コンテンツの 「質と売り方」を 考える【前編】

掲載日:2017年5月22日

ネイティブ広告、〇〇放題モデル、少額決済、分散型メディアなど新たなビジネスモデルが登場するなか、マンガ、ニュース、雑誌のコンテンツでマネタイズするにはどんな方法があるのか。page2017カンファレンスでは、メディア動向を探るために各業界の最前線で活躍している方々による活発なディスカッションを実施した。【前編】

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コンテンツの質や信頼性の問題

page2017 カンファレンスのCM2「2017 年のクロスメディアはどうなる(2)~コンテンツの「質と売り方」」では、コンテンツマーケティング、中身の信頼性など多面的な視点から2017 年のコンテンツビジネスのマネタイズ(課金)について議論した。

モデレータにジャーナリストとしても著名で、現在法政大学で「メディアとジャーナリズムの未来を切り開く」人材育成を行っている藤代裕之氏、ニュース配信提供の共同通信デジタルの伊地知晋一氏、マンガの新たなビジネスモデル「マンガ図書館Z」を運営するJ コミックテラスの佐藤美佳氏、キュレーションアプリ「antenna*(アンテナ)」でコンテンツ配信するグライダーアソシエイツの荒川徹氏を迎え、マネタイズの仕組みやメディア形態の変化についてセッションを行った。

冒頭で藤代氏からインターネット上の情報やニュースの質がこれまで以上に、世の中から厳しく見られている状況の解説があった。トランプ問題のようなフェイクニュースや、「WELQ」のようなまとめサイトの問題が背景にある。これだけ騒がれるのは、やはりインターネットが不可欠になってきていることの表れであるとした。

伊地知氏からはインターネット業界は、かつてマスコミから相手にもされなかった時代があり、無視され続けていたという話が出た。インターネットに書かれていることは嘘が多くて、それを見極めるリテラシーがあることがうまく使える人だといわれてきた。それが、いつの間にか既存メディアと対等で語られるようになった。
コンテンツホルダーからすると、まとめサイトやネットメディアに取り上げられないと拡散しない。藤代氏は、昨年(page2016)では生活者に合わせたコンテンツの「再編集(リパッケージ)」が今後重要になるという話をした。どうやって質の高いコンテンツを拡げてマネタイズするかが課題になる。

パッケージと付加価値でマネタイズ

全世界のさまざまなニュースを配信する共同通信社の子会社である共同通信デジタルは、ニュースサイト・サイネージなど、デジタル分野へニュース配信やシステム構築を行っており、1 日1000 本以上のニュースを扱っている。

通信社は新聞社、テレビ局、ラジオ局にニュースを卸す卸売業者で、速報性が最大の特徴になる。企業広報が特に重視するのが速報性で、リスクヘッジのためにいち早く情報を集めたい、クライアントや競合他社の最新情報を入手したいなどの要求がある。通信社には大量のニュースソースがあって、一般の人には興味のないニュースでも、ある業界の人にとってはとても重要なニュースが含まれている。そこで、業界ごとにリパッケージして個別に値段をつけて販売している。また、リスク関連のものだけをパッケージングして企業に販売する。

結局、課金してもらえる情報はウェブには出ていない。世の中にはまだまだウェブに出ていない情報がたくさんあるので、マネタイズができている。普通のニュースとスポーツニュース、あとは天気予報が売れ筋である。ニュースは場所によってその種類を変える。政治に関するニュースだけリパッケージした政治家向けニュースもある。外国人向け生活情報サイトも運営している。

最近増えているのが、デジタルサイネージ、デジタルビジョンである。山手線の中のビジョンから流れているニュースを配信している。関東の約95%は共同通信デジタルが配信したものである。デジタルサイネージも普通の看板よりもコストパフォーマンスがいいのでまだまだ増えるだろう。

共同通信はテレビにニュースを販売しているが、放送用原稿(いわゆる読み原稿)も作成している。それだけでなく、読み原稿をインプットするとCG の女性が女子アナのようにしゃべってくれるバーチャルキャスターをソニーと共同開発した。ただ原稿を売るだけではなく、このソリューションとセット販売することで、深夜などアナウンサーがいない時間帯でも緊急ニュースに対応できるようになる。膨大なデータからフォーマットを整えるとAI を使って新たな情報も導き出すことができる。土砂崩れや洪水など災害の確率を予測することも可能だ。

コンテンツのかけ合わせによって新たなコンテンツを生み出すことにもチャレンジしている。今まではただコンテンツを売るだけのビジネスだったが、これからは付加価値を付与して提供していこうと考えている。

→絶版マンガを無料公開する「マンガ図書館Z」とキュレーションメディア「Antenna」を語る後編は5月29日(月)掲載予定

(研究調査部 上野寿 『JAGAT info』2017年5月号より)