10年生き続けるデザイン

掲載日:2020年2月17日

スタンダードなデザインを表彰するロングライフデザイン賞の受賞デザインを通じて、自社の商品・サービスを継続・発展させていくために必要な要素を考えてみる。

グッドデザイン・ロングライフデザイン賞(表彰主体:日本デザイン振興会 以下ロングライフデザイン賞)は、「広くユーザーや生活者から支持・信頼を得ている商品やサービスで、これまで10年以上継続的に提供され、今後も継続して提供されると想定できるもの」を表彰する制度であり、毎年、グッドデザイン賞とともに、発表される。

事業主体者自身の応募に加え、生活者、つまりその商品のユーザーからの推薦も受け付けているところがユニークだ。これは「商品の価値は、作り手以上に使い手が知っている」という考え方による。

審査の視点は、革新性、信頼性、普遍性、先導性だという。

2019年度ロングライフデザイン賞を見ると、10年どころではなく、世紀をまたいで提供されている商品・サービスも多い。

たとえば、「ジーンズ [リーバイス® 501®]」(リーバイ・ストラウス ジャパン株式会社)の発売は1890年、以来約130年に渡って販売され続けている。元はカリフォルニアの金鉱で働く人々の声を受けて作られたワークパンツである。今回の審査では「ワークパンツという道具から衣料へと、そして地球上すべての人々に愛され浸透し尽くした」点を評価された。

リーバイス

「スツール [スツール 60]」(Vitra株式会社)は、フィンランド出身の世界的な建築家・デザイナー アルヴァ・アアルト氏が1933年にデザインした。強固な無垢材を直角に曲げる「L – レッグ」技術を用いている。座面と3本の足という最小限の要素で構成されたデザインは、その後全く形を変えず作り続けられている。審査では、国を支える産業につながった点、誰もが買える値段が維持されている点、地元の素材や自然を活かしている点などが評価された。

スツール 60

ロングライフデザイン賞は、商品だけが対象ではない。
たとえば「ラジオ体操 [ラジオ体操]」(株式会社かんぽ生命保険、日本放送協会、特定非営利活動法人全国ラジオ体操連盟)。1928年にかんぽ生命の起源である逓信省簡易保険局が制定した「国民保健体操」が元となっている。1951〜1952年に「ラジオ体操第一・第二」として再構成された。審査では「今も受け継がれている行動のデザイン」として評価された。

ラジオ体操

「TV番組 [キユーピー3分クッキング]」(キユーピー株式会社)は、テレビコンテンツとして初めての受賞となった。放送開始は1962年、天気予報のように短い時間の中で、献立のヒントを提供するという考えで始まった。1995年に日本一の長寿テレビ料理番組として、ギネスブックに認定されている。審査では、毎日の暮らしに豊かさを提供し続けている点、日本の昼に健やかで明るい印象をもたらしている点が評価された。

キユーピー3分クッキング

印刷に関わりあるデザインでは「包装紙 [三越包装紙 “華ひらく”]」(株式会社三越伊勢丹)が受賞している。
戦後間もない1950年に登場し、約70年に渡り、百貨店の華やかさを象徴してきた。
画家猪熊弦一郎により制作されたビジュアルは、海辺の石をモチーフに、波や風にも負けない強さと、自然の造形美をイメージしている。包装紙を、単に包むものから、百貨店をアピールするツールへと進化させた。今回の審査では「70年間三越で買い物された、推定でも10億人以上の全ての顧客、全ての商品の梱包紙に使いつづけた」企業のブランディングが評価された。

三越包装紙 “華ひらく”

「フォント [ノイエ ・フルティガー]」(Monotype Imaging Inc. )も受賞している。
2009年に発売。フルティガーはもともと、書体デザイナーのアドリアン・フルティガー氏がシャルル・ド・ゴール空港のサイン用に開発した、視認性の高いサンセリフ書体である。その後公共施設はもちろん、印刷物の見出しや本文用としても普及した。ノイエ・ フルティガーは、フルティガー氏とタイプディレクターの小林章氏による共同作業で、フルティガーを改良したフォントである。10ウェイトのバリエーションがあり、それぞれにイタリックも用意されている。
審査では、時代の要請に応じた進化と、多くのユーザーに支持され続けている点が評価された。

ノイエ ・フルティガー

ノイエ ・フルティガーに関しては、150以上の言語・文字体系に対応させた「ノイエ・ フルティガー・ ワールド」が2019年度グッドデザイン・ベスト100を受賞している。そのような不断の挑戦が、ロングライフデザイン賞につながったと言えるだろう。

2017年度ロングライフデザイン賞、「フォント [イワタUDフォント]」(株式会社イワタ) に続き、フォント関連の嬉しい出来事だ。

「機能性インナー [ヒートテック]」(株式会社ユニクロ)も2019年度ロングライフデザイン賞を受賞した。2003年の登場からもう17年。冬用インナーとしてすっかり定着した。審査では「今まで厚手になりがちだった冬のインナーを薄くすることで冬のファッションのあり方も変化させた」点が評価された。

ヒートテック

ヒット商品・サービスを生み出すのと同等、もしかしたらそれ以上に、商品の提供を継続・発展させていくのは難しいだろう。

人々のニーズは時代とともに変わっていくし、開発主体の企業の人も体制も変化していく。そのなかで、商品・サービスの何を守り、何を改良していくべきか、常に問い続けなくてはならない。

「スツール 60」のように、開発当時の精神を守り続けることで信頼性を維持していくという方向、リーバイス®のように、当初の用途から進化し新たなユーザーを開拓していく方向など、継続の方向はさまざまだ。

いずれにしても、ブランディングの観点で、経営課題として位置付けていかなくてはならないだろう。

新たな事業を開発する際は、革新性とともに、これからのスタンダードを作っていくという視点を持ってほしい。

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(JAGT 研究調査部 石島 暁子)