地域活性化のフィールドワーク

掲載日:2019年6月9日

地域と企業の両方を同時に活性化する手法に産業観光がある。そしてこの取り組みを印刷会社が主導する場合が見受けられる。工場見学をマーケティングに活用、あるいは地域の観光資源に活用する潮流も生まれている。実際にどうすれば良いか、実地の勉強会を行った。

地域活性化のフィールドワーク

業界内外から、全国からの多彩な11名で、台東区南部を舞台に開催された「モノマチ」の視察ツアーを行った(19年5月24日)。地域活性化に関心の強い有志の発案から成立した企画である。趣旨は、モノマチを見学しながら、まちづくりと企業の関わり方、地域活性と地場産業活性の両立のあり方を考えること。台東区南部の約2キロ四方には、財布・バッグ、神・仏具、玩具・文具・人形、繊維・手芸など多様な産業がかつてほどではないがひしめく。前実行委員長である望月印刷の田中一博氏とJAGAT研究調査部がガイドを務め、主要な拠点に立ち寄りながら見学して説明に耳を傾け、議論しながら歩いた。

フィールドワークの対象とした台東区南部の特徴1

当日は11時に集合、最高気温は31℃を記録する暑さのなか、休憩を挟みながら夜7時まで、最短の行程を組んだつもりだったが12キロ近く歩いた。今回フィールドワークの対象とした台東区南部は、いまや国際観光都市となった上野・浅草を擁する華やかな台東区北部と比べれば、対照的な中小零細企業中心の地味な商工業集積である。特に昭和50年代以降は、機械化による職人の減少、大手との競争、中国への生産移転などによって衰退の一途をたどっていた。

フィールドワークの対象とした台東区南部の特徴2

しかし現在は、モノづくりを中心にした産業の再興、デザイナーの流入によって変貌しつつある。要因はいくつかあるが、例えばインキュベーション拠点(台東デザイナーズビレッジ、2k540)の設置、業種横断的なプラットフォーム「モノマチ」の開催が挙げられる。減少した職人の代わりにデザイナーが住み着き、地場産業と結び付いて独自ブランドを生み出すようになった。空き家・空き工場がアトリエ兼ショップやコワーキングスペースに生まれ変わっていった。既存産業の横断的協力が進み、新規開業も増えた。まちにはこれまでになかった都会的なカフェなども目に付くようになった。これまでの地味な下町が洗練された雰囲気をも包摂するまちになったのである。

参加者による視察ツアーの感想

地場産業の不振に喘ぐ多くの地域にとって、変化の途上にあるまちのフィールドワークは参考になる。さらに「モノマチ」期間中は、工場やデザイン事務所の見学を通して企業の内実に触れられる。ツアー参加者は、長距離を歩きながらも疲れを感じさせずにモノマチを通して台東区南部から多くを感じ取ったようだ。「自分の地域でもやりたい」「イベントのクオリティが高い」「『産業を観光資源にする』という意味がわかった」「大いに刺激を受けた」「また企画して欲しい」などの感想が聞かれた。そして懇親会での意見交換は夜遅くまで続いた。

産業観光・産業ツーリズムの可能性

参加者側の勧めから有料で企画したが、早々と定員に達した。ツアー参加者が、見学先で地場産業製品を予想以上に買い物したことも主催者としては驚きと喜びであった。台東区南部に多少なりとも経済的な貢献ができた。今回はテストケースながら、産業を観光資源に活用することの事業可能性を実地に体験できたのも収穫だった。産業観光の定義は*「(略)生産現場および産業製品を観光資源とし、それらを通じてものづくりの心にふれるとともに、人的交流を促す観光活動をいう」。当然ながら、今回のような機会でもなければ観光地でもない商工業地帯に、遠方からわざわざ来て一日中歩くことなどない。産業観光を通して地域と企業の双方に良い影響を与えるあり方はないか、モノマチなどを参考に自地域での可能性を考えてみたい。

*産業観光推進会議(2014),『産業観光の手法』,学芸出版社

(JAGAT 研究調査部 藤井建人)

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