2015年の印刷市場を振り返る

掲載日:2015年12月28日

アベノミクスによる脱デフレ傾向と政府の投資刺激策は印刷経営を巡る環境を大きく変え始めた。印刷市場の底打ち傾向、印刷経営者の景況感改善、印刷会社の投資活発化とそれに伴う生産性改善。しかし状況は一律に良いわけでない。2016年を考えるために、2015年を振り返る。

2013年:行き過ぎた市場縮小の落ち着き、調整局面続く

「工業統計」によると2013年の印刷産業出荷額は1.3%減の5.5兆円、1.3%はリーマンショック以降、最小の下げ幅。印刷出荷額の減少幅は2年続けて1%台と、極端な市場縮小は落ち着いた。反面、円安傾向と脱原発に伴うエネルギーコストの上昇による材料費の値上げが印刷会社経営に影響した。また、政権交代後のアベノミクスによる株高や景気改善の波及は印刷会社の実感として非常に薄かった。前年に輪転機を有する有力中堅印刷会社の破綻や中堅印刷会社による積極的なM&Aなどがあり、市場では限定的ながら再編と集約化が進んだ。印刷機の減少も進み、世の中は景気の持ち直しに活気づき始めたが、印刷界では供給過剰の解消に向けた調整局面が続いた年であったといえる。

2014年:消費増税の影響大きいが、印刷会社経営は改善傾向

「工業統計(4人以上)」の速報によると2014年の印刷出荷額は0.6%減の5.4兆円と、減少幅はさらに小さくなった。4月の消費増税は印刷界においてもターニングポイント。2月から3月にかけて増税前の駆け込み需要が膨らみ、特に3月は一時的に空前ともいえる活況を呈した。しかし4月以降は駆け込み需要の反動減があり、特に折込チラシなどはその影響が長引いた。しかし年間を通じれば印刷会社の売上高はプラスに。税率は5%から8%へ、マクロ経済はデフレから脱デフレへ、為替は円高から円安へ、経済を取り巻く数年~数十年単位の大きな環境変化が相次いで、これらは脱デフレ時代とは違う影響を遅まきながら印刷経営にも与え始めた。数年来多かった有力中堅印刷会社の破綻が2014年は皆無であったことなども含め、印刷市場が安定し始めたことを意味する指標や事象が現れた。

2014年:消費増税で状況が一変、商業印刷の一部で影響が長期化

「工業統計」は2014年について4人以上の事業所に限定した速報を公表した。2014年の印刷出荷額は0.6%減の5.4兆円と、減少幅は2013年に続いてさらに小さくなった。4月の消費増税は印刷界においてもターニングポイントとなった。2月から3月にかけて増税前の駆け込み需要が膨らみ、特に3月は一時的に空前ともいえる活況を呈した。しかし4月以降には駆け込み需要の反動減があり、特に折込チラシなどはその影響が長引いた。しかし年間を通じれば印刷会社の売上高はプラスになった。税率は5%から8%へ、マクロ経済はデフレから脱デフレへ、為替は円高から円安へ、経済を取り巻く数年~数十年単位の大きな環境変化が相次いで、これらは遅まきながら印刷経営にも好影響を与え始めた。数年来多かった有力中堅印刷会社の破綻が2014年は皆無であったことなども含め、印刷市場が安定し始めたことを意味する指標が現れた。

2015年:印刷市場は安定、印刷経営は改善続く

JAGATの月次調査に基づき2015年の印刷市場を振り返る。印刷会社の売上高は、年間を通してほぼ前年より微増程度で堅調に推移した。2014年対比は3月に大幅減、4月に大幅増、これは前年に増税があった反動増減。5月こそマイナスだったものの、6月以降は10月までプラス圏で安定的に推移した。売上高が増えているのに受注件数は微減なので、売上高の堅調さは必ずしも数量増を伴ったものでなく、価格面の下げ幅縮小など数量面以外も寄与した可能性が考えられる。印刷経営者の景況感も改善が進んだほか、設備投資の活発化とそれに伴う生産性の改善など、改善傾向を示す指標の種類が増えた。ただし売上高や生産額は年末に向かってやや失速したようだ。

2015年:景況感、印刷会社経営者の声

好調さを指摘する経営者が例年より目立った。「売上を順調に伸ばすことができ、充実した」「納期に追われた1年」など。数年前までこうした声は非常に少なかった。「新工場建設」「多くの設備投資を実施」など、景気改善と政府の投資刺激策を追い風に積極的な投資に取り組んだ印刷会社が多かった。「新興国の変調が印刷にも影響」「既存の印刷会社には厳しい年」と、苦戦した印刷会社は例年どおり多い。印刷経営者の景況感は相当程度に改善、調査史上の最高水準にまで高まった景況感指標もあった。こうして改善・悪化が入り混じった状況を一言で言い表すのは難しいのが、少なくとも改善の声が入り混じり始めていることは確実である。

2015年:生産金額と経営指標にみる改善傾向

印刷物生産金額は、全体としては年間を通じて堅調に推移したようだ。特に商業印刷は近年にない好調さだったようだ。一方、出版印刷は年間を通じて低調に推移、その不振は構造的で深刻な問題である。全体として高いとは言っても製品別の好不調の差は大きい。また、商業印刷の内訳も一律に良いわけではない。印刷会社の業績は、全日本印刷工業組合連合会の調査結果によると売上高は3年連続増加、営業利益率は4年連続改善で9年ぶりの3%台を回復と改善基調。上述のJAGAT月次調査の堅調な結果なども含め、異なる複数の公的機関の調査結果において印刷ビジネスのトレンド改善を示す指標が見られる。

2015年:アベノミクスの印刷ビジネスへの影響

アベノミクスは副作用のリスクを内包しながらも、我が国経済は20年続いたデフレからの脱却が視野に入り、功罪を差し引きすれば印刷界にも好影響の方が若干大きいのではないか。景気の底堅さと株高は印刷の数量面に、脱デフレは価格面に、政府の積極的な景気刺激策は投資面に、円安は材料面に影響している。これら未曾有の経済金融政策による多面的な変化が複合的に影響を及ぼし形成する印刷界の将来について予想は非常に難しい。また、地域活性ビジネスの広がりやデジタルメディア環境についても考慮しなければならない。しかし印刷ビジネスのトレンド転換を示す指標が増えていることを考えると、アベノミクスが少なくとも名目上の売上高を押し上げる方向に働き、印刷ビジネス周辺の様々な経済活動を活発化させていることに間違いはない。

2016年:大きく局面の変わった印刷周辺環境をどのように正しく理解して対応するかが鍵

指標の改善と経営者の体感が異なり、錯綜する現在の印刷ビジネスを巡る状況をどのように理解すべきか。デフレからインフレへ局面は大きく転換した現在、経営スタンスも時代に合わせて変えていく必要が生じていて、変化に対応できた企業が業績を高めている状況にある。2016年はマイナンバーの実施、全国規模の選挙、電力自由化など、変化をもたらすトピックは例年より多く、国内経済の話題は事欠かない。一方、海外には中国景気の減速や欧州のテロ問題など懸念材料が多い。これらはどのように我が国の印刷ビジネスにどのようなインパクトを与えるか。新年度を考える会社が多いこの時期、注意を払って情報を収集、様々な変化が自社に及ぼす影響を見極めるようにして来たる2016年度に備えるようにしたい。

印刷総合研究会 印刷マーケティング部会 
(JAGAT 研究調査部 藤井建人) 

※詳細はJAGAT会員限定誌「JAGAT info」2016年1月号に掲載予定
※より詳細な分析を加えた研究会を下記開催予定

<関連セミナー>

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「印刷ビジネスの動向と展望2015-2016」

<関連書籍>

「印刷白書2015」
「JAGAT印刷産業経営動向調査2015」
レポート 「印刷会社と地域活性 Vol.2」
最新刊「
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