【マスター郡司のキーワード解説2022】データ・サイエンティスト(その壱)

掲載日:2022年4月28日

今号では「データ・サイエンティスト」について解説する。今までにも筆者は、「印刷業界にはデータ・サイエンティストが必要だ」と何度も論じてきたが、本欄では扱ってこなかったので、二回に分けて取り上げることにする。今回は「その壱」だ。

 

さて、データ・サイエンティスト(Data Scientist)とは、マーケティングに関して科学的にアプローチする専門家の、職種名の一つである。マーケティングの対象となるデータ(本来これはビッグデータが対象なのだが、ここでは堅いことは抜きにして、「感性的ではなくデータに裏付けられたもの」という意味で用いることにする)に基づいてIT施策や営業戦略を考案するために、もしくはそのような施策を経営者が決定するときの助言者として、データ・サイエンティストと呼ばれる人間が必要になってくる。

 

データ・サイエンティストには、統計解析やITのスキルに加えて、ビジネスや市場トレンドなどの幅広い知識が求められている。つまり数学者、コンピューター科学者、トレンドスポッター(流行の変化を観察して予測を立てる人のことで、スポッターとは監視役の意味)の素養を合わせ持っている。また、ビジネスと(IT)テクノロジーどちらの世界にも精通しているため、現在は「超」が付くほど引く手あまたな憧れの職種である(将来はAIに置き換わってしまうかもしれないが)。

 

 

理想のデータ・サイエンティストは、スーパーマン的な存在である。さまざまな意思決定の場面で、データに基づいて合理的な判断を下せるように、意思決定者をサポートする、または任されて自ら結論を出す。現段階の印刷業界では、データ・サイエンティストに準じるような人材(素養を持った人物)でも十分以上に役に立つ。そして将来、印刷ビジネスが本格的にマーケティング支援ビジネスとして成長したら、そのときには本物のデータ・サイエンティストが必要であり、印刷会社を引っ張る存在として中核を担うポジションになっているはずだ。そのためには、今から人材の手配・育成が必要である。

 

今までのデータ・サイエンティストの多くは、統計やデータの分析担当者としてキャリアをスタートさせている(狭い範囲の専門職として)。しかし、ビッグデータの利用価値が成長&進化を始めると、ビッグデータはIT部門のものだけではなくなってきた。これまでデータ・サイエンティストの能力としては数学的分析力ばかりが強調されていたが、これからはマーケティング周辺の総合力が期待されている。新しいイメージのデータ・サイエンティストが求められ始めているのだ。

 

そのような新しいイメージのルーツは大学にある。大学では数年前から、データ・サイエンティストの理想イメージを「プログラマーであると同時に、組織人としても能力を発揮できる人材(を経営者は求めている)」に大きく変化させている。世の中のニーズに応じて、大学の教育内容も最適化するようになったのだ。例えばアメリカでは、ノースカロライナ州立大学の高度分析研究所(Institute for Advanced Analytics)や、全米初として2007年に新設された同大学の「アナリティクス修士課程プログラム」のように、次世代データ・サイエンティストを養成するための課程が設置されるなど新しい教育コースが生まれている。アメリカの大学では現在、同様の課程が数多く存在している(60大学以上)。

 

データ・サイエンスは、アルゴリズムや統計などの情報科学理論を活用して、データを分析し有益な施策を創出する科学である。それでは、データ・サイエンティストとは何か、正確な定義を考えてみると、例えばデータサイエンティスト協会では、「データサイエンス力、データエンジニアリング力をベースにデータから価値を創出し、ビジネス課題に答えを出すプロフェッショナル」と定義している。

 

既に社会では、データ・サイエンスが広範囲に活用されている。その代表的な例が、インターネット通販のレコメンド機能だ。膨大な消費者全体の情報から、「商品Aを買った人は、商品Bも買う可能性が高い」といった行動予測がデータの中から導き出されている。なかには「スゴい!」「良く分かっている」という的確な商品レコメンドもあれば、「?」とチョイスに疑問を感じるレコメンドもあると思うが、そこは各通販会社のデータ・サイエンティスト(組織)の総合力が反映されているというわけだ。

他にも自動車の自動運転におけるセンシングの映像解析技術など、われわれの生活においてデータ・サイエンスに助けられている割合が日に日に上がっているのが現状である。

(専務理事 郡司 秀明)