カスタマージャーニーを 理解するために (UX、DECAX、etc.)

掲載日:2017年9月4日

今回はカスタマージャーニーに行くまでの踊り場として、印刷ビジネス周りに触れてみたい。

面白い話をまず紹介したい。通販ではダイソン製のスティックタイプのコードレス掃除機が売れているという。もちろん製品自体の魅力もあるだろうが、そういう(高額でも高性能でデザインが優れている= 特別な存在。家電が貴金属的な嗜好を持つ)商品が売れるのが、日本の市場だということでもある。

ペルソナとしての日本人は、世界的に見ても、特殊で個性的といえる。ダイソンのコードレス掃除機は評価も高いのだが、「置き方が難しい」というマイナス面もある(充電器が取り付け器具を兼ねているのだが、そういう取り付け方を実戦している例は多くない)。

JAGATでは家電オタクのH 部長がいるのでダイソンの掃除機が数台あるが(もちろん年式落ちで格安)、置く場所を考えないとちょっとしたことで倒れてしまい、高額商品なので「傷がつかないか?」(ケチな私などは)心配してしまうのだ。これに目をつけた通販会社がデザインの優れた置き台を製作したのだが、ダイソンに負けないデザイン(削り出し)にしたために価格が1万円くらいする。

さすがに同時購入を勧めても(置き台だけで1 万円では、新しい掃除機が買えてしまう?)ほとんど売れないのだが、2カ月ぐらいして散々倒した経験後に紹介すると、非常に高い購買率(コンバージョンレート)を示すという。カスタマージャーニーというわけではないかもしれないが、面白い話である。

さて、マーケティングについて議論すると「電動ドリルの話」がよく出るのだが(「顧客が欲しいのはドリルではなく穴である」という逸話)、ダイソンの場合はどうなのだろう?

キレイになれば良いということなのだが、単なる機能だけの値段で考えたら決して安くはない。しかし、羽根のない扇風機を最初に見たときの驚きは、非常に大きく衝撃的だった。家に客を呼んでダイソンの話をするという機会代金(機械代金ではない。ダイソンというアイテムで満足感を得る体験代のようなもの)分も価格に入れれば良いバランスなのかもしれない。

前述したH 部長の「ダイソンがいかに素晴らしいか?」の説明は名人芸の領域だが、H 部長にとっても気持ちの良い時間なのだろう(新しいマーケティング理論ではこれをeXperience「体験と共有する」といっている)。

最近のマーケティング理論ではUX がとても重要視されている。UX とはUser Experience の略語であり、日本語に訳すと「ユーザー体験」となるが、よく事例として挙げられるのがディズニーランドである。

ディズニーランドは、アトラクションの待ち時間も飽きさせない、何から何まで体験を売るというパーフェクトな体験ビジネスとして設計されている。すべてが夢の世界の出来事であり、その夢体験を求めてリピーターが集まるのだ。大阪のUSJ は、かつてはハイカラな遊園地の域を出なかったのが、ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッターができてからは完全な体験型のテーマパークに生まれ変わり、好成績を続けている。

ダイソン掃除機、羽根無扇風機は「使う体験」「所有する喜び(優越)体験」「語る体験(共有・発信欲)」等のスペシャル体験ということもできるのだ。

最新の消費者行動モデルであるDECAX は、一文字目がAttention(注意喚起=広告)からDiscovery(消費者による情報発見)へと移っている。

Discovery(発見):消費者が有益なコンテンツを発見する。
Engage(関係):消費者がコンテンツの発信元(企業)と関係を深める。
Check(確認):消費者が発信元(企業)の商品を確認する。
Action(購買):消費者が商品を購入する。
eXperience(体験と共有):消費者が商品を体験して情報共有する。

というものだが、確かにインターネット、特にSNS の普及とともに行動パターンがこうなっていくのは理解できるが、逆に発見させる(される)ことは今後加速度的に難しくなり、「紙での訴求という手段が、再度見直される」と断言している広告関係者も多いのだ。

(『JAGAT info』2017年5月号より)

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