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アイデア印刷術 1.インクジェット印刷〔2〕

※本記事の内容は掲載当時のものです。

アナログ博物館:アイデア印刷術 1.インクジェット印刷〔2〕

 

インクジェット印刷〔2〕

3. 各種インクジェット印刷

〔1〕一般用インクジェット
【概要】汎用型のインクジェットプリンタ。水溶性染料インキの使用が一般的で,用紙は各種専用紙が用意されている。
 【利点】上述のとおり,コストパフォーマンスと可搬性から一般家庭では最も普及している。業務用としてもその特徴を生かした実例がある。

〔2〕高精細インクジェット(Giclee/ColorSpan社)
 【概要】プリンタ本体内のドラムに用紙を巻き付ける安定した用紙搬送機構をもち,サーマル方式を採用している。インキは透明性,輝度の高い,高耐候染料系を使用し,8色印刷(Y,M,C,K,薄赤,薄藍,オレンジ,グリーン)で,1800dpi相当の高品質を実現している。
 【利点】完全なフルデジタルを駆使し,複雑な表現技法の再現が容易で,水彩画の微妙なにじみ,油絵のタッチなどの微妙な表現が可能である。当然小ロット対応も可能で,現在,複製画の製造で最も多く利用されている。
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▲ジークレ出力

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〔3〕大型インクジェット
【概要】B0~A2サイズまでの出力が可能で,多くの機種がそろっている。産業用インクジェットの代表格で,印刷品質,生産性は年々進歩している。耐候性インキ,速乾性インキの登場で用途幅も広がり,さまざまな場所で目にすることができる。
 【利点】大型ポスターを例に取ると,1~50枚の小ロットでは,オフセット印刷に比べ,コスト・納期・品質の面で有利になる。ラミネート,スタンド,バックライト式など,後加工と合わせて商品化の提案が有効。

〔4〕インクジェット捺染印刷
 【概要】インクジェット捺染印刷は,生地,布へ,基準4色による色分解で,調子再現の印刷が可能なため,近年発展傾向にある。現時点では,生産性は低いものの,高付加価値商品,または小ロットでサイクルの早いアパレル系商品などでは,十分メリットを出ている。
 【利点】オートスクリーン印刷の捺染方式との比較を表3にまとめた。
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▲捺染

〔5〕平面式インクジェット印刷(EagleH/Inca)
 【概要】平面にバキュームで固定された原反が往復運動し,定位置移動のヘッドで印刷するユニークな方式である。
 【特徴】最大印刷サイズは2.4m×1.6mで,厚さ4cmまでの原反を設置することが可能。平面式のため,凹凸のある原反,曲げ適正のない原反にも対応でき,耐候性UVインキの採用により,屋外3年の耐久性も備えている。
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▲Inca 平面式インクジェット印刷

〔6〕加工機インライン用インクジェット
【概要】DMを代表とする多形態加工機に設置されたインクジェット印刷。事前に,個々のパーソナルデータを情報加工し,印字データを作成する必要がある。印字速度,印字解像度,印字範囲などが重要な仕様となる。
 【利点】オンデマンド印刷では,レーザ方式,電子写真方式などもあるが,印刷~加工までのインラインフィニッシュの分野では,設置が容易で,機能が単純なインクジェットが有利である。
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▲DM加工機インライン用インクジェット
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▲インクジェットプリンタによる製品サンプル

おわりに

インクジェット印刷は高品質・高生産性を追求し発展し続けており,上述の内容も数年で更新されていくことになるだろう。常に最新の動向をつかむことで,潜在的な需要を掘り起こすとことができると考える。特に,小ロット,パーソナルな分野は,裾野が広く,さまざまなソリューションが可能なので ,今回の講座が受注拡大のお役に立てれば幸いである。

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)

アイデア印刷術

※本記事の内容は掲載当時のものです。

こんなこともできる!! アイデア印刷術

 

印刷物は,さまざまな加工や工夫を行うことによって,メディアとしての可能性を広げているのです。印刷物に付加価値を付けることによって,新たな市場の開拓,デジタルメディアなどとの差別化,あるいはインパクトを与えることが可能です。

具体的には絵柄を盛り上げる,音が出る,さまざまな香りがする,色が変わる,ラメを散りばめた印刷,立体印刷,ホログラム印刷,光る印刷,サンプルを添付など多種多様な印刷が可能です。

このコーナーでは,これらのいろいろな技術によりPOPやDMなど販促ツールや,雑誌および雑誌の付録など対して,企画提案の枠を広げるためのヒントを紹介します。

執筆は,下記の方々が担当しています。
大日本印刷株式会社 冠 文隆
大日本印刷株式会社 飯原 岳志
大日本印刷株式会社 大立目 恭生

※項目は随時追加していきます。

1.インクジェット印刷 〔1〕〔2〕
2.立体視印刷 〔1〕〔2〕
3.眼鏡を用いた立体印刷 〔1〕〔2〕〔3〕
4.隆起印刷関連について 〔1〕〔2〕
5.五感印刷「香りの印刷」「色の変わる印刷」 〔1〕〔2〕
6.光る印刷 〔1〕〔2〕
7.マット調印刷 〔1〕〔2〕
8.フィルム印刷 〔1〕〔2〕
9.転写印刷 〔1〕〔2〕〔3〕
10.布印刷 〔1〕〔2〕〔3〕〔4〕
11.シール企画 〔1〕〔2〕〔3〕〔4〕/〔5〕
12.貼り付け企画 〔1〕〔2〕〔3〕〔4〕/〔5〕
13.表面加工 〔1〕〔2〕〔3〕〔4〕〔5〕

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)

アイデア印刷術 1.インクジェット印刷〔1〕

※本記事の内容は掲載当時のものです。

アナログ博物館:アイデア印刷術 1.インクジェット印刷〔1〕

 

インクジェット印刷〔1〕

はじめに

今回はインクジェット印刷全般の講座ということで,基本的な構造,特徴・利点,各種事例を紹介する。一般家庭のPC,オンデマンド印刷の発展とともに,少ロット対応のプリンタはさまざま出現しているが,その中でインクジェット印刷は最も普及しており,最も注目されている分野だと言える。これらの全体像を理解することを念頭にまとめてみた。
 比較分類表を利用した記述もあるが,これは一般論的な内容になっており,個別製品単位ではないことを断っておきたい。

1. インクジェット印刷の概要

インクジェット方式は,現在最も普及しているプリンタであり,最も進歩の早いプリンタでもある。そのためモデルサイクルが短く,すぐに新機種が登場する。
 民生用(パーソナルユース)のレーザビームプリンタやコピー機の場合,プリントのための主要パーツは,「メディア=紙」を走行させるための給紙機構のほかに,トナー(インク)の供給機構,加熱定着機構が必要であり,非常に複雑な機構になっている。それに比べインクジェット方式は,大まかに言えば,インクを射出する機構「プリンタヘッド」と給紙機構の2つで構成され,非常にシンプルにできている。
そのため本体価格が非常に安価であり,広く普及されている。また,機構がシンプルなため,展開の幅も広く,多種多様な用途へ向けた,さまざまなインクジェット方式がある。

2. インクジェット印刷の分類

〔1〕インクジェット印刷の位置付け
 インクジェット印刷を広義のプリンタとして見ると,その特徴については表1のような比較分類表となる。これを見ると,インクジェット方式は,大きな欠点がなく,ほかのプリンタに比べ,優等生的な位置にあることが分かる。
また,プリンタにはページ単位で印刷する「ページプリンタ」と,ドット単位で印刷する「シリアルプリンタ」に分かれ,インクジェット方式は後者に当たり,大判も対応可能という特徴がある。
※以下の表は一般的な分類で,個々の方式の中でも優位差の幅がある。

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01ink_01▲インクジェット出力

〔2〕インクジェット印刷の基本機構
 以下に代表的な2つのインクジェット方式について特徴をまとめた。どちらも一長一短がある。
 【ピエゾ方式】ピエゾ素子(電圧素子)に電圧を加えることで収縮し,タンクにインキが吸入される。
ピエゾ素子に逆の電圧を加え,変形の圧力を利用してインキを吐き出す。
 〈特徴〉
・電圧変化をコントロールすることで,サイズの異なるインキ滴の打ち分けが可能である。
・ヘッドに熱が加わらないため,幅広いインキ適性がある。
・コスト面,印刷速度面では若干不利である。
 【サーマルジェット方式】ヘッド内のヒーターでインキを急激に加熱し,発生させた気泡の圧力でインキを吐き出す。
ヒーターの加熱を止め気泡を消すことでインキ射出量をコントロールする。
 〈特徴〉
・構造が単純なので,印刷速度が速く,コストダウンしやすい。
・加熱方式のため,水系溶媒のインキに限定される。

〔3〕インキの種類
さまざまな特性のインキがあるが,上述のヘッド部の機構によって,使用できるインキ物性は制約を受ける。ヘッド機構・用紙の開発に加え,インキの発展は,印刷品質の向上に大きく貢献している。表2にインキを構成する要素と特徴をまとめた。
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(印刷情報サイトPrint-betterより転載)

ページ物印刷物企画 [原稿チェック] 4. 文字原稿の内容チェック

※本記事の内容は掲載当時のものです。

アナログ博物館:ページ物印刷物企画 [原稿チェック]

 

4. 文字原稿の内容チェック

 

[組版指定]

組版とは文字を並べる時のテクニックであり,それは一定の規則に基いて行われます。だいたいどのDTPソフトも似たような組版指定のメニューがあります。何も指定しないとワープロと同じような単調な紙面にしかならず,文字ブロックにどのような雰囲気をもたせるかを 設計しなければ読みやすい本にはなりません。

文字をどのようなスタイルで組んでいくかの組版指定がないとDTP作業は始まりません。基本的な組方はすでに決定していても,さらに見出しの大きさ,挿入の仕方,字割・字下げなどを細かく決める必要があります。組版指定の主な項目は次のようになります。

[本文の指定項目]

本文部分は基本組とも呼び最低限次のような項目を指定します。

(1)タテ組・ヨコ組

本の企画内容に合った選択をしますが,新聞雑誌など一般の目に触れるものは圧倒的にタテ組が主流です。ヨコ組は教科書やマニュアルでは主流ですが一般書では特殊組版ともいえます。編集・校正の分野でも,ヨコ組はタテ組より難度・料金とも高いとされています。 一般的にタテ組の本を右開き本,ヨコ組を左開き本といい,面付・折りがまったく違ってきます。

(2)文字の大きさ・書体

文字の大きさの基準は,用いる文字組版装置により以下のような違いがありました。
・活字=号数とポイント制
・手動写植=級数制
・電算写植=級数とポイント制
・ワープロ・電子組版機=ポイント制(級数対応もある)

DTPは基本的にはポイント制ですが,メニュー・ダイアログで級数指定できるものもあります。
コンピュータでは単位の換算は容易ですが,慣例的な級数とポイントの換算表はあくまで近似値であることから,例えば字詰が長くなると行長にズレが生じることがあります。そのため寸法を確認するには実際に文字を流して検討して下さい。とりわけ組版とレイアウト指定を級数指定でしたものを,あとでポイント換算して,近似値として作業を進めるようなことはやめましょう。また同様に,レイアウト用紙が活版や写植,ワープロ組版用に作られたものであれば,流用するのは問題です。

書体についても,あらかじめ出力をする印刷会社側で保有している書体・フォントを知っておき,それ以外の書体と区別しておきましょう。

印刷会社側にフォントがなくても,文書に埋め込み(エンベット)をして印刷会社に渡せるフォントがありますので,新書体情報はデザイン以外に使い方をつかんでおくことが,大切です。自社が新書体を導入するときなどは,関連しているところにマメに情報提供をすることも忘れないで下さい。

(3)1行の文字数

日本の組版は,文字ブロックを「何字詰×何行」というとらえ方をしていましたが,DTPは任意のボックスに任意の文字サイズで指定するやり方ではじまり,今日は両方が混在した指定方法があります。
つまりDTPでは必ずしも1行の文字数を考慮しなくても作業できますが,読みやすさという点では字詰は最初に考えておかなければなりません。
字詰は多すぎても,少なすぎても文章が読みにくくなります。最大字数をタテ組では45~50字程度,ヨコでは35~40字までにすると良いといわれています。新聞などに使われる最小字詰は15~18字程度とされていますが,これらは本の大きさ,文字の大きさ,写真と文字の関係や人の好みの問題もあり,一応の目安ということで理解してください。

(4)行と行の間

行間といいますが,写植では文字の大きさに行間を足した行送りという言葉と指定方法がとられていました。行送りと行間の違いが混同されていないかをチェックしなければなりません。またDTPでは文字の大きさの何%の行間をとるかという指定もあります。

(5)字と字の間

日本の組版では基本的にはですが,行間・行送りと同じ考え方で,字間・字送りという指定もあります。字と字の間をあけないで組むベタ組とツメ組は,字と字が重ならない程度にツメて組むことで、パンフレット・カタログなどの販促用ツールの印刷物ではツメ組は常識となっているようですが,書籍・雑誌では本文をツメ組することは少ないようです。(リード文などはツメ組が多い)。

ツメ組の方法はさまざまあり,DTPソフト単体でできるものの他に,専用ソフトを使うものもあり,それぞれ結果が異なります。ツメ組の指定はテストをふまえた上で行なうのがよいでしょう。

(6)句読点

一般的にはタテ組はテンとマル,ヨコ組はコンマとピリオドという組み合せになるでしょう。しかし最近はヨコ組でコンマとマルという組み合せも多くみられます。

(7)1ページの行数と段落・段間

基本組・基本レイアウトが決まっているということは,行数・段数・段間 がすでに決まっているということですが,実際には,入稿する各ページごとにレイアウト指定紙が必要です。文字原稿と同時にレイアウト指定紙があるものについては,行数・段間・段数にしたがってページ・メイクアップをできますが,基本組は決まっているものの,レイアウトが未指定である場合には,基本組にしたがって棒組をし,初校と同時にレイアウト指定を完成してもらい,再校時にページ・マイクアップをする方法をとります。

(8)ブラ下げ

タテ組で句点や読点(「。」や「,」)が行末にきた場合,版面の下に飛び出して組むことをブラ下ゲ組といいます。活版時代の行末処理の方法が写植組版にも形式的に踏襲されているものですが,得意先によってはブラ下ゲ組を基本にしていることもあり,確認が必要です。ただし,1行の字詰の少ないものや段組は,ブラ下ゲにしないものです。横組でブラ下げをする場合もみうけますが,やはり段組や字詰の少ない場合は不細工な仕上りになります。

[その他]

本文中にはいろいろな約物・記号・数字・欧文が混在してきます。それぞれの種類や書体・大きさ(全角もの・二分もの)などが統一的に指定されているかどうか確認してください。

その他,図表類の指定,写真のキャプション(写真・イラストの説明文/Captions)の指定,ノンブル・柱の指定などについても統一がなされているか確認しましょう。図表類については図表の大きさと中に入る文字の書体・大きさとともにケイ線の太さの確認も必要です。

[禁則処置]

文字組で,約物や記号などが行の頭や行の終り(行頭・行末)にきたり,行末から行頭にまたがったりすると,読みやすさを損なったり誤解を生じたりします。また組体裁上も好ましくないものになります。このほか,約物や記号が連続して出現する時には字送りを調整する必要が生じます。
これら特定の文字を「禁則文字」といいますが,禁則文字が行頭・行末にこないよう,また行頭・行末にまたがらないように調整することを「禁則処置」といいます。
DTPでは禁則ルールをプログラム上で制御できますので,どのように自動的にさせるかを指定しなければなりません。

 

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)

ページ物印刷物企画 [原稿チェック] 3. 原稿整理

※本記事の内容は掲載当時のものです。

アナログ博物館:ページ物印刷物企画 [原稿チェック]

 

3. 原稿整理

まず著者と編集者の間では情報内容の吟味といった意味でのチェックがあり,その後組版レイアウト作業を進めていくうえで,障害や問題点がないかどうかのチェックを行ないます。ここでは後者が対象で,その中のチェックポイントは原稿の組版指定に関するものと,原稿整理に関するものとの2つに分けることができます。

[原稿整理]

わかりやすく,読みやすい原稿にするために,組版レイアウト作業に入る前に原稿整理をする必要があります。原稿が未整理のままで入稿した場合は必ず校正での赤字が多くなります。たとえ不十分であっても最低限の整理をしたうえで作業に取りかかりましょう。

原稿整理は印刷物にするための文章の整理整頓作業のことで,これは刊行される本に,読者に対する誤解や難解さ・読みづらさ,また本としての欠陥があってはけないという考えに基づいています。

原稿整理をする場合に、どのように著者の意向・表現をくみとって尊重するかということです。著者個人の思想・信条を文字で表現したものが原稿ですので,意図的にうそ字・当て字を使ったようなものに要注意しなければならない場合もあります。

(1)誤字・脱字のチェック

誤字・脱字といっても常識だけでは判断できない面もあるので慎重に行ってください。著者が意図的にうそ字・当て字を使用する場合以外は,編集・校正の本に従って作業するのがよいでしょう。

(2)用字・用語の統一

同じ内容のことを表現する場合に,いろいろな用字・用語を用いることで読者が誤解をしないようにするものです。複数の人が執筆したり,書き始めと書き終りまでの間にかなり時間がかかっている場合は,用字用語のバラツキが出やすくなります。読者が理解しやすくするための統一方法を検討しておくとよいでしょう。

(3)文体の統一

基本は「です・ます」調,「である」調が混在しないようにするものですが,画一的に統一すればよいというものではありません。例えば箇条書き部分だけはその意図から「です・ます」調をやめ,「である」調に変更すると言ったような,使いわけの基準が必要になる場合もあります。

(4)漢字の使用範囲の設定

 用字用語と似た問題ですが、漢字表現の範囲は文章の性格にかかわるものなので,慎重に対応しなければりません。教育書やハウツーもの,啓蒙書などではその発刊の目的から漢字の範囲を,教育漢字(996字),当用漢字〔1850字),常用漢字(1945字)といった基準に沿って決めるのが普通です。これらの範囲内であれば新字体使用が原則となります。

 漢字に関しては,その他にも人名用漢字の新字体・旧字体・拡張新字体の採用・不採用・正字と俗字の区別など内容と関連して難しい問題がありますので,専門書または専門家に相談するのがよいでしょう。

(5)漢字の多様は避ける

 副詞・接続詞など一般的には漢字を使用しない方がよいものは,できるだけひらがなで表現します。

 例:度々→たびたび,概ね→おおむね

(6)旧かな遣いか,新かな遣いか

 いまでは旧かな遣いはめったになく,だいたい新かな遣いと考えてよいでしょう。総括指定中にも新かな・旧かなの区別をすることが少なくなってきています。高齢の方の原稿でも新かな遣いにおきかえるのが一般的です。

(7)数字表記の統一

 数字はタテ組とヨコ組では組み方が違ってきますし,本の内容・性質によってもアラビア数字・ローマ数字・漢数字を使い分けなければなりません。

また,同じ漢数字であっても一方式と十方式(例:「二一六」と「二百十六」)の区別などあります。これらの表記方法については,朝日新聞社や共同通信社,また日本エディタースクール出版部などから用字・用語や校正に関する本が発刊されています。これらは編集者にとっては必須アイテムです。

(8)単位記号の統一

 キログラムとするかkgとするか,ミリメートルとするかmmとするかといったことです。これも用字用語と同様に一貫性が必要です。本の性格(文芸書か理工学書か経済書か)によって最も適した表現を選ぶことが大切です。

(9)人名・国名・外来語・学術用語の統一

 日本人であれば旧字体にするか新字体にするか(澁澤榮一→渋沢栄一),外国人である場合は,日本語読みの表記にするか現地音によるカタカナ表記にするか(ベートーべン→ベートーヴェン)などを最初に決めておくと,あとは機械的に選択できるので楽です。

 外来語・専門学術用語などは,信頼ある専門辞典をみつけて参照をしましょう。また,どのような辞典が信頼されているのかを含めて専門家の意見も必要でしょう。

(10)原稿を読みやすくする

 手書き原稿では文字が一字一字マス目に記入されているか,促音・拗音(促音=っ・ッ,拗音=ゃ・ャ・ゅ・ュ・ょ・ョ)がハッキリしているか,挿入文章が明確であるか,改行箇所が明確か。改行の頭は1字下げになっているか,などのチェックを入力の前に行い,原稿に補助的に赤字を記入し表記を明確にしておきましょう。

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)

アナログ博物館:ページ物印刷物企画 [原稿チェック] 2. 文字原稿のチェック

※本記事の内容は掲載当時のものです。

アナログ博物館:ページ物印刷物企画 [原稿チェック]

 

2. 文字原稿のチェック

昔は,文字原稿は直筆による手書き原稿と決っていましたが,印刷物やプリントの切り貼り原稿もあります。またすでに電子化された原稿にも,フォーマット,文字コードなどいろいろなものがあります。

1. 手書き原稿

手書き原稿は,作家であれ,記者であれ,編集者であれ,広告・広報マンであれ,人それぞれいろいろなかきグセがあり,昔から編集担当者や活字の文選工,写植のオペレーターは原稿を読むこともひとつの熟練が必要でした。入力,DTPオペレーターの読解能力に甘えて,原稿状態をチェックしないで制作現場にわたすのは混乱のもとです。いくら優秀なオペレーターでも,一般的なルールを逸脱した原稿ではトラブルのもとになり,結果的にはムダな労力を費やすことになりかねません。

(1)手書き原稿は必ず原稿用紙に書くこと

原稿用紙は一般的には400字詰が標準となっています。実際の字詰めにあわせた100字,200字,250字,300字または端数でもかまいません。ただし,1枚の原稿用紙に入る文字量が多くなると文字のマス目が小さくなり読みづらくなります。400字詰が限度となるのはこうした理由に加えて行と行の間をできるだけ余白を多く取ることで,書き込みができるようにするためです。

原稿用紙がなければ方眼紙で代替品とする場合もあります。

(2)原稿用紙にノンブル(連番)をつける

冒頭で原稿の重要さにふれましたが、原稿管理は厳重に行なわなければなりません。何でもないようなことですが原稿枚数の確認・チェックは非常に大切なことです。1枚でも欠けることのないようにする最低限のチェックが原稿の連番づけです。
また原稿の最後のページには,朱書きで「トメ」の印をつけ,このページで原稿は終わりですという相互の確認をします。この印は,お互いが確認をするようにしてください。このルールを徹底することで,最後のページに印がないときや連番が不連続のときは,脱落があることを即座に発見できます。

(3)基本は指定字詰で書く

原稿用紙には必ず5字(または10字)ごとに数字や太いケイで印をつけます。とくに雑誌用原稿では複雑なレイアウトが多いですから,1行の字数がすぐわかるようになっていると便利です。

書籍などのように,1点ごとに基本体裁が事前に決まっているものは,できるだけ仕上りの字詰で原稿を書いてもらうようにしましょう。全体のページ数や決められたページ数分に対する多少が容易にわかることから,作業前に原稿量の調節が可能となりムダな校正を減らせる場合もあります。

ページ数が多い書籍や定期刊行物に対しては,専用の原稿用紙を印刷しておく場合が多くあります。専用の原稿用紙ですと,編集やオペレーターの作業能率が向上するだけでなく,一目で他の仕事との区別がつくため大変便利です。

2. 電子化された原稿

ワープロ・パソコンのFD(フロッピィディスク)や電子メールで文字原稿が入稿されるケースの方が多くなっています。

磁気ディスクはたいへんデリケートで磁力を極度に嫌います。また,FDはプラスチック円盤の盤面に磁性膜を塗布した薄ドーナツ盤レコードのようなものですから衝撃には弱いものです。よくマニュアルなどに取扱注意が書かれていますが、それらに沿った扱いをし、持ち運びは必ずケースに入れましょう。

磁気媒体は紙ほどの信頼性はありません。万一のことを考え,原稿のバックアップ・コピーを取る習慣を持ちましょう。

磁気媒体は手書き原稿のように外観から中身を判読することはできません。原稿の内容に間違いが起きないよう,必ずラベルに用途,名称,ファイル名,作成日時,作成者などが記入されているかどうかを確認しましょう。

FDは一般にはMS-DOSのテキストファイルが主ですが、特定機種・特定ソフトでしか読み書きできない場合は,コンバートをしないとDTP作業に使えないので,どのようなシステムで入力したのかを確認しておかなければなりません。

 電子メールなどオンラインでの電子原稿の授受は、リアルタイムで受け渡しができるというメリットの他に、FDなどのようにフォーマットの互換性を気にする必要がないので、利用されることが多くなっています。

 電子メールは途中いくつも中継されて最終的な宛先に届きます。電子メールで日本語のテキストを扱うときは,メールソフトが8ビットのシフトJISコードを、7ビットのJISコードに変換して送り出します。この変換に問題があったり,伝送途中でJISコードに必要な制御情報が抜け落ちたりすると,受け取ったメールが欧文と記号の混在した文字に化けて読めない場合があります。

 また,電子メールの添付ファイルとして文字原稿を送る場合も、データをいったん変換して送信し,受信側でそれを復元するのですが、その変換方法にはいろいろな形式があり、やはり伝送途中のエラーやメールソフトの誤認識によって文字化けが起こる可能性があります。
このほか、インターネットのファイル転送プロトコルFTPを使って、サーバ経由で電子化原稿を授受する場合があります。FTPサーバへアクセスしてファイルの授受する操作はコマンド形式もありますが、今はブラウザなど画面で操作できるFTPツールを使うのが一般的です。電子メールは企業によっては容量制限をしている場合がありますが、FTPでは大容量でも問題はありません。

 いずれにせよ電子化原稿の中に、JISで定義されていない機種依存文字があると,異なる環境で再現できない場合があることには注意をしなければなりません。

 

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)

ページ物印刷物企画 [原稿チェック] 1. 原稿とは

※本記事の内容は掲載当時のものです。

アナログ博物館:ページ物印刷物企画 [原稿チェック]

 

1. 原稿とは

1. 原稿の性質

原稿は人間の頭の中にあった思考イメージを何らかの具体的な形で表現したものです。作成した本人の感性に基いた表現ニュアンスが含まれるという点で代替のきかないものですから,原稿すなわち貴重品という認識をもってください。

「優れた原稿は優れた印刷物」といわれるように,原稿の質と印刷物の質は連動しているものです。しかし,元原稿や生原稿のままでよい印刷物が出来るわけではありませんので,編集者やデザイナが整理・指定を行って印刷用原稿に整えることが必要です。

2. 原稿の種類

原稿といわれるものは、その処理形態によって文字原稿と写真・描画原稿,およびトレスを行う図表などの線画原稿の3つに大別されます。

一方で実際には階調原稿・版下原稿・透過原稿・白黒原稿…等々,○○原稿,と原稿の頭に名前をつける名称はたいへん多くあります!?

これは印刷の各工程ごとに処理方法の区分上で名称をつける必要にせまられたからです。つまり大きく3つに分けた名称以外は,非常に専門的・現場的用語といえます。

3. 原稿のチェック

元原稿のまま印刷・製版工程にのせても作業がスムーズにいかないばかりか、その後の修正の手間が多くかかることになるので、原稿作成者の意図や印刷物の対象・目的を理解して,製版または印刷用の原稿を仕上げなくてはなりません。製版・印刷用の原稿を作るための元原稿のチェックという作業は,後工程での仕事の流れ,仕上り品質,料金にも大きく影響する重要なポイントです。

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)

ページ物印刷物企画 [企画] 5. 造本設計の進め方

※本記事の内容は掲載当時のものです。

アナログ博物館:ページ物印刷物企画 [企画]

 

5. 造本設計の進め方

5.1 造本設計の項目とポイント
企画段階での見積りに,最低限度必要な項目は決めておかないと,制作へ進むことができません。

 数値化して決定できるものもありますが,数値化できないものへの対応がポイントになります。
・数値化できるもの
(1)納期,(2)入稿日,(3)仕上りサイズ,(4)ページ数,(5)色数,(6)部数,(7)写真点数(モノクロ・カラー),(8)印刷方法,(9)イラスト・図版・表組・トレースなどのおよその点数,(10)総予算

・数値化できにくいもの
 (1)仕上り時のデザインイメージ(用紙,製本様式)
 (2)品質要求度

そのほかに,企画段階では不明確であるが,後の制作費用に大きく影響するものとして,次の項目があげられます。
 (1)文字原稿の状態
 (2)写真・イラスト原稿の状態
 (3)原稿訂正の可能性
 (4)編集上の処理形態,二次使用の可能性

企画の煮詰めは,明確な部分と不明確な部分を常に分けながら,とくに数値で表現できない部分を一つ一つ埋めていく作業をしなければなりません。出版社などの専門家の集団でなければ外部のアドバイザに社内情報や材料を提示して,専門知識の不足による不明確な部分を明らかにしていく努力をしなければなりません。この時点では個々の工程の単価が高いか安いかは無意味なことも多く,見積り先の単価提示に振りまわされないように気をつけましょう。

 〔あらゆる見本を作る〕
 企画段階は不確定要素が多いので,可能な限り実際に近い見本を作ることが大切な作業になります。
 例えば,
・イメージに近い本を集める
 ・見本組見本を作る
 ・イラスト見本を書く
 ・見本刷を作る
 ・束見本を作る
 ・原稿用紙や割付用紙の見本を作る
 ・予定進行表を作る
 ことなどです。
これによって,制作にかかわる内外の人々が仕上りイメージに近いものを見て役割分担できて,後工程でのトラブルを防ぎ,見積り金額と現場作業の整合性をもたせることができるものです。
また,このような努力をすることで,お互いの負担を軽減し,よいチームワークを保てることになります。

 〔企画の最終確認は上司と〕
 方針がある程度固まり,全体に作業開始と思われるところまでいったときは,最終決定権をもっている人の最終確認が必要です。印刷会社などに対しても営業マンが初級レベルの場合は,課長・部長に同席してもらって,各役割分担のキーマンと権限の流れについてお互いに確認しておくことは,トラブルが発生した場合に重要なポイントになるからです。

本づくりは編集プロダクションが介在することが多いのですが,編集プロダクションが得意先や印刷会社とうまくコミュニケーションができないケースがよくあります。そこを補完するためには節目節目で,作業の動きや了解状況を探っておくべきでしょう。
とくに一般企業の社史,会社案内・営業案内,商品カタログ,PR誌などの製作では,社長や事業本部長・取締役などの決定権者のチェックなどによって基本構想が変更になる可能性もあります。
さらに多くの場合,詳細部分は企画段階で決まらないまま動きはじめ,走りながら固めていきます。印刷物作りがビジネスと連動しているのでやむをえないことですが,それだけに最新の状況についてよく把握しておくことが,大変重要です。

5.2 造本設計の実際
企画イメージを具体的に造本設計をしていくためには,次のような項目内容について具体的に決定する必要があります。
 (1)判型
 (2)本文(基本体裁・写真・イラスト・グラフ・表組など)
 (3)表紙など(表紙・扉・口絵・カバーなど)
 (4)広告の量(広告のページ数,広告制作の有無)
 (5)ページ数・部数
 (6)製版(色数・アミ処理・ダイレクト刷版など)
 (7)印刷(軽印刷・枚葉機・輪転機)
 (8)製本(中トジ・無線トジ・上製本)
 (9)用紙
 (10)梱包・納品・搬入方法
 (11))納期

 〔造本設計の決定〕
 第一に編集方針に合った造本のかたちを検討することです。そのためにはいろいろな出版しようとするものの類似書や企画イメージに近い印刷物を集めて誌面イメージを検討します。
 検討の方法としては,予想される編集企画内容のページを,既存の印刷物データを利用して見本(ダミー)を作ってみることです。このようにして作った見本それぞれについて,品質,コストや作業性を検討します。

ときによってこの見本づくりは,数回,数十回と繰り返され,企画・編集会議での検討と同時に,実際にテスト版・パイロット版として見本を本格的に印刷する場合もあります。
 雑誌のテスト版・パイロット版は,広告主へのPRや書店・取次店へのデモンストレーションも兼ねており,創刊号発行までの間に数回発行されることもあります。このような準備は書籍でも辞書や百科事典・全集本・シリーズ本などの場合には,よくあることです。

このような実作業を通じて,出版の計画が決定されますが,この段階で,印刷関係のスタッフとして営業マンをはじめ,技術者やプリンティングディレクターが加わり,造本コストの合理化の方法や原稿の作り方を話し合えば,編集・造本の仕事がうまく進められ,安くて早く,よいものが作れます。そのためには,印刷会社が企画段階から編集の参考になるような各種の資料を提出してくれて,編集側の希望を具体的に考えやすいようにサポートを依頼することが大切です。

 〔企画・制作の総合管理〕
 企画イメージがしだいに固まり,具体的な編集方針(ポリシー)が決りますと,その編集方針に基づいて造本計画から編集内容,制作・進行・納品までをすべて管理するディレクターが必要です。
 一般に企画・編集内容は,出版社であれば出版部長や編集長であり,誌面構成上のデザインについてはアートディレクターや制作部長,印刷会社のプリンティングディレクターとよばれる人々によって管理されます。
 一般企業や非専門家である場合は,窓口担当者や編集プロダクションの編集者などと上手に連係しながら,印刷会社の営業マンがかなりの部分をリード・管理することもあります。

ディレクタの主要な仕事である総合管理とは段取りと手配です。

3. 見積り準備
 一般企業のPR誌や会社案内・商品カタログ・社内報などでは,企画・デザインから印刷・製本までが外注で,それらの見積りが必要になります。仕事の質やかかるコストはもちろん,会社の力量,信頼にも大きく影響します。企画・デザイン分野の料金は,デザイナの知名度や実績,内容の特殊度・難易度などによって大きく変ってきますので,外注先は内容別・キャリア別などできるだけバラエティーに富んだ協力会社を確保しておいて,いろいろなレベルの要望に応えられるようにする必要があります。

 〔見積り項目〕
 企画・デザインの見積り項目として大きく分けますと,次のようなものがあげられます。
 (1)調査
 (2)企画
 (3)ディレクション
 (4)コピー
 (5)イラスト
 (6)デザイン
 (7)撮影
 以上の詳細な内容は別記事を参照してください。このような仕事がどの印刷にもあてはまるというわけではありませんが,作業は各々の専門家が分担して行います。ディレクタはこれらの専門家および企業に依頼手配を行い,印刷物依頼側との仲介役を果たさなければなりません。広告業界では,企画を総合的に管理できる能力をもったAE(Account Executive)という人がいますが,印刷業界ではプリンティングディレクタがまさにAE的存在です。

5.4 原稿と制作環境
 印刷物の固定費コストの多くは,前工程(プリプレス,DTP)でかかりますので,手早く仕上げる必要があります。そのための工夫が大切で,専門の制作環境を作ったり,専用のレイアウト用紙を用意したりすることによって,あとでの訂正を減らすことができ,コストや納期を改善することができます。例えば表組のために表組用原稿用紙とかエクセルのテンプレートを作って,表組の体裁を考えながら原稿を作れば,編集担当者もDTP現場のオペレーターも手間が大幅に省けますし,レイアウト上の表組のスペース取りもしやすくなるわけです。

 〔原稿ルール〕
・基本組と同じ字詰のテキスト入力をする。
・本文用と図表類やキャプション用のマーカやタグを決める。
 以上のような原稿ルールを作り、関係者に合理的ワークフローを準備してもらいます。

 〔レイアウト用紙〕
アナログの時代からお互いに合理的に作業を進めていくためにはレイアウト用紙が必要不可欠でした。最近は,DTPでマスタページ,テンプレートなどの段取りができるので、いろいろワークフローに連動した専用のレイアウト用紙を用意することが作業効率を改善させます。
レイアウト用紙の条件は次のようなものです。

・基本組の位置表示が正しくしめされていること。
・仕上り線・製版線が表示されていること(裁ち落し分は3~5ミリ)。
・見開き2ページ建てであること。
・グリッドは淡くて見やすい色(セピア・青・緑・グレーなど)であること。スミなど濃い色は製版指定・レイアウト指定とまぎらわしく,誤解のもとになります。
・用紙は厚からず薄からず(四六判70kg前後)
・上質紙などで,書き込みしやすい紙質であること。(コート紙・アート紙は不可)
・平トジ,無線トジなどでノドが裁ち落されるものは,ノド部に6ミリの落し分を見込む。
・中トジでかなりのページ数になる場合は,外側の仕上りと最も内側の仕上りでは最終仕上りの左右の大きさに数ミリの差が生じます。内側へいくにしたがって小口の仕上り線を少しずつ内側へずらしていくための基準線を束見本によって計算しておきます。

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)

アナログ博物館:ページ物印刷物企画 [企画] 4. 見積りの考え方

※本記事の内容は掲載当時のものです。

アナログ博物館:ページ物印刷物企画 [企画]

 

4. 見積りの考え方

いろいろな基本的な見積りの考え方はひととおりではなく,以下のような方式があります。どのような考え方で見積もり計算をするのかは,各々の印刷会社によっても,印刷物によっても違ってきます。

4.1 総額方式
出版計画全体のなかから総予算をあらかじめ決めておく方式です,その範囲内ですべての費用を割り振り,各費用項目の積み重ねで総額がオーバーするときは,造本内容を変えます。
この方式の場合は,得意先も印刷会社も総額が変らないという安心がある一方で,造本作業の途中で何回か総額見積りをしながら造本仕様を決めていくため手間がかかります。組版や製版の段階で文字訂正などが予想以上に多くなると,印刷以降の仕様に大きな変更をきたすことにもなります。
 出版の経験があまりない場合や,自費出版などの場合は,このような見積り方式になることが多いものです。また,出版物自体が商品でない場合などで,全体の予算枠を絶対にはずせないケースなどでもこの方式をとらざるをえません。

4.2 ページ数×部数×単価方式
報告書などのように,編集内容や判型・製本様式などがいつも固定化している文章中心の簡単な組体裁のページ物については,「ページ数×部数」で総額を概算することができます。過去の経験によって,印刷会社と相談して単価を決めておけば,印刷物の企画の段階で,毎回詳細に見積りをしなくても概略費用を知ることができます。
とくに部数が1,000部以下の場合,印刷料金や製本料金が最低料金として固定的な金額になりますので,総額はページ数に比例するようになり,即時に計算できる利点があります。研究所・大学・団体などの報告書・紀要・名簿などに活用できます。

4.3 工程段階別総額方式
一般に最も多く使われる印刷物の見積りの形式で,下記のような各工程別の料金を積みあげる方式です。
1.編集・レイアウト料金
2.版下・写植料金
3.製版料金
4.印刷料金
5.用紙料金
6.製本・加工料金
7.営業費
この場合は各工程内の明細はなしにして,各工程別での総額だけを把握するもので,どのような振り分けになっているかを理解すればよいというものです。

4.4 工程明細別単価×数量方式
常時各種の印刷物を発注し,その内容も多彩である場合に使われます。印刷会社でも受注金額は常時社内の基準料金と対応して決めるものですから,得意先に提出するしないは別として,各工程別の明細見積書は必ず作られています。
 見積り項目は,各印刷団体などの資料や経済調査会調べの「積算資料」,また業界出版社・新聞社などで発行している資料を参考にするとよいでしょう。一般的な見積り明細項目は次のようになります。

[製作概要]
1.製作部数
2.判型
3.ページ数(色数別)
4.用紙
5.製本・加工様式
[造本内容別見積り]
1.レイアウト料金:ページ数×単価
2.トレスなど版下料金:点数×単価
3.文字処理料金:ページ数×単価(文字数×単価),+特殊組版代
4.製版料金:版数×単価,+レタッチ・合成などの料金
5.校正料金:色数×単価
6.刷版料金:版数×単価
7.印刷料金:(通し単価×通し数)×版数(台数×単価)
8.製本料金:部数×単価(場合により丁合い・折数などの明細)
9.用紙料金:用紙種類(質・寸法)×数量(連量)×単価
10.運賃・発送費:実費
11.営業費・消費税など
以上のような見積り明細が一般的ですが,実際の計算ではもっと細かくなります。

4.5 総製作費とコスト変動要因

 印刷物を作る場合の総予算額はいろいろな要素で変ってきますが,ページ物の場合,次のような項目がコストの変動要因となります。
 (1)ページの内容によるもの
 ・組体裁(表組,文字の書体,級数の多様性)
・カラー製版の複雑さ,カラー点数
・写真の点数や切り抜きなど
 (2)判型
 (3)ページ数
 (4)部数
 (5)用紙の種類
 (6)製本・加工の様式
 以上の項目のうち(1)・(2)・(3)は部数に関係のない固定費ですので,1,000部程度の場合は部数を少し減らしても総額はほとんど変わらないことになります。しかし,ページ数を減らせば総額がはっきりと減ることになります。

また逆に部数が10万部以上のような場合には,部数を減らせば総額が目に見えて減ります。判型を変えれば,当然総予算は大きく変ってくることになります。
1部当たりの原価でみれば,当然大量に作れば総額は大きくなりますが,1部当たりの原価は大幅に下がります。
この辺のバランスをどう考えるかは,印刷物の使い方,生かし方とあわせてよく考えなければなりません。

 

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)

ページ物印刷物企画 [企画] 3. 発行元と「本づくり」

※本記事の内容は掲載当時のものです。

アナログ博物館:ページ物印刷物企画 [企画]

 

3. 発行元と「本づくり」

企画内容でどのような内容を盛り込むのかというコンセプトが決まると,次はその中身にふさわしい容姿である「造本」設計の企画に取りかかります。
 造本について,岩波書店で造本担当を長く勤められた経験のある造本家藤森善貢氏は,「一口でいうならば〝本づくり〟のこと」であると述べています。少し狭義にとらえると広辞苑には,「印刷・製版・製本および用紙・材料などの製作技術面に関する設計・作業」とでています。

3.1 発行元
ページ物)を発行するところは,次のように分けることができます。
 (1)出版社・新聞社・企画宣伝会社(マスコミ)
 (2)一般企業
 (3)官公庁・各種団体(社団法人,財団法人,政治・宗教団体)
 (4)大学・研究所,その他教育機関
 (5)その他(個人・ミニコミ・自治会・市民グループなど)

 一般的にプロ集団といわれるのは,(1)の出版社・新聞社・企画宣伝会社のいわゆるマスコミグループです。大手企業ではかなり分業化が進み,外部の製作スタッフの力が大きいですが,本づくりの専門のスタッフが居ます。

 (2)~(5)のグループの一部には,専門の出版社や出版部門,スタッフを設置しているところもあります。しかし多くは,非専門家集団と考えてよいでしょう。そのようなところでは,編集制作を専門に請け負うプロダクションが代行することが多くあります。編集プロダクションは,出版社・新聞社の仕事はもちろん一般企業・各種団体など幅広く活動しており,編集制作の現場では大きな役割をはたしています。
 出版物の種類・バラエティーは,出版社・新聞社グループよりも,むしろ(2)~(5)の非専門家グループの方がより多彩で,かつ質的レベルも多様であるといえます。

 高度な専門知識は各々の専門化(デザイナ・エディター・校正者・アートディレクターなど)にまかせればよいのですが,ベースになる印刷技術の知識をもっていなければ,全体の制作進行がうまくいきません。その役割は,窓口となる印刷営業マンの専門知識に負うところが多いのです。の制作スタッフとして印刷営業マンがかかわるこもありますが,印刷会社のどこでもが,すべての印刷が得意だということはほとんどありません。総合的名判断が必要な場合はプリンティングディレクターという立場簿人が全体の指揮をすることがあります。

3.1.1 出版社・新聞社・企画宣伝会社の場合
(1)単行本
 中堅の出版社でも,単行本と雑誌では社内体制が違うのが普通です。単行本は企画から執筆・造本・編集制作・発売までに時間がかかり,造本途中の変更がある場合が多いものです。編集作業にはその本を担当する専任の人があたり,文字校正やレイアウトなどはそれぞれの専門の人が,編集者の指示にしたがって仕事を進めていく分業体制になっています。

 見積りを把握するには,造本上の細かい項目の単価を基準を知っておくことです。企画内容によっていろいろ造本体裁が変っても事前に概算できますし,造本完了後の金額も印刷会社の双方ですぐ納得できる額を算出できます。しかし,辞典・データブックなど特殊な処理が必要な本の場合は,見積りの仕方は等価基準にはなりません。

(2)雑誌
レイアウト上,雑誌は単行本よりも複雑な造本内容になります。しかし一方で,雑誌は定期発行されるものが多く,造本内容がある程度パターン化されていることが多いですから,見積りがしやすいという面もあります。

 雑誌は,執筆者,編集者,レイアウター,校正マン,造本・進行担当,用紙などの資材担当,広告・販売担当など,多くの担当者によって作られていますが,出版社によってその組織体制はまちまちです。編集局・制作局・広告局・販売局・校閲局というように分業化されているところもあれば,ひとつの部門でいくつもの仕事を担当しているところもあります。最近では雑誌別に,編集・制作・広告・販売とタテ割のトータルマネジメント方式を採用するところが増えているようです。

 造本料金の見積りを担当する窓口には,一般に制作部門の造本・進行担当の人があたり,編集長と社長が加わり決定することになります。
 印刷会社に対して品質を求めるのは当然ですが,見積もり金額のほかに,制作進行のスムーズさ,納期の安定も重要な要素となります。出版社にとっては見積り金額以上に,印刷会社のシステムと実績が大きな決定要因となるのです。ですから印刷会社と出版社の協力によって,お互いに合理的なシステムとなるよう努めることが必要です。

3.1.2 一般企業の場合
本を作ることがその会社の本業ではなく,基本的にはあくまで本業を発展させるための道具としの印刷物になります。したがって本づくりのために,社内に専門の人を養成しようという考えは少ないのが普通です。むしろ造本の元材料だけを編集プロダクションや印刷会社に渡して,あとは専門家である企画会社・編集プロダクションや印刷会社にまかせるという方向になっています。
また最近ではDTPの普及で,社内でも手軽に作業できるようになりました。ここをうまく自力でこなせば固定費が安くて早い印刷物を作ることができます。
しかし,本当にどれだけ安くできるのかが判断できる知識がないと,かえって,「やはり印刷会社に頼んだ方が,早くて,品質が高い」というようなとも起こります。内製化をするにも専門家からアドバイスをもらって計画作りをする必要があります。

3.1.3 官公庁・各種団体の場合
あらかじめ予算の決められていてその範囲内での,最も安い本づくりを原則としていますので,原則的には競争入札(コンペティション)が行われます。競争入札では,見積りをするための造本内容が,詳細に示されることが多く,本の誌面内容によっては,ほぼ同内容の見本が用意されている場合があります。内容がかなりグラフィカルでクリエイティブな要素の多い場合は,企画・デザインと印刷は別の会社の作業となることもあります。

 印刷の費用は,その造本仕様にマッチした設備のところと,そうでないところでは大きく変わる場合があり,個別に入札が行われます。
 各種団体でも大組織の場合は,出版社と同じような組織になっていることもありますが(出版部門が組織として独立しているようなところもあります),一般的には,出版社のように細かく専門別の担当には分かれないで,少ない人数で兼任担当しているところが多いようです。

3.1.4 その他,個人出版などの場合
最近は自分史ブームで,自分の足跡や,書きためた俳句・和歌・詩を1冊の本にしたいという,いわゆる自費出版が盛んです。
 自費出版物を,発注する人は,造本知識の少ない素人がほとんどですから,編集・レイアウトから製本,ときには販売までの相談にのれる印刷会社に相談するのがよいでしょう。
 当然費用が十分にあれば,編集・デザインなどを編集プロダクションにまかせれば造本上は立派なものを作ることは容易です。ワープロ・パソコンの普及や印刷関係の機器類が進歩しても,企画編集面のノウハウが不足していると,制作上のトラブルは多くなりがちです。

〔自費出版で多いトラブル〕
・修整・訂正にお金がかることを知らない 。
・できあがり後の,自分のイメージと違うことへの不満。
・製作費の支払条件の変更。
・販売に関する認識の違い(製作者側が販売ルートを開拓してくれる約束で発注したと主張する)。
・文字校正のミスに関する責任の認識の違い(最終チェック者が発注者本人であっても字を誤ったのは印刷会社であると主張する)。
 以上のようなトラブルは自費出版だけのことではありませんが,印刷発注の商習慣をお互い よく把握に努めるのが円滑な作業の基本です。

(印刷情報サイトPrint-betterより転載)