印刷経営の現在と方向について、分析の過程から

掲載日:2019年7月4日

印刷経営を取り巻く環境が変わるなか、印刷会社経営はどのような状況なのだろうか。「印刷産業経営動向調査2018」の分析過程で見えてきたことを速報段階ながら伝えたい。

41年続く印刷産業経営動向調査とは

「印刷産業経営動向調査」は 41年間続く調査で学術界など各方面からの注目度も高く、今回も120社を超える企業から回答をいただいた。長年の理解者が多く回答数と回答企業が安定してサンプル誤差などが少なくデータの信頼性が高い。こうした調査が成り立つのも回答企業のおかげである。複雑な調査にいつも回答くださる皆様にまず、心からお礼申し上げたい。目的は、業績と戦略、投資まで網羅的に調べ、好業績の印刷経営のあり方を浮き上がらせて回答社を通じて業界に広くフィードバックすること。

売上高には持ち直しの兆しも利益面は苦戦

確報算出にはまだ時間を要し、現時点では速報段階として見えるところまでを簡単に記したい。株価は2万円を超える高値圏にあり、史上最長ともいわれる景気回復局面が追い風となる一方、諸資材の高騰や人材採用難といった懸念材料も増えている。このような状況のなか、全国の印刷会社はどのような経営状態にあるのだろうか。売上高は増加には至っていないが、微減で実質的にほぼ17年と同様ともいえる水準だ。利益は残念ながら低位安定といった様相になっている。一方で生産性など人的資源指標は上向き始めた。

製品別の動きと価格修正の動き

概観すると、好調は包装印刷、堅調・微減は出版印刷と商業印刷、続落は事務用印刷といった感じである。包装印刷は個人消費やインバウンド需要に支えられ利益面も順調だ。出版印刷は折からの出版不況に晒されてきたが持ち直しの機運が見られる。商業印刷は製品別の明暗はあるが全体としては数年前のように減るばかりではない。事務用印刷は法改正需要など特需の剥落で落ちているが継続的な不振でないだろう。全体に下げ止まり傾向が見られるのは、数量要因だけではなく価格要因も作用している。ほかの調査と考え合わせると、数十年来なかった価格修正の動きも影響しているようだ。

収支構造改善に向けた経営課題

しかし各種の経費が上昇傾向のため、売上高の善戦と多少の価格修正程度では吸収できずに利益率は低下した。材料費の減少傾向と外注費の増加傾向はあるがこれは相殺のようだ。他に、各種の固定費が相対的な上昇傾向にあって経費を押し上げている。設備費も増えているが、減価償却費はキャッシュアウトを伴うわけではないのでむしろ好意的に見て良い。各社の設備は長期的な圧縮傾向が続いているため、設備生産性はいつになく改善しているようで、需給面にもバランスシートにも良い影響を与えている。まだ速報段階だが言えることとして、課題は固定費を増やさずに受注を増やすマーケティング手法の開発と、成長投資領域の開拓が挙げられる。
(JAGAT研究調査部 藤井建人)

調査結果の速報は、業績面が7月15日発行、戦略面が8月15日発行、設備面が9月15日発行の「JAGAT info」誌上にて。詳細の報告会は9月下旬に開催、報告書は9月下旬の刊行を予定しています。回答社は報告会に無料招待、報告書を献呈いたします。
(JAGAT印刷産業経営動向調査2018 事務局)

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