印刷博物館P&Pギャラリーで、2025年12月13日~2026年3月22日まで開催された「世界のブックデザイン2024–25」展の概要と展示図書の一部を紹介する。
「世界のブックデザイン」展は2008年から毎年開催されている。
これは国際的なブックデザインコンクールである「世界で最も美しい本コンクール」の受賞図書とともに、同コンクールに参加している各コンクールの中からも受賞図書を展示し、本のデザインや製造技術のトレンドを紹介する企画である。
今回は「世界で最も美しい本2025コンクール」と、日本・ドイツ・カナダ・オランダ・中国・ポーランド・ポルトガルの七つのコンクールの受賞作品合わせて約180点を展示した。これらのうちポーランドとポルトガルの受賞作が加わるのは、本展では初めてとなった。
なお、会場では展示されている全ての本を手に取ることができるほか、椅子に座ってじっくりと鑑賞することもできるようになっていた。

以下では、各コンクールの概要と受賞作の一部を紹介する。なお、掲載順は会場で配布されている出品リストに準じる。
世界で最も美しい本2025コンクール
1963年に開始され、現在はドイツのStiftung Buchkunst(エディトリアルデザイン財団)の主催で実施されている。応募対象は各国のブックデザインコンクールの受賞作や専門家グループの推薦があったものなどで、デザイン・コンセプト、機能性、タイポグラフィー、素材の選択、印刷、製本などの観点から審査を行う。35回目となる今回は32の国と地域からの応募作品約550点から、金の活字賞1点、金賞1点、銀賞2点、銅賞5点、栄誉賞5点の合計14点が選ばれた。
金の活字賞を受賞したオランダの『Forget Me Not / Vergissmeinnicht(忘れないで/忘れな草)』 は、スイス東部にある19世紀の遺構「テキスタイル乾燥塔」に関する研究書で、モノクロ写真に資料や寄稿文を添えて洗練されたレイアウトでまとめられている。
栄誉賞を受賞した中国の『何物(何明にまつわるもの)』 は、日用品をモチーフにした水墨画の画集である。本文のモノクロ印刷と白色基調の表紙デザインが調和し、平穏な雰囲気を醸し出している。
ドイツの最も美しい本2025コンクール
世界で最も美しい本コンクールと同様、エディトリアルデザイン財団が主催している。1952年の開始から58回目を迎えた今回は約600点の応募から25点の受賞作が選ばれた。
最高賞であるエディトリアルデザイン財団賞を受賞した『Buchenwald: Im Dickicht vom Ettersberg | In the Thicket of the Ettersberg(ブーヘンヴァルト エッタースベルクの茂みの中で)』 は、ワイマール近郊のエッタースベルクにあったブーヘンヴァルト強制収容所跡を大判カメラで捉えたモノクロ写真集で、強制収容所の元囚人による小説の一節も添えられている。FMスクリーニングによる緻密な階調表現が特徴である。
また、同賞と併せて実施されている「若いブックデザイナーのための奨励賞」の受賞作も紹介された。これは革新的で将来性のあるブックデザインを評価するもので、3点が受賞した。
そのうちの1点『All the Games We Could Have Played(我々がプレイできたすべてのゲーム)』 は、ビデオゲームなどが普及する以前の時代に子どもたちが親しんでいた、物や身体を使った遊びを紹介することで、生身の人間同士の交流の大切さを問う絵本である。手紙のような文章が書かれた冊子と、遊びを紹介する冊子の2巻がセットになっている。
オランダの最も素晴らしい本2024コンクール
1926年から実施されている歴史あるコンクールである。現在はStichting De Iest Vorzorgde Boeken(最も素晴らしい本財団)が主催し、66回目となる今回は268点の応募から30点の受賞作が選ばれた。
その中から1点『Fear Guards the Lemon Grove(恐れはレモン畑を守る)』 は、19世紀のシチリアでマフィアが急増したことと、同時期に壊血病を防ぐ手段としてレモンの需要が拡大したこととの関係を調査した記録である。シチリアの農村風景に関する過去と現在の写真のほか、絵画などの豊富な図版を用いていることが特徴。

『Fear Guards the Lemon Grove(恐れはレモン畑を守る)』
著者:Arcangelo Dimico, Alessi Isopi, Ola Olssen/
発行:Fw:Books, Amsterdam/デザイン:Hans Gremmen
2024年ブックデザインアワード(ポルトガル)
国立書籍・公文書・図書館総局(DGLAB)が主催し、デザイナー・出版社・印刷会社が応募できる。2017年に始まり、今回は116点の応募の中から20点の受賞作が選ばれた。
最優秀賞を受賞した『L’Esprit Singulier (特異なる精神)』は、アール・ブリュットの美術館であるパリのアール・サン・ピエールで開催された展覧会の図録である。糸綴じされた背がむき出しになっていることや、本文ページの小口やノドの余白が極端に少ないことなど、既存のブックデザインの常識を破る造本設計が特徴である。
特別賞を受賞した『Mezzocane(身体が二つに裂かれた犬)』は、イタリア出身の画家であるエンツオ・クッキの展覧会に合わせて刊行された作品集である。クッキの詩的でシュールな作風に合わせ、天・地・小口の断裁面を赤一色で印刷しているほか、中面ではドローイング作品をネガポジ反転して配置するなどの工夫がなされている。
2024カナダの優れたブックデザインに贈るアルクイン・ソサエティ賞
ブックデザイン団体であるThe Alcuin Societyが主催している。1981年に始まり、1984年から毎年開催されている。42回を迎えた今回は、228点の応募の中から40点の受賞作が選ばれた。
子どもの絵本部門1位を受賞した『Mushrooms Know. Wisdom From Our Friends the Fungi(キノコは知っている 菌類の友だちから学ぶ知恵)』は、50種類以上のキノコの生態を紹介する絵本で、カラフルで愛らしいイラストとタイポグラフィーを組み合わせ、紙面にリズムを生み出している。
参考図書部門1位の『Hemingway s’est paqueté la fraise. et autre cocktails originaux(ヘミングウェイは酔っぱらった その他のオリジナルカクテル)』は140種類以上のオリジナルカクテルのレシピ本で、洗練されたタイポグラフィーやカクテルのイラストによってユーモラスな印象の紙面となっている。
2024年最も美しいポーランドの本
ポーランド書籍出版協会(PTWK)が主催している。1957年に開始され、2021年より現在の名称となった。65回目となる今回は、263点の応募の中から7つの法定賞、2つの栄誉賞、27の特別賞が選ばれた。
フィクション部門で受賞した『symulacja JUICE(シミュレーション JUICE)』は、タイポグラフィーによる視覚表現を追求した本である。例えば表紙を飾るチューリップのイラストは、ローマ字・数字・記号を並べて描かれている。
児童書・青少年向け図書部門で受賞した『W lesie / En Forêt (森のなかで)』は森の神秘的な美しさを伝えるための絵本で、穏やかな色彩によって森の木々や動物たち、そしてその中で遊ぶ子どもの姿が描かれている。
2024最も美しい本コンクール(中国)
上海市新聞出版局が主催している。2003年に開始され、21回目となる今回は342点以上の応募から25点の受賞作が選ばれた。
そのうちの1点『奇迹之境:艺术家手作书(奇跡の領域:アーティストブック)』は、「手作り」をテーマとした50冊の作品集を束ねた本である。表紙に掲載された写真は本書の掲載作品から選ばれたもので、紙面中央に手術用のはさみを持つ手を配置することにより、本書のテーマを直感的に伝えている。

『奇迹之境:艺术家手作书(奇跡の領域:アーティストブック)』
著者:王骥/発行:江苏凤凰美术出版社/デザイン:潘焰荣
第58回造本装幀コンクール(日本)
1966年に開始され、現在は日本書籍出版協会と日本印刷産業連合会が主催している。今回は308点の応募図書の中から22点が選ばれた。
文部科学大臣賞を受賞した『Notochrome』は、能登の風景を収めた写真集であり、スミのトリプルトーン印刷による深みのある表現が特徴である。また、掲載されている写真は2024年1月1日に発生した能登半島地震よりも前に撮影されていることから、在りし日の風景の記録となっていることも特筆すべきであろう。
経済産業大臣賞を受賞した『イヴ・ネッツハマー ささめく葉は空気の言問い』は、宇都宮美術館で開催された、スイスの映像インスタレーション作家イヴ・ネッツハマーの作品展の図録である。表紙に施された白と黒の箔と、天・地・小口の断裁面に施された赤箔とのコントラストによって作品のイメージを表現している。

左:文部科学大臣賞 受賞『Notochrome』
著者:湯浅啓/発行:龜鳴屋/装幀:橋詰冬樹
右:経済産業大臣賞 受賞『イヴ・ネッツハマー ささめく葉は空気の言問い』
編者:石川潤/発行:宇都宮美術館・下野新聞社/装幀:笹川アツコ
日本では目にする機会の少ない世界各国の本に触れ、一冊一冊の造本の妙を堪能できる貴重な展覧会であったといえよう。
世界のブックデザイン2024–25
会期:2025年12月13日(土)~2026年3月22日(日)
主催:TOPPANホールディングス株式会社 印刷博物館
後援:カナダ大使館、公益社団法人日本グラフィックデザイン協会(JAGDA)
協力:ゲーテ・インスティトゥート東京、一般社団法人日本印刷産業連合会、一般社団法人日本書籍出版協会、中国近現代新聞出版博物館、
Stiftung Buchkunst、De Best Verzorgde Boeken、
PTWK – Polskie Towarzystwo Wydawców Ksiazek、
DGLAB – General Directorate for Books, Archives And Libraries
(JAGAT 石島 暁子)
※会員誌『JAGAT info』 2026年1月号より一部改稿












