マスター郡司のキーワード解説:AIの印刷への応用【その弐】

掲載日:2025年6月4日

GAFAからGAFAMへ

前号から生成AIを取り上げている。AIとはArtificial Intelligenceの略で、人工知能のことである。AIは、人間の知的な活動である「学習」「推論」「問題解決」などをコンピューターが行ってしまうことを象徴的に表現しており、昔から定期的に話題に上るキーワードだ。だが、ChatGPTの登場以降に注目されているAIは「生成AI」と呼ばれ、従来のものとは区別されているようだ。

生成AI(ジェネレーティブAI)とは、学習したデータに基づいて文章・画像・音楽・動画などの全く新しいコンテンツを生成する能力を備えたAIのことを指す。従来のAIはデータを分析して予測を行うのに対し、生成AIは新たなコンテンツを創造することが特徴である。OpenAIがChatGPTを開発し、それに目を付けたマイクロソフトが資本参加したことで俄然注目を集め、IT各社が積極的に参加することになったのだ。

IT大手各社の頭文字を取った通称も、Mが忘れ去られて“GAFA”(4社)とここ数年来言われてきたが、最近は“GAFAM”(5社)と表記されるようになり、Mが表舞台へ戻ってきた(AIのおかげ)。マイクロソフトはChatGPTと緊密に連携しているものの、WordやPowerPointなどのアプリケーションと連携したAIはMicrosoft 365 Copilot(コパイロット)、検索エンジンだけはBing AIと製品的には区別しているようである。

その他で有名なのはグーグルのGeminiだが、印刷業界的にはAdobe Fireflyも忘れてはいけないだろうし、Norton AIなどというものもある。最近、“ノートン先生”も特にWindowsでは存在感が薄くなっている(?)ようで、ATOK(かつてATOKはIMEの定番であったが、Windows標準OSが同等の機能を持つようになってしまい、ATOKの必要度の低下が顕著である)と同様にウイルス対策でもマイクロソフト純正ソフトの品質が専門製品を凌駕している。ATOKやNortonは、今やMac専用になってしまっているようである。

そしてアップルだが、アップル愛好家の中でも、Siriが先行していた割にはトロいことが問題になっている。今までは好意を持って馬鹿にされていたのだが、AIが実用域に達してくると「トロいところがカワイイ」とばかりも言っていられず、アップルとしては真剣に生成AI技術で挽回を試みている真っ最中なのだ。悪いイメージの払拭なのか(?)Siriの名前は外して“Apple Intelligence”の名称を使用している。

LLM:大規模言語モデル

上に挙げた例は全て北米発で、それも西海岸(シリコンバレー)を中心に生まれ、発展したものだが、忘れてはいけない国がある。それは中国だ。生成AIでも、ご多分に漏れず話題になっている。

その名をDeepSeek(ディープシーク)というのだが、DeepSeekは中国の人工知能研究所の名称であり、オープンソースの大規模言語モデル:LLM(解説は後述)を開発している。浙江省杭州市(余談だが、日本では広東省広州市と区別するために、「こう州」ではなく「くい州」と呼んだりする)を拠点に、梁文鋒氏によって設立・運営されている。DeepSeekによって開発されたAIモデル群は編集・再配布・改良・解体が全て許可されたMITライセンスに基づく認証が行われているため、それらをダウンロードしてオフライン・オンラインを問わずに改変し、自分の好みに合うように回答内容を書き換えることが可能だ(DeepSeekと明示すれば)。中国発らしからぬ(?)オープン性だけでも、十分話題になっているのである。

もう一つ忘れてはいけないキーワードが、LLM(Large Language Models)である。「大規模言語モデル」と訳し、人間が書いたテキストを学習して新しい文章を生成、あるいは人間と自然な会話を行う能力を持つ人工知能(AI)のことだ。最新のAIが作る文章は、実に自然である。指示するプロンプトも小難しく考えることなく、気楽に打ち込んでやれば、それなりの結果を生成してくれる。解説書を読むと難しく感じられるが、「そんなの関係ねえ!」とやってみるのが一番だ。

LLMの代表例に、OpenAIが開発したGenerative Pre-trained Transformers(GPTs)がある。ChatGPTは、書籍や論文、ウェブサイトなどの膨大なテキストデータを学習させた結果、ユーザーからのそれなりのプロンプトに基づいて新しい文章を生成することができるのだ。今後、要約(Acrobatには既に実装されている)だけではなく、あらすじなどのレポートも生成AIでやってしまうようになると、採点する国語の先生は大変である。「生成AIは使用しないように」という注意書きも、そのうち「この先生、古くさい?!」と一喝されてしまいそうだ。

(専務理事 郡司 秀明)