チラシと商習慣、そして小売店と印刷会社

掲載日:2023年4月18日

メディアと商習慣、マーケティングは密接な関係を持つ。日本の小売店は日本独特の折込チラシ文化によって賑わいと売上高を作ってきた。しかし小売店を取り巻く環境が変わりつつある現在、店舗支援と印刷会社との関係はどのように変わっていくだろうか。


■小売店の経営とマーケティングが変わる

小売店の運営を取り巻く環境はコロナ禍を経て大きく変わった。通販の伸長、無人レジの実用化、キャッシュレスの普及など。コスト、環境、誤作動等の課題からもはや20年以上も懸案だったRFタグの実装も一部で進み始めた。実店舗でなくても買い物が容易になり、決済がデジタル化し、接客は自動化とセルフ化が進み、物価高騰やチラシの頻度減少もあって価格戦略も変わった。アメリカで主流のEDLP戦略(Everyday Low Price 戦略=特売日を設けるのではなく毎日低価格を提供する)を志向する動きも強まった。

■日米で異なる小売店の集客手法

実際問題、日本にEDLP戦略が向いているかはわからない。外資系大手チェーンが本国の意向でドラスティックに試した事例もあるが、当時はあまりうまくいかなかった。これは国民性や商習慣、メディア文化にまで踏み込む話なので、EDLP戦略が良いのか特売戦略が良いのかは簡単には言い切れない。日用品・最寄品は差別化が難しいこともあるし、日本は競合店が近接しているので、店舗のブランド力や独自業態で集客するよりは、価格を変動させて来店意欲を喚起する戦略が日本の環境としては選択されやすかったし有効だったのである。

■日本はチラシ特売戦略が花開いた

日本特有のチラシ特売戦略は、価格の小刻みな上下動をモレなくタイムリーに家庭に届けることのできるメディア―――折込チラシによって成り立ってきた。かつて折込チラシは、世界に冠たる日本の新聞配達網をベースに100%近い戸別宅配率を誇っていた。日本の小売店のチラシ特売戦略は、チラシを軸に価格の変動幅以上に集客と客単価を伸ばすことで成り立ってきた。小売店は年間52週のチラシ制作に相当な労力を傾けることができ、こうして新聞販売店網と折込広告代理店が発達し、印刷会社が保有する輪転機の台数は圧倒的な世界一になった。

■地域商圏での折込チラシの有効性

『日本の広告費2022(電通)』によると、折込チラシは恐らくいまなお最大のローカルメディアだ。到達率は落ちたとはいえ、地域商圏の見込み客に効率よく情報を届けるメディアは他にはない。デジタルメディアの開発は進むが、デジタルデバイドや個人情報の問題があってカバー率は限られるし、入手した情報はあくまで既存客のものに過ぎない。折込チラシ市場の大きさに目をつけて大手IT企業が参入した時期もあったが、ほとんどはうまくいかなかった。長く続いているのはShufoo!(凸版印刷)のほか数えるほどである。オムニチャネルも実用性にはもう一つ足りずにトーンダウンした印象を受ける。

■ローカルマーケティングを巡る試行錯誤は続く

それくらい、ローカルマーケティングというのは簡単ではないのである。折込チラシの存在感は常に一定程度ある一方、低下する到達率を補う施策もまた必要である。小売店の例で言えば、強力な差別化を図ってEDLP戦略に移行するのは一策だが、販促活動を一新するほどの差別化やローコストオペレーションは一朝一夕にはできない。また、デジタルメディアを使えば到達率は上がるが小売店の繁忙に拍車がかかるしコストも上がる。現代の小売店に対し、印刷会社はどのように販促支援をすれば良いか。これからは、商業印刷も含めたリテールメディアが面白い。(JAGAT研究調査部 藤井建人)

■4月26日開催 関連セミナー
テーマ:流通小売業マーケティングの現在と課題
    -コロナ後の店舗プロモーションと折込チラシを探る-

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テーマと登壇者:
(1)コロナ後の店舗小売業におけるマーケティングの現状と課題
   公益財団法人流通経済研究所 流通・店舗・環境部門 鈴木 雄高 氏
(2)折込広告の最新動向と注目事例 ~オリコミの課題と対策~
   株式会社読売IS 執行役員 社長室 情報システム担当 河野 大児郎 氏
(3)折込チラシの役割の高度化と更なる進化
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(4)ディスカッション
詳細:https://www.jagat.or.jp/pri230426