日本のグラフィックデザイン2023

掲載日:2023年12月1日

日本グラフィックデザイン協会の2023年版年鑑掲載作品を紹介する企画展「日本のグラフィックデザイン2023」(9月1日~10月19日 東京ミッドタウン・デザインハブ)から、印象に残った作品を紹介する。

日本グラフィックデザイン協会(以下、JAGDA)発行の年鑑『Graphic Design in Japan』(以下、年鑑)は、正会員を対象として過去1年間に手掛けた仕事・作品を募集し、その中から選出されたものを収録した書籍である。その選考は、正会員の互選で選ばれた29名の委員によって行われる。

2023年版の掲載点数は約600点、この中から「亀倉雄策賞」「JAGDA賞」「JAGDA新人賞」が授与された。

本展は、年鑑に収録された作品から受賞作を含めた約300点の作品を紹介するものであった。その一部を紹介する。

亀倉雄策賞

JAGDA初代会長を務めた故・亀倉雄策氏の名を冠した最優秀賞であり、2023年は岡崎智弘氏による放送局の番組コンテンツ映像「デザインあneo あのテーマ」と、三澤遥氏による幼稚園のサイン計画「玉造幼稚園」が選ばれた。本賞は例年1作の受賞であるが、今回は評価が拮抗した結果、2作受賞となった。

岡崎氏の作品は、NHKのテレビ番組のために制作した、「あ」の一文字と白い紙のみを素材とした映像であり、選考会において「コマ撮りアニメーションというありふれた手法を深く追求し、他の追随を許さない領域に達している」などの評価を受けた。

岡崎智弘氏「デザインあneo あのテーマ」

岡崎智弘氏「デザインあneo あのテーマ」

三澤氏の作品は、幼保連携型認定こども園「⽟造幼稚園」の園内に設置された施設案内や各教室のクラス名を示すサイン類のデザイン全般である。円筒形の金属の組み合わせによる立体造形と配色で幅広い表現を生み出し、サインとして機能しながらも子供たちが観察し想像することのできるアート作品にもなっている。

三澤遥氏「玉造幼稚園」

三澤遥氏「玉造幼稚園」

JAGDA賞

本賞は、10種類の作品カテゴリーそれぞれの高得票作品から選ばれている。

その一例を挙げると、服部一成氏によるポスター作品「これはリンゴではない 」は、アートポスターを販売するECサイト「POSTERS」に出品した作品で、モチーフはシュールレアリスムの画家、ルネ・マグリットの作品「Ceci n’est pas une pomme(これはリンゴではない)」の引用。手書きの素描のように見えるが、実は全てデジタルで描画されている。

服部一成氏「これはリンゴではない 」

服部一成氏「これはリンゴではない 」

関本明子氏による「七條甘春堂」は、京都・七条に本店を構える老舗菓子店のパッケージデザイン。地名の頭文字でもある縁起の良い「七」の手描きの書をもとにデザインしてシンボルマークとし、一つ一つ職人の手作りの菓子であることを、手で和紙に描かれた筆の軌跡により表現し、商品のパッケージがデザインされている。

関本明子氏「七條甘春堂」

関本明子氏「七條甘春堂」

窪田新氏による「ユーミンをめぐる物語」の新聞広告は、シンガー・ソングライターJUJUのアルバム発売を告知するもので、2022年1月1日の朝日新聞に掲載された。文字と絵柄を朱色で統一し、アナログレコードの盤面の画像を初日の出に見立てて大きく配置している。

窪田新氏「ユーミンをめぐる物語」の新聞広告

窪田新氏「ユーミンをめぐる物語」

永井一史氏による製菓会社ユーハイムのロゴは、同社の日本出店100周年を機に、伝統を踏まえながら次の100年を志向するリブランディングの一環として制作された。絞り出したクリームをイメージさせるドイツ語のロゴを現代風にアレンジした上で、新たにカタカナのロゴを併記した。また、パッケージなどに配置する絵柄として、ユーハイムの伝統的な配色である白(純正材料)・赤(無添製造)・黒(職人の系譜)の3色を使用したチェック柄を考案した。

永井一史氏「ユーハイムのCI・VI・シンボル・ロゴ・タイプフェイス」

永井一史氏「ユーハイム」

JAGDA新人賞

年鑑出品者の中から39歳以下の有望なグラフィックデザイナーに贈る賞で、今回は石塚俊氏・藤田佳子氏・矢後直規氏の3名が選ばれた。

石塚氏はブックフェア「アート・パブリッシャーズ・フェア」のポスターのほかイベントや展覧会の告知ポスター・ロゴなど、タイポグラフィを生かした作品で受賞。

石塚氏「アート・パブリッシャーズ・フェア」

石塚氏「アート・パブリッシャーズ・フェア」

藤田氏はホテル「香林居」のツールやブランドブックでJAGDA賞とのダブル受賞となった。

藤田氏「香林居」

藤田佳子氏「香林居」

矢後氏はわが子が描いた絵を基に構成したチャリティー展出品ポスター「HOPE」などで受賞している。

矢後直規氏「HOPE」

矢後直規氏「HOPE」

受賞作品以外で印象に残ったものの一つとしては、全国各地のデザイナーの作品が挙げられる。

例えば北海道の森川瞬氏による鮨店「node」のブランディング、富山の越川広貴氏による「とやま棒鮨」のパッケージ、広島の関浦通友氏による倉橋島の地場商品をアピールするポスターなどがある。全国組織であるJAGDAだからこそ、各地域の質の高い仕事が出品・評価される仕組みができているのだろう。

森川瞬氏「node」

森川瞬氏「node」

また、デジタルメディアは、展示数は少ないながらもユニークである。例えば北谷しげひさ氏による自著絵本『ぞうさんのふうせん』の動画版、北本浩之氏による日本語文章作成ソフト「stone」、坂本俊太氏による福永紙工の紙箱カスタマイズサービス「UNBOX」のウェブサイトなどがある。デジタル技術とデザインの組み合わせが今後どのように発展していくのかにも注目していきたい。

本展は日本各地で活躍するデザイナーの作品や多種多様な分野のデザインを一覧でき、デザインに携わる人にとって学びの多い展覧会であった。

(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)

会員誌『JAGAT info』 2023年10月号より一部改稿

東京ミッドタウン・デザインハブ第104回企画展
「日本のグラフィックデザイン2023」

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