デザイン教育の広がり

掲載日:2023年3月17日

東京ミッドタウン・デザインハブ第101回企画展「ゼミ展2023」(2023年1月10日~2月12日開催)で発表された、大学におけるデザイン教育の成果を紹介する。

「ゼミ展」は東京ミッドタウン・デザインハブの活動の一環として2018年から始まった。

近年はデザインの領域が広がっていることから、美術大学やデザイン専門学校だけでなく、多くの教育機関の教育課程や研究室で、新しいデザイン教育への探究がなされている。
本展は、それらの教育現場で学生に科された課題とその成果となる作品を紹介するものである。

今回開催された「ゼミ展2023」は公募を通じて、全国から11校の大学・短期大学が参加した。以下、学校名の50音順に展示の概要を紹介する。

大分県立芸術文化短期大学 美術科 デザイン専攻 ビジュアルデザインコース 西口顕一研究室

担当教員:西口 顕一
課題テーマ:地域課題をテーマとしたデザイン提案

研究室では産官学の連携や地域貢献活動に取り組んでいる。本展では、学生が大分市の美術・デザイン振興を目的として企画・制作したフリーペーパー、郷土玩具の絵付け体験ワークショップのほか、九州全域を対象としたデザイン提案を紹介した。

地域課題をテーマとしたデザイン提案よりフリーペーパー『hum hum(フム・フム)』

学生が企画・制作したフリーペーパー『hum hum(フム・フム)』の一部

九州大学 カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I²CNER[アイスナー]) 藤川研究室芸術工学部 芸術工学科 未来構想デザインコース 尾方研究室

担当教員:藤川 茂紀・尾方 義人
課題テーマ:空気から直接二酸化炭素を回収する技術と社会のデザイン

藤川氏らの研究成果である、大気から二酸化炭素(CO2)を分離・回収するナノ膜技術「DAC-U」から着想して、生活空間に設置できるCO2回収家電とCO2の資源循環を担う架空の会社のビジネスモデル図を示した。
これらは実用化を前提としたものではなく、未来の社会と技術についての議論を喚起することを目的としている。

空気から直接二酸化炭素を回収する技術と社会のデザイン

CO2回収家電の試作品と製品カタログ

慶應義塾大学 環境情報学部 鳴川肇研究室

担当教員:鳴川 肇 課題
テーマ:オーサグラフ・テーマ地図

鳴川氏らの研究チームが開発した地図作成手法を用いた「オーサグラフ世界地図」をもとに、世界のさまざまな事象を地政学・地理学・地学などの分野にまたがって調査し、統計データや地理情報を地図にマッピングした。
情報を図によって可視化するインフォグラフィックの手法を用いて年表や解説図を組み込み、色彩・パターン・矢印などを工夫することにより、明快で美しい地図となっている。

オーサグラフ・テーマ地図「忘れられたパンデミック スペイン風邪」

オーサグラフ・テーマ地図の一つ「忘れられたパンデミック スペイン風邪」

工学院大学 建築学部 建築デザイン学科 塩見研究室

担当教員:塩見 一郎 課題
テーマ:「お店屋さんごっこ」インテリアデザインのお勉強

研究室では、商業空間をテーマに歴史の検証や現代の商業施設の研究を行っている。本展では、学生各自が店舗をプロデュースするという課題の成果を、パネル解説と建築模型で発表した。
この課題は、東京・中目黒にある特定の土地で、定められた建築構造を元に店舗を設計するという条件のもと、業種・サービス・建築設計などの要素を学生が自由に構想するものである。

「お店屋さんごっこ」インテリアデザインのお勉強

塩見研究室で取り組んだ店舗プロデュースの成果

佐賀大学 芸術地域デザイン学部 芸術表現コース 有田セラミック分野

担当教員:田中 右紀・三木 悦子
課題テーマ:「おばあちゃんのカップ」

この分野では、陶磁器産地という地の利を生かして、焼き物に関する学習・制作・発表活動を行っている。
本展で発表した課題は、学生各自の家族が使ってきた器を選び、その器にまつわるエピソードや使用シーンを調べ、紹介するものである。
学生が手作りして祖母にプレゼントした焼き物のカップ、母が旅先の思い出とともに大切にしている萩焼の湯呑みなど、さまざまな器を紹介した。

「おばあちゃんのカップ」

課題で集められた、学生の家族が使ってきた器

芝浦工業大学 デザイン工学科 橋田研究室

担当教員:橋田規子
課題テーマ:手工業×環境配慮素材

研究室では、感性工学を基本にした魅力あるものづくりを行っている。本展では環境配慮を意識しながら、機能性や意匠にもこだわった家具を発表した。
極太のロープを編んで座面にした椅子、アップサイクル素材を使用したタペストリーとスツールなどさまざまな作品を展示した。

手工業×環境配慮素材

橋田研究室による環境配慮と機能性・意匠を意識したプロダクト

女子美術大学 デザイン・工芸学科 ヴィジュアルデザイン専攻 澁谷クラス

担当教員:澁谷 克彦
課題テーマ:デザイン紙芝居

このクラスでは、デザインを他者に説明する力を身に付けるために、過去のデザインスタイルを研究し、作品に取り入れる演習を行っている。本展で発表した課題は、誰もが知る童話を、絵ではなくグラフィックデザインの手法を用いて表現するものである。

デザイン紙芝居「ももたろう」

澁谷クラスの作品から「ももたろう」。登場人物や事物を幾何学的な形のマークで示し、それらを組み合わせることで物語の情景を表している

多摩美術大学 情報デザイン学科 情報デザインコース 情報デザイン演習Ⅰ 演出表現演習

担当教員:林 響太朗・清水 淳子
課題テーマ:□□□

映像作品制作を通じて、人の心を動かす演出手法を探究し、またその過程で他者の心を理解することを目指した。学生各自が自分の好きなことや大切に思っていることからテーマを見つけ、それを伝えるためのストーリー構成や表現手法を探るものである。衣服を通じて人の生活を描く「ライフ」、3DCGでロボットの交流を描いた「めもり」などの映像作品を上映。

情報デザインコース 情報デザイン演習Ⅰ 演出表現演習による映像作品

情報デザインコース 情報デザイン演習Ⅰ 演出表現演習による映像作品

 

東京造形大学 インダストリアルデザイン専攻領域 井関ゼミ

担当教員:井関 大介
課題テーマ:感動のためのデザイン

「感動」のメカニズムを考察し、「感動」を表す作品を発表した。 水滴の流れと光で感情の抑揚をもたらす装置、人や物の影を立体化する装置、その日の感情を記録するスマートフォンアプリなど、多彩なアイデアを紹介した。

感動のためのデザイン

井関ゼミによる感動をもたらすプロダクトの提案

東京都立大学 インダストリアルアート学科 学部3年生有志+インテリアデザインスタジオ

担当教員:藤原 敬介
課題テーマ:「モノ」と「空間」の関係性のデザイン

「モノのデザイン」は、普段デザインとして意識されていない日用品をリデザイン。先端に動物などを模した型の付いた洗濯ばさみ、ハート型やL字型のばんそうこうなどの試作品を展示した。
「住環境のデザイン」は、定められた基本構造とモノトーンの配色という条件の下、土地の環境・住人の属性・生活などを想定して設計。「海と家族」「風が通る家」などの設計を示したパネルと建築模型を展示した。

「モノ」と「空間」の関係性のデザイン

「モノのデザイン」と「住環境のデザイン」

明治大学 理工学部 建築史・建築論研究室(青井哲人研究室)

担当教員:青井 哲人
課題テーマ:Research Groups 2022

教員が掲げた主題を学生がグループワークでリサーチして視覚化する課題である。 その一例「マンガ『理想的ヴィラの数字』:全章コミック化決定!」は建築論文を漫画に変換することにより、読み手の理解を統一させる試みだ。 会場では完成した漫画本を展示するとともに、漫画化のプロセスをパネルで解説した。

Research Groups 2022「理想的ヴィラの数字」の漫画化

青井哲人研究室の作品より「理想的ヴィラの数字」の漫画化


本展では環境問題、地域のつながり、心の充足など、時代が要求するテーマが多く見られ、同時に表現者として必要な、視覚によるコミュニケーションの手法を究める訓練も紹介された。 学生にとってデザインを学ぶ過程は、物事の本質を突き詰め、表現手法を探り、自己のアイデンティティーを確立するものであり、時に苦しみを伴うものの、得難い体験のできる幸せな時間だと言える。 学生たちが卒業後、新たなデザインを生み出す人材として活躍することを願う。

(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)

会員誌『JAGAT info』 2023年2月号より抜粋改稿

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