投稿者「橋本和弥」のアーカイブ

未来を創る方向性は各社各様だが、新たな人材育成が必須!

JAGATではJUMP(JAGAT地域大会)において“印刷の「未来を創る」”方向性をめぐり各地でディスカッションを重ねている。東北地区では五感に訴える紙の強みとデジタルの連携に活路を見出し、中国・四国地区では営業力の底上げなど新たな人材育成にスポットがあてられた。

 

各地のJUMPでは、「JAGATからの報告」として、『印刷白書』及び『JAGAT印刷産業経営動向調査』などJAGATの研究調査レポートを基に、業界と印刷ビジネスの最新動向を解説し、次に今年度の全体テーマのモチーフとなったジョー・ウェブ博士著『未来を創る-THIS POINT FORWARD』のおさえるべきポイントと、そこから見えてくる今後の印刷会社が取り組むべきことについて解説をしている。そしてそれらを踏まえて、日本における印刷業各社の未来を考え、自社のビジネスをどう変えていいくのかという方向性を見出すべく議論を重ねている。
去る9月17日に広島において開催したJUMP中国・四国2015では、ディスカッションのモデレータをJAGAT専務理事の郡司秀明が務め、スピーカーにはJAGAT会長の塚田司郎ともに、地元広島県より細川俊介氏(アート印刷(株) 代表取締役)、田尾直也氏((株)原色美術印刷社 代表取締役)及び山口県から藤田良郎氏(瞬報社写真印刷(株) 代表取締役社長)を迎えて行った。
参加者からは「各社各様の意見や考え方が聞けてよかった」と非常に好評で、「悩んでいることは同じと感じた」などの感想が得られたが、以下にパネラー各位の発言を抜粋してそのエッセンスをお届けする。

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◯問題の提起
・輪転を中心にやって来たが、15年後にどうなるか誰にもわからない。社員にもそのことを伝え、その時に「これしかできない」では困るので、人のローテーションを行っている。時間と金はかかるがこれまで受け身で仕事をしてきた社員に自ら考えさせ、現場から提案が上がってくるように取り組み始めたところだ。先行き見えない状況ではあるが、逆に人が変わるいいチャンスだと捉えている。(田尾氏)
・我々は社名のとおり(アート印刷)の会社になりたい。『未来を創る』には印刷へのこだわりを捨てなさいといったことが書かれているが、我々の顧客は画家、美術館、美術大学、画商などで、例えば画家は自分の色を印刷では再現できないことは理解しているが、その雰囲気に近づけることを要望し、そこをどう料理するかが勝負のしどころであり命である。質感や紙にこだわって今後も追求していきたい。(細川氏)
・我々の業界に最も影響をもたらしたのはマーケティング手法がアウトバウンドからインバウンドへと根本的に変わったことだ。スマホ出現以来、世の中は24時間ネットにつながり、ログを取ることがマーケティングの中心となった。経営者は、その状況を印刷物がどのように取り込んで、アクションしていくかを考え、そこに向けてスケジュール感をもって今何をするべきかを示していかねばならない。その戦略は10社あれば全部違うであろう。(藤田氏)
・新しいビジネスを立ち上げる必要から、デジタル印刷に取り組んで10年以上になるが、当時やってみてわかったことは、お客の言うとおりにやるオーダーメイドであるオフセット印刷とマルチプルチョイスでやるしかないデジタル印刷は考え方が真逆であるということ。したがって、営業のやり方も違い、価値観が違うビジネスを展開するのに最も重要なのは人選でる。(塚田会長)

◯課題解決に向けて
・今ある組織は今日までの商売をやるため最適化されたものだが、全く違う商売を始めるためには昨日までの組織では機能しない。(塚田会長)
・印刷の出荷額は今後も減っていくであろう。印刷以外で飯を食っていこうとするときに、サービス業へ転換していく必要があると考えている。製造業で勝負しようとする考え方もあり、企業もあるだろうがそうなると詰まるところネットで仕事をかき集めてギャンギングしまくって、という印刷通販方式で勝負するしかないであろう。しかし、これまでの印刷会社の人は機械を稼働させるためにサービスはタダで提供するというところがあり、顧客が儲かった対価をいただくといった考え方に切り替えていかなければならない。そのためには営業力の底上げしかないと思い、我が社では全営業マンに重点アプローチシートを作らせ、毎月1度、東京では私自らが全員と面談し、報告を受けそれに対しアドバイスを行いながらシートを更新していくということをやっている。さらにそれを社内ネットワークに上げて全員で共有するようにしている。地道ではある着実に営業のスキルが上がってきたことを実感している。(藤田氏)
・極論すれば将来印刷機がない会社をも視野に入れている。今後は設備に投資するくらいなら人に投資していきたい。特に、営業は外に向けての発信力が必要になってくるであろう。そのためにもまずは自分自身が勉強し、変わったうえで社員を引っ張っていけるかどうかにかかっている。(田尾氏)
・アートを追求するが、マーケティングの知識、素養があれば営業力は大きく高まる。美術館も来場者が減り、ショップの売上も落ちている中でマーケティング手法を取り入れて提案ができれば、印刷技術と合わせて鬼に金棒となるであろう。(細川氏)

◯未来を創るために
・人なしには何もできない。人にしっかり向き合い時間も投資していきたい。(田尾氏)
・現時点ではデジタル印刷の導入は考えておらずオフセットの更新を考えている。商売で言えば孤独な我が道を行くであるが、困難ではあるが自分で潮流を創る立ち位置えお目指したい。(細川氏)
・データ予測では将来パッケージ印刷が良いからといってパッケージ印刷機を買っても仕事が付いてくるわけではない。5~10年先を考えると、印刷だけを追求しても部数は減り苦しくなる一方で、サービスを付加して儲ける割合を増やさなければならない。(藤田氏)
・自分がなにをやりたいか、自社が社会にとってどういう存在になりたいかを考えるとき、仕事に対する価値観がぶれないところで新しいビジネスを考える必要がある。『未来を創る』にも印刷のセグメントごとに未来は違うことが示されているが、自分がやったことのない市場で勝負するのは大変難しい。各社の方向性にあったものを選択していく必要がある。(塚田会長)

JUMPはこの後、大阪(JAGAT近畿大会:11月17日)、名古屋(JAGAT中部大会:2016年1月27日)と続き、『未来を創る』を巡るディスカッションの集大成としてpage2016(2016年2月3日~5日)のカンファレンスへとつなげていく予定である。

(CS部 橋本 和弥)

<関連情報>
JAGAT近畿大会2015 11月17日(火)開催(太閤園)
 印刷の「未来を創る」~新たな価値づくりへの挑戦

顧客の良き相談相手になろう-自社を磨くツールとしての資格

自社を磨く方法論は多種多様であろうが、顧客から信頼されパートナーとして相談される会社を目指すという明確な指針のもとカリキュラム、試験問題、更新試験制度などを展開するJAGATエキスパート認証制度を、具体的な人材育成ツールとして活用してみてはいかがであろうか。  

 

JAGATでは様々な機会を通じて、印刷業界の方々との交流や議論の場を設けてきた。例えば、地域のJAGAT大会であるJUMPにおいて、今年度はジョー・ウェブ博士の『未来を創る』を取り上げて、印刷業界の現状と最新動向を踏まえつつ、「自社のビジネスをどう変えていけばよいのか」という大きな課題について各地で意見を戦わせている。また様々な場において、「これからの時代に印刷会社の営業パーソンはどういった役割を果たす必要があるのか」といった話題に盛り上がることもある。
いずれにしても、かつて話題の主役であった技術動向云々の話に取って代わって、各地でこうした議論が中心となってきたのは、印刷会社は旧来のビジネスモデルや営業スタイルのままでは立ち行かなくなってくる、ということが既定路線として共通認識されているためであろう。

そうした中で「印刷会社の生き残り戦略において一番重要なのは良い顧客と付き合うことだ」という意見が出て、その場に参加していた一同が賛同、納得したことがあった。
もちろん、ここで言っている良い顧客とは継続的に仕事を出してもらえるという単方向の関係ではない。単なる受発注の関係であれば常に競合に奪われてしまうかもしれない危険性と隣合わせである。良い顧客とは、互いにWin-Winの関係を維持できる、すなわち相手にとっても良き相談相手である永続的なパートナーシップを築ける顧客のことをいう。

では、そうした良い顧客を得て、付き合っていくためにはどうすべきなのかという話になり、そのためにはやはり相手にとって相応しいパートナーたる自社を磨いていくしか無い、という結論になった。
顧客によりそい、顧客の課題解決に向けて会社全体で取り組める体制づくりが必須になったということである。そして、いまや自社を磨き、差別化を図れるのは設備、機械ではなく人材であることは自明の理であろう。
機械に仕事がついてきた、あるいは機械を稼働させるために仕事を取ってきた時代は終焉を迎え、サービスで課金、利益を確保できる体質への転換が必要となった。そのためにも営業力の底上げとともに彼らを支える企画提案力、印刷・加工技術のみならず付帯サービスや他メディア展開もできる実行力、プロジェクトやコラボレーションを司るマネージメント力など新たなスキルや知識を獲得しなければならない。まさに人材への投資こそが求められているのだ。

JAGATはシンクタンクとして業界の将来を展望し、方向性を示唆し、その方向に沿った具体的な施策講ずるという使命を負っており、また、また教育機関としてそれらが定着すべく様々な手段を通じで人材育成に貢献していかなければならない。
その、一つのソリューションがJAGAT資格認証制度である。

DTPエキスパートは、20年以上にわたって日本のDTPの定着と標準化を促し、そのカリキュラムは業界のデジタル教育のスタンダードとなったと自負している。発足当初は、現場が安定してDTPで良い印刷物が制作できるための正しい知識と、変わりゆく制作環境に対応できる人材を目指したが、現在ではメディア設計のスーパーバイザーとして、印刷会社の強みを最大限に発揮できる人材の育成を目指している。コンテンツを各メディアに編集・管理できるディレクション能力とともに、文字、組版、色、画像など本来印刷会社が持っているノウハウをデジタル時代活かしきるスキルと知識を得て、顧客から信頼される実行力を身につけるものだ。

もう一つの資格認証制度であるクロスメディアエキスパートは、業界が新しい方向へ踏み出す道筋として、印刷メディアが置き換わっていく先のメディア戦略のコーディネーター育成を目指している。
クロスメディアエキスパート認証制度は、JAGATが2002年に発表した提言「印刷新世紀宣言」に端を発している。これは情報伝達が加速度的にネットへとシフトしていく状況、それに伴い印刷サービスの高度化や付帯サービスの開発など得意先のビジネスのパフォーマンスの向上を手掛ける必要があること、技術の進展により印刷の定義や応用範囲を変えるところまで来たということなどを整理して、これからの時代に印刷業界側から切り開いて、価値を生むことができるものは「クロスメディア」と「eビジネス」と「デジタルプリンティング」に集約できる。としたものである。
そこで、顧客のビジネスパフォーマンスの向上、すなわち課題解決のためには印刷というタスクを売るのではなく、タスクが重要とされる戦略を練る能力を売る人材がこれからの業界に必要になってくると考えた。そのためには、ヒアリング能力、分析能力、多様なメディアを組み合わせて最大効果を上げる提案能力などが欠かせない。これらをベースに足掛け4年がかりで有識者を集めカリキュラムを編成し、2006年から資格試験として実施しているものである。

そして両資格を、組織において役割に応じて身に付けるこにより、顧客の課題把握(コミュニケーション、ヒアリング)から提案(企画立案、マーケティング戦略)~実施(マネジメント、サービス、メディア制作)~効果測定(分析、PDCA)~改善(課題抽出、提案)という、パートナーとしての継続な関係を維持できるサイクルが構築できると考えている。

(CS部 橋本和弥)