モノとコトが溶け合う2020年のグッドデザイン

掲載日:2020年11月9日

2020年度グッドデザイン賞の大賞をはじめとする特別賞が、10月30日に発表された。コロナ禍にもかかわらず昨年とほぼ同数の応募があったという今年、有形無形の垣根を超えて、今後の社会を見据えた提案が多くみられた。

グッドデザイン賞は、デザインを見栄えや機能だけでなく、暮らしや社会をよりよくするものという観点で捉えている。近年ではその理念を発展させ、時代を象徴するデザインを探るという性質を強めている。

対象とする分野は有形・無形を問わず幅広い。今年の審査委員会は20ユニットに分かれており、さらに海外からの応募に対応するユニットも設けている。

審査に当たっては、「人間的視点」「産業的視点」「社会的視点」「時間的視点」を軸に、機能性のほか新規性、持続可能性なども考慮しており、受賞のハードルは高い。

2020年のテーマは「交感」

2020年度は、審査対象数4769件(昨年比-3件)に対し、受賞件数は1395件(同-25件)、受賞企業数974社(同+34社)だった。
コロナ禍にもかかわらず、昨年とほぼ同じ応募があり、受賞件数が若干減ったものの、受賞企業数が増えている。

今年のテーマは「交感」。デザインの過程で他者や社会・環境について考えることや、関わる人々が相互に感覚や感性、感思、感得を交えることを意味している。
大賞をはじめとする特別賞は、いずれもこのテーマを体現するものが選ばれている。

2020年度のグッドデザイン大賞は「自律分散型水循環システム [WOTA BOX]」(WOTA株式会社)が受賞した。

自律分散型水循環システム [WOTA BOX]
持ち運べる水再生処理プラントで、自然災害時の避難所において、シャワーなどの水利用に貢献している。
従来大規模な設備を必要とした水の利用を、どこでも誰もが何度でも使えるものに変え、AI技術により再生水の安全性も保証している。
災害時利用のみならず、「人と水と環境の関係を変える新たなインフラ」になり得る可能性を秘めた点が評価された。

「自律」「分散」「循環」は、今年の受賞提案の多くに見られる要素であり、2020年を象徴するにふさわしいデザインだといえる。

従来の仕組みにとらわれない個々人の創意工夫、小さな仕組みの連携、消費社会から循環社会への転換。これらは一企業で完結するものではなく、目的を共有する他者との協働が不可欠となる。多数の「交感」の連鎖が、これまでにないアイデアを生み、困難な課題を突破する力となるのではないだろうか。

なお、今年はコロナ禍だからこそ注目を浴びた製品・サービスも受賞している。グッドデザイン金賞の「ウェブサイト [東京都新型コロナウイルス感染症対策サイト]」(東京都) と「ビデオ会議システム [Zoom]」(Zoom Video Communications, Inc.)はその典型であり、2020年を象徴するデザインとして後世に語り継がれるに違いない。

ウェブサイト [東京都新型コロナウイルス感染症対策サイト]

▲ウェブサイト [東京都新型コロナウイルス感染症対策サイト]

ビデオ会議システム [Zoom]

▲ビデオ会議システム [Zoom]

モノのデザインとコトのデザインはセット

近年、システムや取り組みといった、無形のデザインの応募が増えてきていることから、デザインに対する捉え方にも変化が見られる。

youtubeのGOOD DESIGN AWARDチャンネルで公開されている審査講評のなかで、審査員自身が、モノのデザインとコトのデザインを分けるという従来の考え方から、モノとコトはセットという考え方に変わってきているという主旨の感想が出されていた。

これは、今後のデザインを考える上で大切な視点だといえる。

モノのデザインの背景にはコトのデザインが必ずある。

先に技術ありき、意匠ありきの発想では、社会に受け入れられるデザインを生み出すことはできない。
生活のなかで感じる不便さや物足りなさ、社会や環境に対する問題意識、それらを解決したいという思いがデザインの出発点である。

グッドデザイン金賞の「宿泊施設 [まれびとの家]」(VUILD株式会社)はユニット16(産業・商業の建築・インテリア)で審査された。
デジタルファブリケーションで現代の合掌造りを実現した建築もさることながら、限界集落での森林資源と人材の活用、クラウドファンディングによる施設の共有、地域での小さな経済の循環が、建物の3Dデータをほかの地域に提供することでグローバルに広がる可能性が評価されている。

宿泊施設 [まれびとの家]

同じくグッドデザイン金賞の「デジタルシネマカメラ [EOS C500 Mark II/EOS C300 Mark III]」(キヤノン株式会社)は、ユニット08(映像機器)で審査された典型的なプロダクト製品ではあるが、緻密な機能美とともに、手持ち、肩持ち、ドローン使用とさまざまな使用シーンに1台で対応できる点が高く評価された。

デジタルシネマカメラ [EOS C500 Mark II/EOS C300 Mark III]

同様に、コトのデザインの背景にはモノのデザインがある。

前述したグッドデザイン大賞のWOTA BOXは、ユニット19(システム・サービス・ビジネスモデル)で審査されたものであるが、サービスを実装する上では独自開発の水質センサや使いやすさにこだわった製品デザインが大きな役割を果たしている。

グッドデザイン金賞「サーキュラーエコノミー [BRING]」(日本環境設計株式会社)は古着の回収からリサイクル製品の製造販売まで自社ブランドで実施するサービスである。ユニット19でビジネスモデルとして評価されているが、サービスの背後には、ポリエステルを分子レベルに分解するリサイクル工場の存在がある。蜂をモチーフにしたロゴマークや洗練されたグラフィックなどの目に見えるデザインも、この取り組みを周知する力となっている。

サーキュラーエコノミー [BRING]

デザインを通して社会が見える

グッドデザイン賞は、社会課題の解決に重点を置いていることから、受賞デザインを通して、今年の社会を俯瞰する存在になっている。

人々が抱える困難も、解決の糸口も、新しい価値を生み出そうとする人々の志も見えてくる。

一方、そのように深く考えずとも、「これは便利」「これは面白そう」など、素直に楽しんでもよい。
今や、グッドデザイン賞は、デザインを切り口とした産業見本市ともいえる存在になっているのだ。

例年は全ての受賞デザインを展示する「グッドデザイン賞受賞展」が東京ミッドタウンで開催され、多くの来場者で賑わっていた。しかし今年は、グッドデザイン・ベスト100だけが東京ミッドタウン・デザインハブで展示され、その他のデザインは、グッドデザイン賞のWebサイトでのみ紹介されている。

東京ミッドタウン・デザインハブ 第88回企画展 2020年度グッドデザイン賞「グッドデザイン・ベスト100」

▲東京ミッドタウン・デザインハブ 第88回企画展 2020年度グッドデザイン賞「グッドデザイン・ベスト100」 2020年10月1日(木)〜 11月3日(火)開催

特別賞を受賞していないデザインも、創意工夫が詰まった魅力あるものであり、現物をこの目で見られないのは残念である。

新型コロナが終息し、全ての製品が一堂に会する日がくることを願う。

グッドデザイン賞 Webサイト→https://www.g-mark.org/

(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)

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