変わるニーズ、ビジネス、そして変わりつつある印刷業界

掲載日:2015年3月10日

page イベントのことをあまりよく知らない方にpage のセミナー・カンファレンスのプログラムを見せると、そのテーマや講師の多様性と、いわゆる“ 印刷技術” を扱ったテーマが少ないことに驚かれる。 外部の方から指摘されて、改めて客観的に考えてみると、この多様性こそが印刷業界の可能性の大きさであることに気付かされる。

もちろん一社ですべてを兼ね備えることはよほどの大手でない限り難しいが、自社でやることとやらないことを決めるのも大事な経営判断であり、そういう意味でも、幅広い情報収集の機会として活用していただきたい。

今回のpage セミナーでは、新しい印刷業界を担う30 代から40 代の経営者や後継者に何名かご登壇いただいた。

打ち合わせでお会いするときに感じるのは、印刷ビジネスに可能性を感じてワクワクしながら取り組んでいることだ。デジタル化の進展などで従来の印刷業の“ 枠” がはずれたからこそ新しいチャレンジができるという感覚で、過去にとらわれずに柔軟に事業展開している。規模の大小はあまり関係ない。また、異業種の経験をした後に印刷業界に入ってきたという共通点がある。

印刷業にどっぷり浸かっていると、自社の強みと問われても特別なものはないと思いがちだが、外の目から見ると印刷業はまだまだ魅力的に映るようだ。代表的な強みは、地元を中心とした多様なお客様(との継続的な信頼関係)とお客様のコンテンツを作成、加工できることの二つである。

ある意味、使い古されて目新しいものではないが、これに、マーケティング(お客様視点)とデジタルの味付けを加えて、さらに自ら仕掛けて打って出ることで展望が開ける。

日相印刷では後継者の荒井慶太氏が「日本の相模から世界へ」を目標に、相模原とともに成長する印刷メディアカンパニーを目指します!と全社員に宣言。少しずつ社内外の共感の輪を拡げて、自社商品の開発、そして自社ブランディングを実現している。

イエズミ印刷では、帝京大学薬学部で採用されている学習支援システム「TYLAS」を開発している。シラバスを中心に学生目線で関連情報を整理、紐づけることで高い利便性を実現し、学生の利用率は実に98%だという。また、地元の銀行と小学校がともに創立140 周年を迎えるに当たり、同社で記念品の企画・制作を受注、AR 機能付き絵はがきを作成した。

現在では売り上げの6 割は紙媒体以外のデジタルコンテンツとなっている。ただし、お客様は従来のお客様が中心である。印刷のお客様のニーズの変化を酌み取って新しいサービスを提供してきた結果として現在の姿がある。

お客様から求められてから慌てて対応しても遅い。ニーズが顕在化する前に提案して普段からお客様に期待感を持ってもらうことが重要である。また、ARや動画といった提案をするにしても、それがお客様の課題解決にどう役立つのかを明確に示す必要がある。サンプルづくりとプレゼン、そしてデザインの力が求められる。

また、page2015 における新たな取り組みとして、印刷発注企業の担当者を招聘して、その企業の課題を題材に、印刷会社に解決していただくワークショップセミナーの開催を行った。今回は、大部数の折込チラシを活用する全国共済とニッチな製品で新たな市場を創造していくボロン研究所の2社の担当者をお招きした。

JAGAT では、こうした印刷発注者と印刷会社をつなぐ試みを重ねながら、印刷発注者に変わりつつある印刷業界の姿の情報発信をしていきたい。印刷会社を自社の課題解決のパートナーとして認識してもらうことで印刷業全体のブランディングができればと考えている。

(『JAGAT info』2015年2月号より)