工場見学で企業価値と地域価値を創造する

掲載日:2018年7月9日

新たな顧客接点をつくる手法の一つに工場見学がある。来てもらい、見てもらって自社へのロイヤリティを高めてもらう。さらには地域一体型の工場見学によって様々な相乗効果を得る手法も増えている。

 

工場見学が持つ多くの意味

見学を受け入れる工場が増えている。見学者を受け入れる目的は、製造プロセスを知ってもらうこと、生産設備を知ってもらうこと、生産者の顔を知ってもらうことなどを通じて、企業へのロイヤリティを高めることにある。副次的に、プレゼンテーション能力の向上、見られる工場づくりを目指すことによる5Sの進展、見学者からのフィードバックによる工場改善ポイントの獲得なども期待できる。工場見学の受け入れは、決して簡単なものではない。しかし見学への申し込みが途切れないような工場を作り得たならば、工場は強い営業拠点にもなる。

地域一体型で工場見学を行う意義

工場見学を1社単独でなく、地域で共同して行うことで、集客力を大幅に高めることができ、まちづくりにもつなげられる。モノづくりの工場の多くは中小企業であり、経営資源には限りがある。しかし地域一帯型なら全国から、さらには海外から見学者を呼び込むことすら可能になる。何気ない地味な工場のまちであっても、地域一体で取り組めば、工場や職人、技術は魅力的な観光資源に生まれ変わりうる。産業ツーリズムとして多くの一般の方を招きいれ、まちと産業、そして自社を好きになってもらうことが可能になる。以下に二つの有名な地域一体型工場見学の事例を挙げる。

燕三条「工場の祭典」の事例

日本有数の金属加工の産業集積がある「燕三条 工場の祭典」は、2017年の開催で第5回を迎えた。毎年10月上旬の3日間に渡って燕市と三条市の100を超える工場が協力して5万人もの見学を受け入れる。期間中は誰でも予約なく参加工場を見学して、金属のモノづくりを目の当たりにすることができる。金属加工の工場は下請けであることが多く、ブランド力やマーケティング力が充分でなく、自社の技術力に気づいていない場合も多々ある。全国から訪れる5万人の工場見学者との接点を持つことは、工場にとって技術訴求、販路拡大、知名度向上など多くの意味を持つ。見学者のなかには海外有力メーカーのバイヤーが紛れていたりする。工場の祭典は多くのビジネスチャンスをもたらし、若手の採用にもつながったという。

台東区南部「モノマチ」の事例

皮革製品、神・仏具、財布・バッグ、玩具・人形・バッグなど多様な産業集積のある台東区南部の「モノマチ」は、2018年5月の開催で10回目を迎えた。170の工場・商店が3日間に渡って一斉にモノづくりを訴求するイベントで、推定10数万人が訪れる。期間中は開催エリア2キロ四方の参加店に入りながらまち歩きをして、楽しみながら台東区南部のモノづくりを知ることができる。「モノマチ」は産業間の横のつながりをもたらしたと、関係者は一様に声を揃える。モノマチなどを通じて若手デザイナー・クリエイターが流入したことで、台東区南部はクリエイティブ・フューチャーとも呼ばれる先進的なモノづくり地帯に生まれ変わった。第10回の実行委員長は望月印刷の社員である田中一博氏が務めている。

(研究調査部 藤井建人)

参考文献:
『工場見学を観光資源に変えるイベントの機構~「燕三条 工場の祭典」にみる地場産業活性を事例として~』(2017),『JAGAT info』 2017年11月号,公益社団法人日本印刷技術協会

『地域一体型オープンファクトリーでまちづくり~台東区南部「モノマチ」とデザイナー活用による地場産業再生~』(2018),『JAGAT info』 2018年7月号予定,公益社団法人日本印刷技術協会

参考ページ
JAGATによる地方創生/地域活性ビジネス研究