印刷機の稼働状況の見える化とデータ活用 KP-コネクト(小森コーポレーション)

掲載日:2018年2月19日

JAGATでは、毎年12月に、その年に発表された注目製品をピックアップし印刷技術のトレンドを見定める「JAGATトピック技術セミナー」を開催している。今回は2017年の講演から、小森コーポレーションの「KP-コネクト」について紹介する。

KP-コネクトは印刷機の生産性の向上を支援するソフトウェアで、2つのグレードがある。Basicはインターネットのクラウドサービスで提供されるもので、Proはインターネットのクラウドと印刷会社内に設置されたサーバを併用するものである。

Basicにより印刷機の稼働状況の見える化が可能となり、Proは、更に工程管理の機能を加えて印刷機以外の機器を含む工場全体の管理が可能になる。KP-コネクト Proは、小森コーポレーションが考えるスマートファクトリーの具現化を目指す製品といえる。

作業日報を自動化し稼働状況を見える化

KP-コネクト Basicは印刷機の制御システムであるKHS-AIのバージョン5以降を搭載した小森製のオフセット印刷機につながる。2010年以降に提供された印刷機が対象となる。

KP-コネクトは印刷機の稼働状況を「見える化」するが、その目的は印刷機の生産性向上である。当社が印刷機の稼働率を調べたところ、印刷機の電源が入っている時間に対して本刷りをしている時間の比率の平均値は約30%である。この値は週6日稼働するとして、そのうちの2日しか稼いでいないという意味となる。それ以外は準備しているか止まっている。

稼働率を上げてもっと稼ぐためには現状のどこに問題点があるのか把握することが出発点となる。しかし、正確なデータを把握している印刷会社は非常に少ないのが現実である。作業日報を見れば、1日に行ったジョブ数や通し枚数は分かるが、準備時間として段取り替えや見当合わせ、色調合わせにどのくらいかかり、本刷り時間はどのくらいかなどのデータまではなかなか把握しきれない。KP-コネクト Basiceは印刷機の生産性を向上させるために、こうした細かい稼働状況のデータを印刷機から自動的に収集し、結果を分かりやすく「見える化」するシステムである。

クラウドサービスとして提供されるので、ユーザーインタフェイスはウェブブラウザーである。社内のパソコンだけでなく、スマホやタブレットでもアクセスできる。

KP-コネクトに接続された印刷機、正確にはKHS-AIから30分ごとにクラウドに対して稼働状況のデータが自動送信され、そのデータをグラフ表示など見やすい形に加工して見ることができる。1日の総本刷り枚数、総損紙枚数、ジョブ数ほか、さまざまなデータが表示される。実稼働率は、本刷り時間が青色、立ち上げ時間が緑色、ジョブ中の停止時間が赤色、待ち時間などのジョブ外時間がオレンジ色で表示される。

印刷機の電源が入っていた時間に対して、それぞれの時間の比率が円グラフで表示される。他の指標として、立ち上げ時間の日次推移、試し刷り枚数の日次推移、印刷速度(A能率)の日次推移などがある。これらのデータは印刷機のバックグラウンドで自動集計されている。

さらに詳細な実績情報を見ることもできる。印刷回転数の推移を時系列でグラフ表示する。ジョブを開始してから、準備時間、本刷り、途中で中断があればその理由も含めて記録される。また、抜き取りをして測色したデータも自動収集される。ベタ濃度の基準値に対して実際の誤差の程度、その推移を確認できる。インキキー別の濃度情報、ドットゲイン値や基準値に対しての色差のΔE値も記録されている。

スマホやタブレットでも見ることができるので、インターネットがつながれば営業や管理者は外出先からでもアクセスして印刷機の稼働状況を確認することができる。印刷が終わったジョブは青色表示、作業中の仕事は緑色で表示と色分けで状況が分かる。

また、A能率やC能率といった生産性指標、月次の本刷り枚数、損紙枚数、ジョブ数、平均ロットなどのデータは自動集計されグラフ表示される。例えば「今月はずいぶん試刷りが多いな」などのように気になったことがあれば、そこをクリックすると、今月のワーストジョブ(試刷り枚数の多かったジョブ)が表示され、原因は何かもまで確認できる。ただし、「お客様の立会い」などの情報はオペレーターが入力する必要がある。

印刷機の操作ノウハウを提供

もう一つ重要な機能はナレッジ情報で、当社のプリンティングカレッジの講師が作成した印刷機の操作やメンテナンスあるいはトラブル対応のドキュメントが入っている。

例えばメニューのなかから給水部ローラーニップ調整という見出しをクリックする。この部分の調整は品質管理上非常に重要であるが、新人のオペレーターはよく分からないだろう。そこで調整が必要な理由、メンテナンス作業に必要な用具、その手順が分かる。文章や図版では分かりにくい部分は動画を使って説明している。

これらのKP-コネクト Basicの機能により印刷機の稼働状況が見える化され、どこに課題があるのかが分かる。次にその課題の解決策であるが、それに対してはK-サポートというメニューがあり、当社のサポートチームが現場に入って課題解決のお手伝いをする。この利用はKP-コネクトの導入が前提となる。

K-サポートの活用による生産性向上事例

K-サポートの利用事例を紹介する。あるユーザーは刷り出し時のインキ濃度が基準値と大きく乖離している傾向があった。刷り出し時の濃度が低いのでインキキーを開いていくが、そうすると濃度が上がり過ぎて、なかなか適正濃度にならない。結果、時間はかかり、用紙、インキの使用も増えてコストアップにつながっていた。

そこで、同社のコンサルタントが、機械メンテナンスの適正なやり方を指導した上で、印刷機のセッティングを基準どおりにセットし直した。その結果、刷り出し時から適正濃度で安定した印刷ができるようになった。大事なのは継続性で、継続する仕組みを作り、更に該当の印刷機だけでなく他の印刷機にも展開することが求められる。

そのときに改善効果が継続していることを確認するためにも、KP-コネクトによる「見える化」の仕組みが必須となる。この事例では、K-サポートが入って1カ月間で1ジョブ当たりの平均試し刷り枚数が半減した。

工場全体を最適化するKP-コネクト Pro

KP-コネクト Proは基幹システムに入っているデータと製造側のデータとを接続して、一元管理しようという製品である。社内にサーバを設置し、そこで基幹システムのデータを受け取り、それをもとに生産計画を立てる。KP-コネクト Proにはスケジューリングの機能は印刷工程だけでなく製本工程など前後の工程もカバーしている。もちろんMIS側でスケジュールしてもよく、スケジューリング機能はオプションである。

重要なのは、スケジュールに対して実績情報をリアルタイムに反映させることである。それには印刷機のオペレーターが、1日の仕事が終わった後にまとめて入力しているのではだめで、仕事の着手、完了のタイミングでデータが登録されなくてはいけない。

KP-コネクト Proは印刷機からの自動収集の機能だけでなく、タブレット端末を使ってオペレーターが登録することもできる。予定を作成し、その予定を各製造現場に配信し、実績を収集する。印刷物の製造にかかわる予定と実績データの一元管理を実現するシステムがKP-コネクト Proで、工場全体の進捗管理の一元化による全体最適を図る仕組みとして位置づけられる。

(JAGAT 研究調査部 花房賢)

トピック技術セミナー「印刷機の稼働状況の見える化とデータ活用」より