価値を生み出すパーソナルデータ

掲載日:2019年4月8日

「21世紀の石油」とも言われ、ビッグデータ時代の資産としても注目されるパーソナルデータ。高い利用価値の反面、Suicaのデータ販売が中止になった事例のようにプライバシーの問題を心配する人も少なくありません。

今回は個人情報とのちがいは何か、どのようなデータがビジネスで使えるようになるかに触れつつ、パーソナルデータについて紹介します。

パーソナルデータと個人情報の違いは個人の識別性有無

パーソナルデータとは、名前のとおり「個人に関する情報」を指します。例えば、交通系ICカードの乗車データやスマホの位置情報、インターネットの閲覧履歴などが該当します。

また氏名やパスポート番号などの個人情報もパーソナルデータの一部です。個人情報は、パーソナルデータのうち「個人が特定できる情報(特定の個人を識別することができる)」を含むデータを指します。

パーソナルデータは個人情報を含む広い概念ですが、狭義で個人を特定できない加工(匿名化)をしたデータを指すこともあります。

ルールに沿って匿名化することで活用範囲が広がる

スマホが記録する位置情報やSNSの書き込み、IoT機器が取得するデータなどは、ビッグデータとして分析するほか、AI(人工知能)の学習用データとしても役立ちます。

しかしデータの需要が高まった一方で、プライバシーの問題からデータの提供に拒否感を示す人も少なくありませんでした。 2013年にはJR東日本がSuiCaの乗車データを加工したうえで第三者に売買することに対して、事前の説明が少なかったこともあり、多くの人から批判の声があがりました。(→参考:Suicaに関するデータの社外への提供について中間とりまとめ・JR東日本

背景には、明確な基準や法律による規制がないため「自分の情報がなんに使われるかわからない」「知らないうちに個人情報が第三者に使われるのではないか」「悪用される可能性もあるかも」という漠然とした不安があったのかと思います。

安全にデータを活用できるしくみづくりが求められるなか、国でもパーソナルデータを利用しやすくする取り組みが進みました。2017年には改正個人情報保護法が施行、匿名加工情報という制度が新設されました。これはルールに沿って個人が特定できない、復元できないように加工(匿名化)したデータは、収集時の利用目的以外での利用や、本人の同意なく第三者へ提供できるようになるものです。

具体的には、「特定の個人を識別できない」「個人情報を復元できない」ようにデータを加工します。個人情報保護委員会が公表したガイドラインでは、住所を「〇〇市」までに削除したり、「年齢116歳」といったイレギュラーな情報を「90歳以上」といった情報に置き換えたりすることで、個人が特定できないようにする方法を提示しています。また経済産業省から具体的な方法を紹介する「匿名加工情報作成マニュアル」が公開されています。

匿名加工情報 により、クレジットカード会社が持つ購買履歴を分析して地域傾向を明らかにしたり、カーナビの位置情報データをマーケティングに活用したりできるようになりました。

広がるパーソナルデータ活用の可能性

最近ではパーソナルデータ流通のしくみも整備が進み、情報を提供したい(してもよい)側と、情報がほしい側を繋ぐプラットフォームも登場しています。個人や企業がスマホデータやIoT機器のデータを提供し、必要とする企業はそれを購入できるEverySenseのようなデータ取引市場も動き始めています。

また国や自治体が保有するデータも、パーソナルデータとして使えるようにしようという動きが進んでいます。改正個人情報保護法と合わせて行政機関個人情報保護法等改正法が施行され、匿名加工情報に相当する非識別加工情報という制度が設けられました。地方自治体においても同様の動きが進み、自治体が持つ介護や教育などの有用なパーソナルデータを民間企業が活用できるしくみが検討されています(→ 参考:「地方公共団体が保有するパーソナルデータの効果的な活用のための仕組みの在り方に関する検討会報告書」/ 2018年4月・総務省)。


「どこまでが個人情報か」「どんな加工をするべきか」という基準が明確になったことにより、今までは個人情報として第三者に提供できなかった情報も匿名加工して利用できるようになりました。国や企業が持つ有用なデータは石油のようにさまざまなかたちに加工され、新しい価値を生み出すもとになっています。

パーソナルデータの活用範囲は今後さらに広がっていきます。自社にとって価値ある情報を見つける手段としても、自社が持つデータを資産として生かす可能性としても期待できそうです。

(JAGAT 研究調査部 中狭亜矢)

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