マスター郡司のキーワード解説:AIの印刷への応用【その壱】

掲載日:2025年5月12日

印刷ビジネスとAI

今回はAIを取り上げる。「印刷ビジネスとAI」というと、アドビ的には生成AIで画像を作ってしまうというイメージだが、日本語で「写真」とは「真を写す」という意味なので、大いに「?」が残ってしまう(英語ではPhotography:光画という)。次にデザインの分野では、AIデザインを製品化しているケースは少ないのだが、今後はさまざまな製品が登場するであろうと期待したい。さらには経営者の代わりに経営分析や営業施策を練り出すAIだ。このように多種多様な用途が考えられるし、現在は思いもしないことまでAIがやってしまうことも将来的には十分考えられるのである。

AIには長い歴史があるが、本格的に注目されるようになったのは2022年11月にOpenAI(カリフォルニア州サンフランシスコ市)がChatGPTを発表してからだろう。そこにソフトウエアの巨人ことマイクロソフトが資本参加するようになり、「AIはビジネスにも使えるのでは?」とITの中心的なテクノロジーとして、IT技術=AI技術であるという認識になったのである。そして、このAIの技術進化とともにビデオボード技術を基本にした(CPU)チップの技術も進化して、今までインテル(シリコンバレーのサンノゼが拠点)の影に隠れていたNVIDIA(エヌビデア、シリコンバレーのサンタクララが拠点)が俄然表舞台で目立ち始めたのだ。

シリコンバレーとIT企業

さて、豆知識としての雑談である。アメリカ・サンフランシスコ南部のシリコンバレーはサンフランシシスコからサンノゼまでの渓谷一帯のことを指し(渓谷? 日本なら立派な平野だ)、もともとはマウンテンビュー市にHPが本社を構え、その隣町にスタンフォード大学が位置して筑波研究学園都市のような研究都市を形作ったコトに始まっている。そして、サンノゼがインテルを中心に栄え出すと、アドビなどの(ソフト)メーカーも続々と集まってきたのだ。
サンフランシスコからサンノゼまではモーターウェイが走っており、ジャイアンツ球場を過ぎてデータベースのOracleが見え出した辺りからシリコンバレーが始まり、サンノゼに至るというイメージである。だが、アップルは主たるモーターウェイから1本外れたサブモーターウェイのクパチーノが本拠地である(アップルらしい?!)。シリコンバレーはかつては農園が広がる田舎なのだが、ITメーカーの中でも新興メーカーはマウンテンビュー、サンノゼ、パロアルト(スタンフォード大学を中心とした研究学園地区、スタンフォードはもともと鉄道王・スタンフォードの人名)という既存の町ではなく、オレンジ畑などの跡地で創業したのだ。NVIDIAの本社があるサンタクララはサンノゼ郊外だし、同じく新興メーカーが多く集まるサニーベール(ヤフー本社)はマウンテンビューの郊外だ。

このように、元気な新興ITメーカーはシリコンバレーの片田舎で、現在も続々と生まれ育っている。なかでもスタンフォード大学を中心にした研究学園都市の存在は大きく、古くはEWS(エンジニアリング・ワーク・ステーション)のSUN社(Stanford University Network)やシリコン・グラフィックス社は、スタンフォード大学の学生や先生が中心となって起こした企業である。サンフランシスコにはUCバークレーなどの超有名大学も存在するが、ITビジネスに対しての実務貢献度という点ではスタンフォード大学が抜きんでているだろう。スタンフォード大学は、偏差値以上の実績を残している。

この辺に、アメリカの底力を感じさせられてしまう。入学してくる学生も、もともと「一旗揚げてやろう」という人間が多いのかもしれない。シリコンバレーの起業家(Googleはじめ)には、スタンフォード大学出身者が多い。

力関係を変化させたAI

巨人マイクロソフトもAIと共に表舞台へと戻ってきたが、これまで光が当たっていたアップルには「AIへの参入時期が少々遅かったのでは?」とネガティブなイメージが付きまとう。現在は必死のパッチ(様子)だが、IT技術というのはスタートで1カ月遅れてしまうと、追い付き追い越すのが難しい世界である。しかし、アップル自身がAI技術を開発するのは難しいかもしれないが、新しい技術を開発した新興メーカーが世界中で生まれ続けているので、これらの会社を買収すれば、状況はあっという間に一変二変してしまう。2〜3年先がどうなるのかは、絶対に断言できない。このように、AIはITメーカーの力関係にも大きな変化をもたらすこととなったのである。

AIへの新規参入では、中国を忘れることは絶対にできない。次回はDeepSeekをはじめ、LLMやLLCなどの技術用語を分かりやすく解説したい。

(専務理事 郡司 秀明)