にんじんもあり 移動スーパーもあり グッドデザイン賞はビジネスも評価する

掲載日:2017年10月12日

グッドデザイン賞の「グッドデザイン・ベスト100」から、社会的意義のあるビジネスモデルや地域の取り組みを通じて、デザインの広がりを考える。

先日の記事「『うんこ漢字ドリル』も『イワタUDフォント』も。多彩なグッドデザイン賞」に続き、グッドデザイン賞の受賞例を紹介する。
今回は、2017年度のグッドデザイン賞1,403件から選ばれた「グッドデザイン・ベスト100」から、ビジネスモデル、地域・コミュニティづくり/社会貢献活動に関するデザインを見てみよう。


●にんじん [こいくれない]
NKアグリ株式会社 (和歌山県)

にんじん [こいくれない]

おいしくて栄養がたっぷり、でも作るのが難しい。そんな作物の品質の良さをそのままに、安定供給を実現させる仕組みである。
[こいくれない]は金時人参と西洋人参の交配種で、リコピンを豊富に含む珍しいにんじんだ。
同じ地域で収穫できる期間は1カ月と非常に短いという弱点を抱えていたが、NKアグリは全国50の農家と産地リレーを行い、6か月間の流通を実現した。作年度は約50万袋を流通させたという。
IT技術を活用してリコピンが最も含まれる時期を予測し、産地リレーをスムーズに進めている。
審査では、「規模が小さい企業やベンチャー企業こそ、デザインの力を上手に使って飛躍できるという好例だ」と評価された。
NKアグリはノーリツ鋼機株式会社の「食」部門を担うコーポレートベンチャーである。
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●移動スーパーとくし丸
株式会社とくし丸 (徳島県)

移動スーパーとくし丸

家のすぐ近くまでお店が来てくれる、買い物難民や高齢者の味方。
軽トラックを使用したコンパクトな移動型食料品店舗。冷蔵庫付きの専用車で生鮮食品も積み込み400品目以上を扱う。スーパーの超大型化&郊外化で生まれた買い物難民、遠くまで買い物に行けない高齢者。そんな人々のニーズに応えている。
導入負担を減らすことで、個人が参入しやすい仕組みを実現した。
丸正、ベルク、天満屋などと連携し、地域スーパーも応援している。
本部、地域スーパー、販売パートナー、消費者という4者それぞれの負担と利益をバランスよくデザインし、社会的意義と事業性を兼ね備えた点が評価された。
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●バッグ [ブルーシードバッグ]
一般社団法人BRIDGE KUMAMOTO (熊本県)

バッグ [ブルーシードバッグ]

熊本地震後に使われたブルーシートをトートバッグにリメイクするプロジェクト。
2016年4月の熊本地震の直後、被災地では多くの家屋で瓦が崩れ、その応急処置にブルーシートが大量に使われた。
被災地の人々にとって悲しみの象徴だったブルーシートを前向きで明るいものへと転換させることはできないか。
そこで、ブルーシートを回収・洗浄・縫製して、トートバッグにリメイクするプロジェクトが始動した。「ブルーシートを、ブルーシード(復興のたね)に。」がコンセプト。復興関連のイベントやオンラインで販売し、売上の一部は被災地に寄付される。縫製工場は被災地の大分県竹田市にあるため、売上金のほとんど全てが熊本・大分に流れる仕組みになっている。
モノの意味を転換して地域に希望をもたらし、地域外と繋いでいる点、被災地への寄付、地域に落ちる工賃、運営費のバランスなどが評価された。
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以上、ごくごく一部の紹介ではあるが、共通しているのは以下の点であろう。

社会的な視点
自社にとどまらず、業界全体であったり地域社会であったりと、広い視野を持って、人々の困りごとや眠っている価値を見つけている。

アライアンス
立場の違う人々を結びつけて、それぞれの知恵や技術を出しあい、皆が幸せになる関係を築いている。

事業性
社会に貢献しながらも収支バランスが考えられ、事業に持続性がある。

こうした取り組みは従来、一般的にデザインとしては捉えられていなかった。
しかし、グッドデザイン賞では、時代の要求に合わせてデザインの定義を広げ、現在は有形無形の多様な取り組みを「デザイン」の観点で評価している。
だからグッドデザイン賞には生活雑貨も車も公共施設もサービスも、あらゆるジャンルのデザインが共存するのである。
仕組みのデザインは一見形が見えない。でも、人々がうまく繋がり、作り手と使い手がどちらも幸せになれるといった整合性の取れた仕組みは美しい。そして、そうした仕組みは自ずと美しい意匠デザインで表現されるのではないだろうか。

10/19にJAGAT 印刷総合研究会「ビジネスをデザインする―新しい価値を生み出す思考法」を開催し、グッドデザイン賞を始め、デザイン発想を生かしたプロジェクトに関わる方々のお話を伺う。

(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)

JAGAT 印刷総合研究会のご案内

ビジネスをデザインする―新しい価値を生み出す思考法
グッドデザイン賞受賞例、東北の食品業者へのブランディング、転写シール技術を応用したウエアラブルメモなど、デザイン発想を生かした取り組みを紹介する。
講師:廣田 尚子氏(グッドデザイン賞審査委員)/三輪 宏子氏/今井 裕平氏
2017年10月19日(水) 14:00-16:50

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