コンテンツの 「質と売り方」を 考える【後編】

掲載日:2017年5月29日

ネイティブ広告、〇〇放題モデル、少額決済、分散型メディアなど新たなビジネスモデルが登場するなか、マンガ、ニュース、雑誌のコンテンツでマネタイズするにはどんな方法があるのか。page2017カンファレンスでは、メディア動向を探るために各業界の最前線で活躍している方々による活発なディスカッションを実施した。【後編】→前編はこちら

作家の利益を最優先するモデル

「マンガ図書館Z」には、書店流通から外れた「絶版マンガ」や海賊版の問題を解決することが期待されている。

「絶版マンガ」を読むには古本屋やオークションで探すしかないが、プレミアムがついて高値になっていることもある。もしくは違法の自炊による「海賊版」を入手するしか方法がない。しかし、いくら高額になろうとも作家の収入にはならない。現役の漫画家で、商業誌で作品を発表している赤松健氏は海賊版撲滅を訴えており、2011 年に個人運営の絶版マンガ配信サイト「J コミ」をスタートさせた。

一人で運営するには限界があり、サービス拡大も視野に入れて映像配信会社のGYAO と2015 年J コミックテラスを設立した。GYAO の「創作者に利益の還元を最大化する」という企業理念がマッチし、創作者への利益還元の新しい形態を模索している。また、海賊版の撲滅だけでなく、日本マンガ文化の保存にも取り組んでいる。
絶版になったマンガを作家から提供してもらいデジタル化してサイト上で公開する。基本的にすべて無料で閲覧可能で、そこに広告を付けてクリックされた収益を作家に100%還元するというモデルである。一般的な電子書籍サイトは閲覧権の購入なので、所有権にはならないが、マンガ図書館Z では作品PDF の販売も行っている。また、限定商品として、作家にデジタルで色紙を描いてもらい、かつ購入者の名前を入れて販売している。また普段作家には会いたくても簡単には会えないものだが、作家との飲み会セットも行っている。

Amazon のPOD サービスで紙版の販売も行っている。漫画家にとって紙版コミックを出すことはステータスになるし、夢でもある。ユーザーからはデジタルでは無料で読めるが、やはり紙の本が欲しいという要望が多くあり、100 冊以上売れる作品も出てきている。これまでは作家が出版社と契約して、取次を介して書店で販売する流れであったものが、作家と媒体が直接契約をするように徐々に変わってきている。作家の収入形態も印税方式だったものが多様化してきたということであろう。

作家の新しいビジネス、新人作家の育成も支援している。これまで出版社がやってきたところに踏み込むのではなく、うまく共存共栄していきたいと思っている。出版社の手が離れたものや作家が自身で管理しているものについて、画像データをきちんと収蔵してアーカイブしていきたい。過去の作品であっても切り口を変えて改めて見せ方を変えると新鮮なこともある。最終的には、作家が正しいメリットを享受できるような、作家の利益を最優先するモデルを作り上げていきたい。

ターミナルメディアの可能性を模索

キュレーションやまとめサイトついては、コピペや引用・盗用などが問題となっているが、antenna* は「ターミナルメディア」を標榜している。雑誌やテレビには数多くのコンテンツが存在しているが、それに気付かない生活者が多い。そこでantenna* では300近くのメディアと契約を交わして、日々その情報を預かって編成して届けている。厳選して集めたコンテンツをユニークな文脈や世界観で届けるキュレーションサービスである。提携メディアから受け取る1 日約1000 ものコンテンツすべてに社内スタッフが目を通し、読んでほしいものをピックアップする。ユーザーは600 万人を超え、クライアントも1500社いる。キュレーションとはもともと技術用語で、集めてきたものを選定して意味を与えることだと理解している。リパッケージという表現もそうだが、それぞれ単体のメディアの記事をどのようにチューニングしていくかを考えている。

例えばテレビ局のコンテンツと出版社の記事をどう陳列するか、そのことで別の意味をなしてくるのではないか。企業広告も同じでテレビCM をそのままantenna* に流すことは、今ではほとんどしていない。同じコンテンツでも、いつどう観られるかで生活者によって反応が違うことは痛感している。企業が出しているものは広告であっても作品であり、面白いものが多い。スマホの場合「広告はすごくじゃまなもの」という認識があった。下から出てきたり、いきなりポップアップで出てきたり、とにかくうるさいという印象がある。新聞広告はいまだに話題になるし、テレビCM も昔は面白かったと話題になった。しかし、スマホの広告を見て「カッコいいバナーだった」とは絶対にならない。それでも何かできるはずだと試行錯誤しているところである。

antenna* の中には、メディアの記事と広告の記事に関する個人のアクセスデータが何年分も蓄積されている。これをクラスター分析していくことで、普段どのようなメディアを見ているかも分かるので、メディアの露出の仕方を協議しているところである。コンテンツ単体のマネタイズももちろん考えていくが、雑誌は雑誌で見る心地よさがあると思う。そういった世界観に結び付けるために、データを活用していきたい。いろいろなメディアから預かる記事とクライアントから預かるコンテンツをうまく編成して、ユーザーに届けてページに送客している。場合によってはメディアや企業がやっているイベントにユーザーを招待などもしている。

例えば映画配給会社から予告編をantenna* で流すだけでなく、ユーザー限定の試写会を開催してもらうなどのコミュニケーションを図る。新規の見込み客に対してどのような情報を提供できるか、リアルな体験をできるだけシームレスにもっていけるように取り組んでいるところである。

(研究調査部 上野寿 『JAGAT info』2017年5月号より)