今から30年前の1995年、JAGATでは「社員研修アンケート調査」を会員企業に対して実施し、221社より回答を得た。その分析結果が本誌の前身『プリンティング インフォメーション』1995年10月号に掲載されているので、以下では要点を紹介してみたい。
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まず前提として、当時は印刷技術の電子化と印刷業のデジタル化が進展していた時期である。本文の冒頭では「ソフト化対応、営業マンの教育など取り組まねばならない新しい課題は山積している。(中略)印刷会社では社員の能力も多様化が求められており、社員研修の強化が必要になっている」(原文ママ、以下同)と、調査の背景を説明している。
では、「社員研修を実施している」企業の割合はどのくらいかというと、全体の90%(200社)であった。そして「年間1人当たりの研修予算」を見ると、「1〜5万円未満」であると回答した企業が40%(79社)で最多である。
「研修目的」についてはどうか。回答数が多かった順に「業務上の知識を得る」(22%・44社)、「積極的な仕事への取り組み」(20%・40社)、「新分野の知識技術習得」(18%・36社)が3位までを占めた。ちなみに、「研修・資格取得後の人事給与体系への反映」に関する質問項目では、「昇進の参考資料」にすると回答した企業が41%(81社)であった。
一方、社員研修を未実施・検討中だと回答した企業21社に対してその理由を尋ねたところ、上位2回答が「教育担当者の不在」(29%・6社)と「時間がない」(14%・3社)である。記事本文では、この状況を「『時間がない』ために研修を実施しない企業は、今後の激しい経営環境を克服できるのであろうか、不安な気がする。『時間がない』点については、短納期化が進む印刷業界全体が同じ条件下にあることを、ぜひ一考していただきたい」と評している。
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前置きが長くなったが、最新号の特集記事では、DTPエキスパート認証試験の資格更新者を対象とした意識・動向調査の結果を報告する。上記の調査は社員研修に焦点を当てたものだが、この調査では印刷産業の中堅人材、要するに「働き盛り」の世代が自分の職務や業務をどのように捉えているのか、あるいはスキルアップをどのように考えているのかなどについて、多角的に分析していることが特徴である。印刷産業に特化したこのような悉皆(しっかい)調査は希少なケースであると思われるので、ぜひご一読いただきたい。
『JAGAT info』2025年11月号のご案内
◯特集
印刷産業における中堅人材の意識・動向
―DTPエキスパート資格者調査から見えてくるもの―
丹羽朋子(JAGAT研究・教育部)
印刷産業が価値創造に向けて未来を展望するうえで、その基盤となるのは人材である。若手人材の不足は日本社会全体の課題となっており、印刷会社の新卒採用においても例外ではない。そのため既存人材、とりわけ一定の経験を積んだ中堅人材の活躍に期待がかかる。
人材教育のスタンダードとしてJAGATが30年以上にわたり提供しているDTPエキスパート認証試験の資格取得者は、印刷会社などで一定以上の勤続年数を持つ人々が主な層である。特集では、印刷産業における中堅人材の意識・動向に関する調査結果とともに、印刷業界の人材の在り方についても考察を行う。
◯特別企画
製造業界を効率化させる、色と質感のDX化
長尾健作氏(株式会社パーチ代表者)
情報伝達手段のデジタル化に伴い、RGBベースのデータは日常的な存在となっている。そのような社会環境の下では、印刷物は単なる媒体ではなく「選ばれる表現手段」であり、新たな価値が問われているといえよう。他方で、色や質感の再現可能性を拡張するさまざまな取り組みも行われている。
特別企画では、2025年9月2日に開催したJAGAT印刷総合研究会セミナー「拡張!! 色空間、質感:プロセスインキCMYKの先は?」の中から、株式会社パーチ代表者の長尾健作氏による講演の要旨を収録する。自動車を中心とする製造業におけるカラーマネジメントの最新状況について、お話を伺う。
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(『JAGAT info』編集部)


