用字用語と表記基準について考えてみた

掲載日:2016年12月1日

出版社にはたいていは用字用語と表記に関する基準があり、統一感をもたせている。しかし、一般企業のビジネス文書などにも重要な役割を担っている。

なぜ用字用語の統一が必要なのか

JAGATでは多くの出版物や報告書・レポート類を毎年発刊しているが、用字用語はすべて統一されているわけではない。例えば、『印刷白書』や『JAGAT info』にはそれぞれ用字用語の基準がある。

印刷産業だけでなく幅広い読者層を想定した『印刷白書』と、JAGAT会員企業に向けた『JAGAT info』では、用字用語の基準は少し異なっている。その他のJAGAT刊行物は発刊時期によっても、かなり基準は異なっている。

しかし、出版物以外となると必ずしも統一が図られているわけではない。なぜならそれらには、編集の手が入っていないからである。

用字用語の統一は、読む人に対して、より正確により迅速に理解してもらうためである。そのために整理整頓された文章に編集し直さなくてならない。それは出版物に限らず、Webのテキストやビジネス文書などにも同じことがいえる。

例えば、最近のデジタルマーケティングに関するものには、むやみやたらに難しい言葉を好んで使う傾向もあるが、対外的な文章では、平易さを心がけたい。ことにジャーゴン(ある特定の専門家や仲間内だけで通用する言葉。業界用語、専門用語)やわけのわからない横文字には注意が必要で、やむをえず専門用語を使用する場合は、括弧内に原文や注意書きをつけるなどの配慮をすべきだろう。

出版物以外にも影響する「編集」の重要性

出版社や新聞社などでは、独自の用字用語集を作成し、全社的なガイドラインとして使用されていることも多い。ただし、作品性を持つものに関しては、その媒体内での「統一」を表現者の意図と調整を図りながら行っていくという方法もとるようだ。

それは単に組版ルールの問題だけではなく、情報をいかに正確に伝えることができるかにもかかってくる。情報をいかに「編集」し直すか、そういう意識を持つことが、情報の価値を高めることにつながる。

つまり相手は誰なのかをよく考えて、独りよがりや自己満足の排除、内部のみで通用するローカルな表現を排除しなくてはいけない。相手は必ずしもこちらのことを知っているわけではないことを前提に、文章を作成していく。それは相手に正しい情報を提供し、理解されるための最低限の基本ルールだと考える。

やっかいな横書きにおける句読点問題

日本語の句読点は、「、」「。」(テンマル)が基本である。縦書きでは、それ以外の書き方はありえない。しかし、横書き表記では、公用文でさえも、省庁により書き方が異なるのが現状である。

1952(昭和27)年に内閣官房長官名で出された「公用文作成の要領」には、句読点は、横書きでは「,」および「。」(カンママル)を用いると記されている。しかし、60年以上も前に定められたことで、現状にあっているかどうかは疑わしい。ましてや、それまで日本語の横書きにはほとんど句読点は使われていなかった。

これは必ずしも徹底されていない。ことにワープロが導入された頃には、技術文書の標準的な用語として「,」「.」(カンマピリオド)が流行したようにその時代性も関与することがある。

本家本元の内閣官房も現在「、」「。」になっており、衆議院・参議院をはじめ内閣府、関連各省庁の多くが「、」「。」を使用している。JAGAT出版物も紆余曲折があったが、現在「、」「。」に落ち着いている。

技術系の文章に「,」「.」が席巻した時代には、句読点は単に好みの問題ではなく、日本語表記の根幹に関わる問題で、「,」「.」は日本語ではないとの指摘もあった。

最近では、技術系の文章でも「,」「.」ではなく、英数字が混じっている文章では、読みやすさから「、」「。」が採用されているようだ。

世の中の多くの出版物やWebサイト上の表記も現在では「、」「。」派が圧倒的多数を占めている。

広報的意味合いとブランディングのために

しかしながら問題なのは、どちらが正しくて正しくないということではない。「文は人なり」なので、コミュニケーションとしてわかりやすい表記にすることが大切になる。

目的に沿った編集方針を打ち出していないと全体的なバランスが崩れてしまい混乱する。あるいは顧客が迷惑をするのである。情報配信によって自社の知名度およびブランドの向上を図り、正しい理解を目指すことである。そのための広報的な観点による基本ガイドラインの一環として用字用語の問題がある。

今一度広報の観点、ブランド力アップの観点からの再確認をして、現実に即したルール作りを始めないといつまでたっても個人任せ、担当者の好みが一人歩きして、ブランディングからは程遠いものになってしまう。

詳細は媒体ごとに定められているルールに従うとして、表記の混乱をなくし、読み手の立場に立った基準を守るという姿勢を意識することが大切だと思う。

(JAGAT 研究調査部 上野寿)