと共に「Ontenna」プロジェクトを立ち上げ、ろう学校やろう団体を対象にユーザビリティ調査を行いながら開発を進めた。
2016年にはグッドデザイン特別賞[未来づくり]を受賞。その後もスポーツ鑑賞、映画上映、音楽コンサートとのコラボレーションなどを通じてテストマーケティングを重ね、2019年に一般販売を開始した。全国のろう学校にはOntennaの体験版を無償で配布するという。

オンテナ(2019年度グッドデザイン賞受賞展より)

▲2019年度グッドデザイン賞受賞展より「Ontenna」の展示

審査では「国境や国籍、年齢や性別を超えたところにある、五感をメッセージに変換した新時代のコミュニケーションツール」である点が評価されている。

一大学生のボランティア活動から生まれたアイデアが、日本を代表するテクノロジー企業と出会うことで、次世代のユニバーサルデザインを示唆する取り組みへと発展したことが素晴らしい。ユーザビリティだけでなく、エンターテインメント性を備えた所に、今後の可能性を感じる。
幅広い層に普及・発展して市場に残ってほしい。また「Ontenna」を土台にして、社会的バリアを取り除く新たな製品が開発されていくことを願う。

Ginza Sony Park(銀座ソニーパーク)

ソニー企業株式会社、ソニー株式会社

Ginza Sony Park

自社ビルの建て替え途上で生まれた空きスペースを公園に変えた。その結果、銀座の一角に緑と憩いと遊び・体験の場が生まれた。
かつて数寄屋橋交差点のランドマークと言われたソニービルも、1966年の開業から半世紀を経て時代のニーズに合わなくなった。
そこで建て替えプロジェクトが発足したが、検討の結果、都心の再開発が進む中であえて「すぐに建てるのではなく、数年間公園にする」という方針を決めた。
それは、「人のやらないことをやる」同社のチャレンジ精神によるものであり、同時にソニービルの「街に開かれた施設」という設計思想を継承するものでもある。

ソニービルに面した数寄屋橋交差点は晴海通りと外堀通りが交わり、有楽町マリオンや東急プラザ銀座などのビルが立ち並ぶ。地下2階は東京メトロ銀座駅のコンコースに直結し、地下3階は巨大な西銀座駐車場へとつながっている。ソニービルは、都会を行き交う人とモノが交差するジャンクションのような役割を果たしてきた。
その立地を生かし、人々が集う実験的な空間を創り出すことがプロジェクトの狙いである。

参考:人々を惹きつける、実験的公園とは

Ginza Sony Parkを柔軟に活用するためには空間の余白が必要だった。スペースは店舗の配置を優先せず余白を中心にデザインされ、使う人々の創造性を刺激する空間となった。
地下3階〜地下1階は大胆な吹き抜け構造にする一方、ソニービルの躯体や、解体途中に偶然見つかった50年前の内装タイルなど、旧ソニービルの特徴的な部分を残している。

Ginza Sony Park(2019年度グッドデザイン賞受賞展より)

▲2019年度グッドデザイン賞受賞展よりGinza Sony Parkの展示

これまでに音楽ライブや体験型イベントなどに活用され、約1年で来園者数400万人が来園している。
Ginza Sony Parkは2018年8月から2020年秋まで開園し、その後2022年完成予定の新ソニービルでも都会の公園というコンセプトを継承する予定だという。

大賞の富士フイルムとは分野の違う取り組みではあるが、歴史ある企業がそのDNAを継承し、公共に資する事業に発展させていこうという試みに共通したものを感じる。

参考:グッドデザイン賞 webサイト

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(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)