マスター郡司のキーワード解説:転写プリント

掲載日:2025年10月2日

ビジネスとしての転写プリント

最近の印刷総合研究会では、通常の印刷ビジネスだけでは儲かるビジネスにならないので、紙以外の印刷ビジネスにフォーカスしている。そこで今回は、転写プリントについて語ってみたい。

基本的に転写プリントというのは、例えば中学・高校の校章をワイシャツなどにプリントする際、校章の付いた転写紙が販売されており、その転写紙をアイロンで熱と圧力を加えることで校章の文様がワイシャツに転写されるというものだ。転写プリントもこの仕組みを使用しているのだが、印刷会社では印刷ビジネスにするために1枚から数枚、何十枚、何百枚と印刷・転写できるようなシステムに工夫しているのである。

数枚なら転写する工程も手持ちアイロンを使用した手作業でできるであろうし、何百枚なら転写部分をオートマチック化して生産性を上げることになる。実際の印刷会社では、手持ちアイロンを使った完全手作業で転写作業をしているところもないわけではないだろうが、洗濯屋さんの自動アイロンのように蓋をするだけで簡単にアイロン(転写)できるアイロンかけ機で均一に圧をかけられるようになっているのが普通だ。

被印刷体はTシャツのような布が一般的で、体操着への校章入れやクラブ活動関連に大きな需要がある。転写プリントビジネスとは校章などの転写紙を製作すること、もしくは体操着などに転写までしてしまうことを指している。もちろん、自分の好きな絵柄を入れて自分用のTシャツにするのも、印刷会社の重要な転写プリントビジネスだ。大がかりな設備で大量生産する場合や、地元の高校生を相手にこぢんまりとやるところ等々、さまざまである。

熱転写と昇華転写

転写プリントは、画像部を市販の専用シートにプリントし、それを商品に圧着していく印刷方法である。そのため、商品に直接インクを載せる方法よりも発色性に優れ、細かな線や繊細なタッチの再現が可能だ。また、印刷できる素材が多く、アイテムの選択肢が広がるのも転写プリントの強みである。「布プリント」というと専用インクによるインクジェット方式を想像してしまうが、HP Indigoで転写紙を使ってTシャツ印刷ビジネスを展開しているところは多いし、転写紙を使うことで、布に直接噴き付けるよりも用途が広がるのである。平版印刷がゴムブランケットを介在させることで印刷方式のメジャーになっていったことを考えれば、想像しやすい(?)ハズだ。

代表的な転写方式に「熱転写」と「昇華転写」があり、種類も異なるうえに被印刷体も異なってくる。例えば昇華転写は、対象がポリエステル素材に限定されてしまう。また、気化させるので専用のインクも必要となる。

昇華転写プリントは、他の印刷システムよりも鮮やかなフルカラープリントができるため、ノベルティーグッズやユニフォームなどの製作、屋内外の看板やのぼりにまで幅広く活用されている。陶器やガラス、鉄製品へも昇華転写は可能だが、その場合は被印刷体にあらかじめポリエステル薄膜を塗布しているのだ(ポリエステル加工済み)。また、昇華転写はインクをポリエステルに浸透させるため耐久性や発色に優れるが、素材色が黒や紺だとそれに負けてしまうこともあるので注意が必要だ。工程を大まかに説明しておこう。

熱転写

① 熱転写シートに印刷
転写用インクジェットプリンター(DTF=Direct to Filmプリンター)で、専用のPETフィルムにプリントする。カラーインク、白インクの順に塗布した後、画像部分にパウダー状の接着糊を載せる。

② 仮転写
アイロンで仮転写を行う。仮転写によって生地が温まって接着しやすくなり、縮みやすい生地を慣らしておく。

③ 本転写
熱プレス機で約20〜30秒間、熱と圧力を加え、冷却後にフィルムを剥がすと印刷部分だけが転写される。

④ 完成
再度、10秒ほどプレスをかけて強固に圧着し、完成。

昇華転写

① 昇華転写紙に印刷
反転(1工程多いので)した写真データやイラストを専用インクで転写紙に印刷する。

② 転写シートを貼る
被印刷体に転写紙を、ずれないように注意深く貼り合わせる。

③ 昇華転写
360℃に熱した昇華転写機に被印刷体をセットし、転写。気化してポリエステルに染み込む。

④ 転写紙を剥がす
数分後に昇華転写機から取り出し、転写紙を慎重に外す。

⑤ 完成

(専務理事 郡司 秀明)