最新調査結果に見る印刷会社の業績と戦略の傾向

掲載日:2016年11月21日

2016年に実施した最新の印刷会社経営動向調査から、印刷会社の経営状況と戦略、そして設備投資・技術・サービスへの取り組み状況を考察する。

はじめに : 印刷産業経営動向調査とは

本調査では60を超える戦略に関する調査と業績調査を結びつけ、戦略と業績の相関を捉えている。業績の良好な印刷会社はどのような戦略を採る傾向にあるのか。業績の安定して高い印刷経営者の思考形式とはどのようなもので、逆に業績の悪い印刷経営者の思考形式はどのようなものか。現行方式で既に10回を数える調査となったため、信頼性の高い相関を捉えることが可能になってきた。通算10回の毎回にほぼ共通する結果が出る項目については、その業績と戦略の間になんらか確度の高い相関があるとみていいだろう。たとえば営業で技術訴求重視の印刷会社の業績は安定して高い傾向にある、問題の原因を属人的部分に求める印刷会社の業績は低くなる傾向にある、など。

売上高 : 売上高は3年ぶりの減少

売上高は2010年に△5.1%と近年最大の落ち込み幅を記録して以降はマイナス幅を毎年縮小、2013-2014年はプラス成長を回復していた。しかし2015年は5年ぶりに改善がストップ、売上高は3年ぶりに小幅ながら減少に転じた。リーマン・ショックと東日本大震災以降に続いてきた中長期的な業績の緩やかな持ち直し局面に変化の兆しがみられる。製品別・業種業態別には、昨年7年ぶりに増加した商業印刷が再び減少に転じた。出版印刷は13年連続の減少、総合印刷は3年ぶりの増加、事務用印刷は3年連続の増加。増減入り混じって一律に悪いという状況ではないが、主力の商業印刷の減少が強く影響している。人員規模別には、100人以上規模だけが3年連続で売上高が増加するなど従業員数と売上伸び率が比例する相関が見られる。地域別には、東京の売り上げ伸び率が2年ぶりに東京以外の地域を上回った。

利益率 : 営業利益率は2年連続1%台

売上営業利益率は2年連続の低下、2年連続の1%台。売上高は小幅な減少に留まって実質的に横ばいだが、物価上昇や人件費高騰、設備投資による支出増加をこなしきれず減益となった。設備投資の活発化は生産性の4年連続改善に寄与、その果実は人件費改善に振り向けられ一人当り人件費は2年連続で増加するなど、再成長へ向けた経営の好循環の兆候を見ることができる。しかし同時に利益率改善を果たすほどの収益性と成長性には現時点で力不足であり、これには設備投資に依存しない形の成長性獲得が課題となっている点が課題として浮き彫りになる。ただし減価償却費が増えているため、収益性は見かけほど低下していない点に留意する必要がある。営業キャッシュフローはこの10年の最高水準に迫る高さがあり、経営分析は多面的な見方を要する局面である。

戦略 : 未来への選択肢を増やして考える傾向強まる

「現在重視する事業領域」における選択と業績の相関を見ると、「総合化」を選ぶ企業が「専門化」を選ぶ企業の倍近くある。しかし業績は「専門化」を選んだ企業が「総合化」を選んだ企業より6年連続で高い。企業が限りある経営資源を強みの分野に集中して戦えば経営効率が高まるのは自明の理なので、理論通りの結果といえる。そして「脱印刷」が年々確実に増えている。この5年、印刷会社が「強化したい工程」に挙げる上位3工程は「デザイン」「Web制作」「後加工」。特に「デザイン」は毎年最多であり、強化したい印刷会社はいまなお増え続け、2015年は初めて70%を超えた。「Web制作」は強化が相当に進んだようでやや減少傾向。「加工」は2011年に29%の印刷会社しか強化工程に挙げていなかったが、今回調査では47%が挙げるまでに増えている。

プロファイル : 業績良好な印刷会社のかたち

報告書では、業績良好な印刷会社の形を浮き上がらせている。業績上位25%の印刷会社とそれ以外の印刷会社を比べると、利益率は上位25%が7.1%、その他75%が△0.3%と、その開きは大きい。上位25%では材料費・外注費が少ないため加工高比率が高く、ここで利益率の差が生まれている。また、上位25%は1人当り売上高も1人当たり加工高も高いが1人当り人件費と1人当り教育研修費も高く、人的資源への投資による付加価値獲得と生産性向上が業績に結び付いている経営構造が浮かび上がる。設備費と1人当り機械装置額は上位25%よりそれ以外75%の方が多いなどの違いも見られる。

設備投資と技術・サービス : 印刷のものづくりを見直す

この2年は設備投資を「増やす」が「減らす」を上回って、補助金などを背景に活発な設備投資が繰り広げられている。一方、「昨年と同じ」という様子見的なスタンスも増えて設備投資が充足した印刷会社も増えている。取得する設備は、オフセット枚葉機ではLED-UV対応機が56%、デジタルならハイエンドの高性能機の導入率が初めて20%を超えた。全体的に電子書籍や電子販促などデジタルコンテンツへの対応が一巡して、再度、印刷のものづくりを見直そうというデジタルから印刷へ回帰する形のプライオリティの変化が起きている。技術・サービスに関する満足度は、印刷制作系が高くデジタルコンテンツ系が低いという例年どおりの傾向の中にも、スマホ・タブレットアプリ制作と動画の不満足度が年々低下している変化も進行して、デジタルビジネスに苦戦しながらも採算性の改善が進んでいる。

JAGAT 研究調査部 藤井建人

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・報告書 JAGAT印刷産業経営動向調査2016