Dscoopソウル速報

掲載日:2018年6月6日

Dscoopソウルが、2018年5月14日~16日の3日間行われた。場所は韓国の秋葉原ともいえるところで、龍山駅(ヨンサン駅、ちょうど東京駅と秋葉原の位置関係に酷似していて、龍山駅はソウル駅至近にある。)に隣接した巨大ホテル群の中心的存在のDragon City Hotelで開催された。

会場のDragon CityはDragon City Hotelの他にNovotelが二つ(高級版も含めた)とIbisの計4つのホテルが集まったイベントセンターだ。龍山駅付近は東京の秋葉原駅のように周辺には電気街が形成されている。私も8年前に興味本位で訪問したことがあるのだが、その時は秋葉原というよりは大阪の日本橋のイメージに近かった。今はさすがに高層ビルが立ち並び現在の秋葉原のように変貌している。

肝心のイベントの方だが、テーマは“Unleashing Print”である。文字通り「印刷を解き放つ」と訳すべきなのだろう!この辺については、参加者同士で真剣に議論しなかったので、自信はないのだが、「印刷から」ではないと思う。

韓国外からの参加者は13日のうちに韓国入りしており、日本からの参加者もほとんどの方はそうだったのだが、Dscoopジャパンの林チェアマン(株式会社精工社長)の呼びかけで、50人以上の日本人が韓国居酒屋(韓国の一般的な定食屋)に集まって懇親を深めた(第0日目をとても堪能できた)。私も2回目の参加なのだが、初日からこんなムードで始まったのは初めてということだった。

第1日目の5月14日だが、日本チームは会社見学から始まった。各チームに分かれて見学を行ったのだが、私が参加したのチームは“Interpro Indigo社”(商業印刷は本社で、出版のPaju工場は“Interpro Indigo POD book”と呼んでいる)と“Betterway Systems社”の二社を見学した。“Interpro Indigo社”は日本でいえば、帆風や東京リスマチックという感じだろうか?都心部にオフィスを構えるプリントショップで、1年前に出版印刷も始めて、ソウル郊外のPaju工場にロールタイプのIndigoW7250を持つ。

“Interpro Indigo社”で見学したのは、商業印刷を主としているソウル都心部の本社Mukjeondongオフィス(写真1)で、現場見学とマネージャーのSung Ho Kim氏のプレゼン&質疑応答を行った。印刷機はA3機のIndigo7800×1台(写真2)、B2機のIndigo10000×2台(写真3)の計3台をフル活用している。

(写真1)Interpro Indigo社

(写真2)A3機のIndigo7800

(写真3)B2機のIndigo10000

基本は持ち込みファイルで印刷需要に応えていたのだが、現在ではインターネット入稿が上回っており、持ち込み入稿:インターネット入稿=35:65ということだ。持ち込みは受付で応対し、すぐに編集部スタッフが対応できるようになっている。不備なファイルは編集スタッフが有料で対応するという欧米的なシステムである(やはりアジアなので欧米のようにはスッキリ行かないとは思うが)。普通の印刷会社以上に熱心なのが、製品の幅を広げることであり、紙の種類(写真4)やラミネート、カッティングでバリエーションを増やす工夫を行っている。

(写真4)Interpro社の用紙在庫

2社目の“Betterway Systems社”は屋号を“Red Print & Press”と言い、こちらはデジタル印刷専門「プリントパック」という感じで、デジタル専門の印刷通販をやっている。設備はIndigo10000×1台、Indigo7800×3台、IndigoW56800×1台、Scodix×2台等で印刷製品のバリエーションを増やしている。“Betterway Systems社”は特に缶バッジを得意にしており、GRAPHTECカッティングプロッターを多数並列に設備(120台)して缶バッジを制作している。写真撮影はマネージャーのプレゼン以外NGだったので、ここまでにさせていただく。しかし、ここも表面加工等にシフトしているのは他社と同様だ。

ただし2社ともに伝統ある会社ではなく、印刷外の産業から参入して3,4年しか経っていない会社だ。日本風のしがらみのない韓国で、もっとしがらみのない他業界から参入してきた印刷会社が、年々倍々ゲームで売り上げを伸ばしている姿には、日本でも参考にすべき点がたくさんあると感じた(詳細は次号で)。

会社見学した同一チームにマレーシアやシンガポールの人がいたが、「まさしくしがらみゼロでデジタル印刷には向いているなぁ」と思い知らされた次第である。むしろインドの人の方が日本人みたいだった。

そしてヨンサンに戻り、夕方17:00からDscoopソウルのオープニングセッションが始まった。写真5の中心で手を挙げているのがDscoop APJ ChairmanのKelvin Gage氏で、彼を司会に各国のチェアマンが壇上に上がってのセレモニーとなった(林チェアマンは右から2番目)。

(写真5)Dscoopソウル オープニング

初日の基調講演は未来学者のMagnus Lindkvist氏(写真6)である。派手目なアクションを交えての話は、好き好きかなと感じた次第。そしてカクテルパーティーへと移行するという段取りで1日目は無事に終わった。2日目は基調講演から始まり、SamsungのMarcomグループリーダーであるJung Chi Seo博士(写真7)の「革新とデジタル間のナビゲーション」というテーマだが、実質「Sumsungがいかに半導体部門でNo.1になれたか?」という内容で、日本人としては耳の痛い話でもあった。

(写真6)基調講演(MagnausLindkvist氏)

(写真7)Jung Chi Seo博士

この日は日本からのスピーカーも参加していて、まずはトップバッターが凸版印刷株式会社九州事業部 販促開発部 BIチーム部長の高博昭氏である。高氏は2018年4月より事業戦略・経営企画兼務となっている。凸版九州はキシリトールガムでおなじみだが、バリアブルのシール等の話はとても面白かった。動画等を織り込みながらのプレゼンは、凸版の殻を破ろうとする気持ちはとても理解できる。

この日のハイライトは、日本からの本間氏(マーケティング専門家)、岡本氏(元Dscoopジャパンのチェアマンでグーフ社長だが、グーフはデジタル印刷ソリューションを提供・サポートしている)、石川氏(ディノス・セシールのEコマース責任者)が、紙を毛嫌いせずにマーケティングに活かすと、こんなに効果が出るという点を中心に議論を展開したセッションだ(写真8)。個人的には同様の話を一日に計3回お聞きしたが、それぞれ強調される点が異なっているので、それぞれ面白かった。

(写真8)グーフ 岡本 幸憲氏、ディノスセシール 石川 森生氏、電通マクロミルインサイト 本間充氏

1回目は日本語でのトークを英語訳(もちろん私は日本語ダイレクト)、もう一つは英語のセッションで、最後が日本人たちを集めたミーティングでの話である。この席で特に本間氏がハッキリ言いきったのが印象的だった。「リッチコンテンツともてはやされた時代もあったが、現在はスマホが全盛でしょ!スマホでリッチコンテンツと言ってもねぇ?」というのは、すっきり腹に落ちる話である。紙だから良いのではなく、マーケティングデータに則ってのバリアブルやOne to oneプリントを効果的に使用すれば、とても大きな成果が得られるというわけだ。JAGATも、今年1年は「デジタル×紙×マーケティング」で走ろうと思っているので、我が意を得たりで、大変頼もしく思っている。

最終日の基調講演で初めてHPのIndigo担当者がお出ましなのだが、HP IndigoのGeneral ManagerのAlon Bar-Shany氏(写真9)がIndigoの歴史と近未来について語った(特に印刷のバリエーションについて)。

(写真9)HP Alon Bar-Shany氏

そしてお待ちかねの今回のDscoopソウルの目玉でもあるミニMBAだ。初日からミニMBAは開催されていたのだが、最終日は日本語によるミニMBAだったので、これに参加させていただいた。朴貞子先生(写真10)は朝鮮系の中国人で、北大留学(札幌の北大)で来日、その後大阪市立大の博士課程に進んだということである。単なる学者ではなく、実践しながらの経験の話は大変ためになった。マル一日聞いても良いイベントで、とてもDscoopチックな内容だった。

(写真10)朴貞子先生

こんなことが速報だが、シンガポールの時はブランドオーナーのオンパレードで、こんな印刷をしてもらいたい的な話(品質の話ではなく、こういうタイムリーなビジネスにしたいので、協力して欲しい)が多かった。しかし今回のDscoopは印刷関連スピーカーの割合も程良く、会社見学等、カリキュラムのバランスもとれていたと思う。

日本でもこの手のイベントは切望されるだろうが、正直並大抵のことでは実現不可能である。HPさんの底力(直接はDscoop事務局の力)を再認識させられたわけだが、非常に満足いく内容だったのが率直な感想である。

(文責:JAGAT専務理事 郡司秀明)