【マスター郡司のキーワード解説2022】ESG投資

掲載日:2022年9月1日

SDGsとESG

「ESG」は以前にも取り上げたが、世間的には「SDGs」の方が注目されており、「どうなのかなぁ?」といぶかしんでいる間に、さすが国連が言い出しただけあって今やSDGsは世界中に普及している。SDGsがここまで普及するとは、正直誰も予想していなかったのではないだろうか(それとも私がネガティブだった?)。

SDGsとESGの違いは、いわば「取り組み規模の違い」である。SDGsが政府や自治体も含めた日本全体で取り組んでいくのに対して、ESGは主に投資家が取り組んでいくものである。ESGはSDGsに引っ張られるように再注目された感が強いのだが、SDGsのおかげで随分と身近な言葉になった。

さて、ESGをかつて取り上げた背景を説明しておきたい。JAGATが公益社団法人としての認定を受け、それを踏まえて「公益資本主義」という概念を2010年に開催したJAGAT大会の基調講演のテーマに選定した。だが、「公益」と「資本主義」の概念は相反しているため、「分かり難い」というお叱りを受けた。「失敗だったなぁ」と反省したテーマの代表で、そのリベンジ的な意味合いが強かったのだ。

企業活動に今や必要不可欠

ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス/企業統治)の頭文字である。最後のGがやや分かりにくいが、企業活動を健全に進めるためには、まず企業自身が内部統制を強化しなければならない。つまり、経営上起こり得るリスクをあらかじめ把握しておき、先回りして対策を講じる必要があるということだ。

企業活動のためには、今やESGは必要不可欠である。先述の公益資本主義も同様だが、SDGsが一般化した現在では、ESGの方が(はるかに)しっくりくる(特にサステナブルの考え方がなじみやすい)。ESGを重視する企業が増え、シニカル(倫理的・道徳的)という概念がインターネット社会では重要視されている。以前はマスコミだけからの情報(影響)を受けて、経済学的・経営学的なメリット・デメリットのみでの価値基準が重要であった。しかしSNS社会では、ESG的な価値基準がより重要になってきたのだ。

従って、ESGにフォーカスして投資先を選定する「ESG投資」も注目を集めており、ESGは投資家にとっても重要な指標の一つになっている。なお、類語にCSR(Corporate Social Responsibilityの略)があり、企業活動における社会的責任を表す重要な指標なのだが、そもそも日本でCSRが注目されるようになったのは企業の不祥事が相次いだことがきっかけであったため、旗振りの目標とはなりにくかったのだといえる。

メリットの多いESG

ESGは上記のように企業が経営を進める上での指針であり、他方でSDGsは国や企業などが持続可能な世界を実現するための大きな目標なのだが、経営者が世間話的に話題にするには、SDGsのバッジを付けて「サステナブルな社会が…」などと発言する方が気は楽だろう。このようにESGは比較的重い単語だったが、ここにきて親しみが出てきた(これもSDGsのおかげ)。企業がESGに配慮しながら事業活動を進めていけば、その結果としてSDGsが実現できると考えられている。そのため、企業が取り組む際にはセットにする場合がほとんどだ。

ところで国連は、2006年に「責任投資原則(PRI:Principles for Responsible Investment)」を掲げており、投資家がESGの観点から投資を行えば、持続可能な社会を実現するために役立つと提唱している。そして企業がSDGsやESGに取り組めば、世の中が企業に対して抱いているイメージを向上させられる。企業の社会的信頼性を印象付けたブランディングも可能だ。投資家からの評価も高まり、資金調達でも有利になる。自社の評価が高まり、自社の社会的意義を感じることができると、社員のモチベーションアップにもつながっていく。
また、SDGsやESGという観点からビジネスを考え直すことで、新たなビジネスチャンスに気付くきっかけにもなる。いろいろと良いことずくめなのだ。

最後にまとめておきたい。前述のとおりメリットは数多いが、一般的には投資対象となる企業の資産価値は長期的には変動しにくいと考えられているため、投資家は長期的なESG投資では成功する確率が高い。一方でデメリットは、短期的なリターンが見込めにくいことだ。ESG投資は、短期的に大きな利益を狙うハイリスク・ハイリターンなベンチャー企業ではなく、リターンよりも環境問題などの社会的問題に積極的に取り組む企業への投資となるため、短期的な利益は小さくなる傾向にある。

(専務理事 郡司 秀明)