出版流通の構造再編が迫っている

掲載日:2019年7月11日

出版流通が変化の時を迎えている。取次大手と出版社との間では書籍出荷価格や運賃協力金についての交渉も始まった。背景となっているのは、出版インフラの収益源だった雑誌の売上減である。書籍中心の物流を再構築できるのか。また、電子書籍と印刷書籍との連動をいかに最適化するか。業界構造の再編は印刷会社にどのような影響を与えるだろうか。

再編される出版流通業界

書籍流通を改善する方策の一つにデジタル印刷を利用した適時生産が挙げられる。書店からの追加注文をデジタル印刷機で生産し納品、または出版社が小ロット重版を自ら生産するなど、様々な形で試験的な導入が始まっている。

定期的に大部数が印刷される雑誌に合わせて流通網を作り、そこに書籍を載せていくというのが、これまでの出版流通の考え方だった。しかし、今後は必要なものを必要なだけ作り、欲しい人が欲しい時に手に入れられる、タイムリーな生産・流通の構図を作り上げていくことが望まれている。

出版産業全体を見渡す視点が必要

こういった流れから言えることは分担されていた出版産業がその垣根を超えて連動する一体的なサプライチェーンの必要性が高まっているということである。これまではコンテンツを作る出版社、書籍・雑誌を製造する印刷会社、流通を担う取次、販売する書店と各段階が個別に業務を遂行してきた。しかし、今後は流通各段階の部分最適化に留まらず、各領域が横断され、業界全体で最適化していくことが求められてくる。

こういった包括的な変革が近い時は全工程を網羅するような視点を持つ企業の方が有利になる。そのためには、今まで以上に取引先との連携を深め、全体の動向に注視する必要があるだろう。印刷工程での負担と作業を少し増やすことで、出版売上が大きく改善される場合もある。そういったニーズを掘り起し、提案していくことも求められる。

今後の出版流通を占う

7月30日の研究会では、海外の出版流通の最新事業にも詳しいデジタルタグボードの辻本氏が今後日本にも導入されうる出版流通の仕組みについて解説する。その後、文化通信社の星野氏が出版流通が現在抱える課題と見通しについて語る。また、竹書房の竹村氏からは電子出版に強みを持つ中堅出版社の立場と全国の書店を視察した経験から、流通の現場が抱える課題と最適化のための提言、そして印刷会社に対する期待について語る。出版流通全体を考察する研究会になるだろう。

(JAGAT 研究調査部 松永寛和)

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出版ビジネスの最新動向2019~デジタルとの関係からみた出版流通の今後~

既存の出版流通が限界に近づいている。収益を雑誌に依存することで成り立ってきた出版流通インフラは、その前提を失った。取次と出版社との間で書籍出荷価格と運賃協力金についての交渉が始まるなど、取引慣行の見直しも含めた構造改革の動きも表れ始めている。本研究会ではデジタルタグボートの辻本氏に海外の出版事業をご講演頂き、今後の出版業界を考えるヒントをいただく。次に文化通信社の星野氏に現在の取次と出版社、書店の置かれた状況を解説していただく。

また、日本では電子コミックが出版社の収益を支え始めている事情もある。紙と電子の同時出版に強みを持ち、書店にも配慮しながら独自の存在感を強める竹書房の竹村氏に中堅出版社の立場からも出版流通の今後と出版社の再生について語っていただき、業界構造の再編を多角的に考察する。