標準化こそデジタルの本質 ― JPack-Fmtから考える製造データの利活用

掲載日:2025年11月4日

先日開催された JAPAN PACK 2025 を視察したところ、「JPack-Fmt」という標準フォーマットが紹介されていた。

異なるメーカー間でデータ交換を可能にする標準データフォーマットといえば、印刷業界では JDF(Job Definition Format) が知られている。最近はJDFの話題を耳にすることも少なくなっており、その意味でもJPack-Fmtの登場は新鮮な印象を受けた。

包装システムにおける IoT標準化指針 JPack-Fmt

JDFが設備への作業指示(JDF)と設備からの実績報告(JMF)という双方向コミュニケーションを前提としているのに対し、JPack-Fmtは現時点では設備からの実績報告が中心となっている。

包装業界にはすでに PackML というXML形式の標準フォーマットが存在し、機能的にもJDFに近い。しかし、国内環境ではPackMLを標準とするには技術的・コスト的なハードルが高いとされ、その簡易版としてJPack-Fmtが策定された。将来的な拡張性を確保するため、JPack-Fmtには「他団体フォーマット領域」という項目が設けられ、PackMLなどの他仕様との連携を見据えたデータ格納領域も定義されている。

私見ではあるが、“すぐ使える標準フォーマット”としてのJPack-Fmtが生まれた背景には、近年のAIの急速な発展と普及があると考えている。AIの性能を最大限に引き出すには、精度の高い学習データが欠かせない。精度とはデータの正確性のみならず、データ定義の明確さを意味する。例えば数値の単位や稼働時間の定義といった基本的な部分が曖昧では、膨大なデータを蓄積しても有用な分析結果は得られない。

ここで思い起こされるのが、かつての AMPAC構想(Architecture Model and Parameter Coding for graphic arts) である。これは2000年代初頭に日本から提案されたもので、端的に言えば印刷業界の暗黙知を形式知に変えるためのデータベース構想だった。印刷品質を左右するパラメータとその値を誰でも利用できる形で蓄積し、最終的にはオフセット印刷機の自動制御を実現する――そんな未来像が掲げられていた。

「究極の印刷機」実現を目指すAMPAC

もしAMPAC構想が実現していれば、AI技術の発展により、設備の自動制御はもちろん、ベテランのノウハウを生かした高精度な自動スケジューリングも現実になっていたかもしれない。構想が中断されたのは非常に残念である。

実用化に至らなかった理由として、メーカー側は投資に見合う成果が見込めなかったこと、ユーザー側は現場力の強さゆえに標準化の意義を感じにくかったことが考えられる。当時は「お客様の要望に臨機応変に対応すること」が差別化とされていた時代であった。

しかし、デジタルの本質は標準化である。標準化されているからこそ、データに価値が生まれ、競争力につながる。「JPack-Fmt」の普及が製造現場における真のデジタル活用への契機となることを期待したい。

(研究・教育部 花房 賢)