クロスメディアエキスパート」カテゴリーアーカイブ

【クロスメディアキーワード】発想法と思考法

「発想法」や「思考法」は、メディア戦略立案の際には不可欠な知識となる。両者の適切な活用により、結論に至るまでの「事実」や「前提」を組み立てる論理的な戦略の立案が実現するだけでなく、「MECE(Mutually Exclusive Collectively Exhaustive:それぞれが重複することなく、全体集合としてモレがない)」的な戦術の実行も可能になる。

構造化

問題の根本的な原因を探り、明確に理解できるよう整理する手法として、「構造化」が多く利用される。「構造化」では、表面的な現象として現れた問題の相互関係を整理することで可視化する。アイデアの断片をまとめるために、「ロジカル・シンキング」や「クリティカル・シンキング」などの「論理的思考」を活用する。この手法により問題への対応も対症療法でなく、抜本的な変化を期待できる。したがって「構造化」とは、「複雑に見えるものを幾つかの要素に分解し、それぞれの関係を明らかにし、全体と部分の関係性を明示する」方法であるといえる。

・全体から細部に至るまで各要素間の関係が明確になり、整理された状態で一覧できるようになる
・各要素間の関係に明確な理由(根拠)があるため、導かれた結果には説得力を持つこと・モレやダブりが発生しにくくなる(MECEの考え方を導入するとよい)
・各要素の組み合わせを変更することにより、全く新しいアイデアや問題の解決にも応用できる
などが構造化により享受できる共通の利点である。
さらに「問題点をまとめる」「改善するためのアイデアを創出する」ための代表的な技法として、ブレーンストーミングが挙げられる。

ブレーンストーミング(Brainstorming)

ブレーン(頭脳)とストーム(嵐)から、「頭脳の嵐」と名称がついた会議手法であり、アレックス・F・オズボーンにより考案さた。別称として「ブレスト」「BS」などとも呼ばれる。
企画や戦略の立案や複雑な問題の解決のために、合理的かつ効果的な手法を用いることで、適切な方針により方向性が導かれる。そのためには、考えられる限り全てのアイデアを事前に列挙できる状況を作ることが望まれる。個人により創出されるアイデアの量は、その人の特性により差異があるものの、複数人によるものと比べ、種類や対象などが少なくなる傾向がある。複数の個人により構成される集団の中で意見を出し合い、互いを刺激し合うことでより多くのアイデアを創出する会議手法がブレーンストーミングである。会議の進行役が議案の主旨(テーマや目標)を示した後に、参加者が自由に意見やアイデアを発表する進行となるが、ブレーンストーミングには4 つの原則がある。

1.批判の禁止
参加者の発言を活性化させるため、他者の発言を批判しない。
2.自由奔放
ユニークで斬新なアイデアを促すため、自由奔放な発言を歓迎する。思いもよらない解決への糸口が期待できる。
3.質より量
勢いが重要視される。発言は多いほど好まれる。可能な限り多くのアイデアを出す。
4.連想と結合
ほかの参加者が、一部のアイデアに便乗することを歓迎する。発言の融合や、一部の変更を行う。ブレーンストーミングで提示された意見やアイデアを「特性要因図」や「親和図法」などの技法によりまとめることで、解決すべき問題として「課題」を明確にすることができる。

特性要因図

原因と結果との関係を表した図を指す。「問題(特性)」と、その「原因(要因)」との関係を表す手法として、主にQC(Quality Control:品質管理)の分野で使用されている。魚の骨の形に似ていることから、「フィッシュボーン・チャート」や「魚骨図」とも呼ぶ。QC サークルの生みの親である石川馨博士が考案した。
「特性」とそれに影響を与えるさまざまな「要因」の関係を系統および階層的に整理した図で、右端に「特性」を示す水平の矢線(背骨)を配置し、上下から斜めに接する矢線(大骨)で「要因」を示す。「要因の要因」は順に、「中骨」「小骨」へと分岐する。「特性要因図」は「問題が発生する原因は何か?」を顕在化させることに意味を持つ。「特性」を目的のように表現してしまうと、実際の問題が明確にならないまま願望的な対策が立案される傾向があるため、注意が必要になる。

親和図法

QC における情報整理法を指す。既存の知識では体系化しにくい情報やアイデアをカードに記述し、問題点と解決案を導き出す手法である。川喜田二郎(文化人類学者)が開発したKJ法を起源とする。大きく異なる情報やアイデア、明確でない問題に対し、「キーワード」の意味合いから理解できる「親和性」により「グループ化」や「図式化」され、事象の本質を明らかにすることができる。手順としては、特定の主題に対しさまざまな考えをカードに記入し、関連性や親和性を感じ取ることができるカードを並べ、その理由を記入した「見出しカード」を作成する。親和図法は、「カード化した言語データの意味の近さ(親和性)に着目し、同類項ごとに括ることにより、構造(全体と部分の関係)を明確にする」といった特徴がある。

マインドマップ

「マインドマップ」とは、トニー・ブザンにより提唱された、思考や概念を可視化する思考法や発想法である。「なぜ」「どのように」機能するなどの情報と、それに沿った技法を基に考察される。主題となる「キーワード」や「イメージ」を中心に考え、そこから派生する「キーワード」や「イメージ」を放射状に分岐させる記載を行い、全方向となる360 度が関連する図で示される。思考を整理し、発想を豊かにし、記憶力を高めるために、想像(Imagination)と連想(Association)を用いて思考を展開するための代表的な手法である。記載する情報の多くに「フック」が付与されるため、記憶法としても利用される。

JAGAT CS部
Jagat info 2014年12月号より転載

2017/1/17「クロスメディアエキスパートの提案ロジック」(記述式試験対策講座)を開催します。

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2017/1/17「クロスメディアエキスパートの提案ロジック」(記述式試験対策講座)

【クロスメディアキーワード】コミュニケーションとビジネス

コミュニケーションの種類

コミュニケーションは対象により、「対人コミュニケーション」「集団コミュニケーション」「マスコミュニケーション」の大きく3 つに分類できる。
「対人コミュニケーション」は、特定の相手を限定し電話や手紙などを活用する個対個の日常的なコミュニケーションを指し、インターパーソナル・コミュニケーションとも呼ばれる。
「集団コミュニケーション」は、講演会や会議、社内報など限定された小集団のコミュニケーションを指す。
「マスコミュニケーション」は、新聞や雑誌、テレビ、ラジオなどのマスメディアを通じた不特定多数の対象者に対して行われるコミュニケーションを指す。一般的には、情報の流れが1 対n と一方向になる。情報の「発信者」と「受信者」の接触が間接的であり、伝達の効果や反応の測定に困難を伴う。

コミュニケーション手段

文明の発達に伴い、コミュニケーション手段は進化している。進化は4 つの変革によると考えられ、「言語の使用」や「文字の登場」「印刷技術の発明」さらに「高度情報化社会」とされている。高度情報化社会では、コンピューターや情報のデジタル化、インターネットの普及などが生活者に大きな影響を与えている。

コミュニケーションの歴史

コミュニケーションの歴史は、4 つの変革で捉えることができる。ラスコー洞窟の壁画で見られるように、文字が登場する以前には、人間は壁画を描くことでコミュニケーションを図った。この頃から情報を目に見える形で表現し、コミュニケーションを行ったと考えられる。
人間は、古代からさまざまなモノに文字を書き、コミュニケーションを行ってきた。古代メソポタミアでは楔形文字、古代エジプトではヒエログリフ、古代中国では甲骨文字が発明された。文字と紙の活用により人々のコミュニケーションは飛躍的に拡大した。
15 世紀には、ヨハネス・グーテンベルグにより活版に、印刷技術を活用した絵画やイラストレーションの流通により、視覚伝達デザインの領域が拡大した。18 世紀の産業革命により情報の需要が激増し、新聞や雑誌が刊行され、不特定多数の生活者に対する情報伝達手段である「マスメディア」が登場した。
20 世紀後半には情報技術の発展によりさまざまなメディアが登場し、情報通信網であるネットワークが整備され、コミュニケーションを取り巻く環境は高度化した。IT(Information Technology)により、「数値」から「文字」「画像」「音声」「映像」など、さまざまな情報がデジタル化され活用された。さらにコンピューターネットワークの発展により、メディアによる双方向コミュニケーションが実現した。
コミュニケーションはメディアにより、「1 対1」から「1 対n」「n 対n」へと進化している。

ビジネスコミュニケーションの要素

ステークホルダーが多く関わるビジネスシーンでは、「指示」や「報告」「連絡」「相談」のほか、「ファシリテーション」「インタビュー」「交渉」「プレゼンテーション」など、さまざまなコミュニケーションが用いられる。
ビジネスシーンでのコミュニケーションには、必要となる要素が多数存在する。「共通認識」や「共通言語」の欠落は、コミュニケーションを阻害する大きな要因となる。不完全なコミュニケーションは大きなトラブルに発展する危険性を秘めており、ビジネスシーンにおいては、可能な限り排除する必要がある。円滑なコミュニケーションを実現するためには、「相互理解」と「信頼関係」が重要視される。「相互理解」と「信頼関係」を醸成するには、ビジネスシーンにおけるコミュニケーションの「要素」へ対する理解が必要になる。代表的なコミュニケーションの「要素」は、「明快性」「一貫性」「関連性」「社会性」「正解性」「簡潔性」などが挙げられる。

要素①:明快性
対象となる受信者に情報を伝達するコミュニケーションでは、情報を受信しているという具体的な意識が持てる「明快性」が必要となる。受信に対する「明快性」を持たせることで、受信者の「情報を受け取った」という意識を高め、その後の行動に影響与える効果が期待できる。また、情報の内容を具体的に表現する「明快性」も必要である。情報の要点を「明快性」のある表現とすることで、ほかの情報への埋没防止が期待できる。また、「明快性」が欠けると、情報に気付かれず無視されてしまう恐れがある。

要素②:一貫性
コミュニケーションの成立を実現するためには、「明快性」と共に「一貫性」も求められる。「一貫性」のある情報発信を繰り返すことで、内容が正確に伝わる可能性が高まる。ビジネスシーンでは、「キャッチフレーズ」や「イメージカラー」を活用することで、複数のメディアを活用した場合にも「一貫性」のある情報発信により、受信者の意識に大きな影響を与える。

要素③:関連性
情報に対する理解を受信者に促すためには、情報発信の背景や結果について「関連性」のある情報発信も必要となる。受信者の行動を推測し部分的な情報を発信するのではなく、必要な情報をすべて提示することが望まれる。指示や依頼の場合、「関連性」のある情報発信を軽視することで、受信者の誤った解釈が原因となり、目的と異なる結果をもたらす危険性が高まる。

要素④:社会性
高度情報化社会の生活者は、膨大な量の情報と複数のメディアによるコミュニケーションが強いられる。「電子メール」や「チャット」などのデジタルメディアによるビジネスシーンでのコミュニケーションは、扱われる文章の厳格な作法が緩和される傾向がある。しかしながら、「社会性」を意識した最低限の礼儀を守らないことで、受信者の気分を損なうことは少なくない。「誤字」や「脱字」「言葉遣い」の注意だけでなく、「礼儀」を中心とした「社会性」に基づく「受信者への配慮」を重要視することが望まれる。

要素⑤:正解性
「確認」は、コミュニケーションの「正解性」を高める手法として、非常に有効な手段である。誤った認識を避ける目的で「確認」を行うことにより、結果として効率的かつ効果的な意思疎通を図ることが可能になる。特に異なる業界や組織、異文化の人々とコミュニケーションを行う際には、意識的に正確に繰り返す「確認」や、理解しやすい表現による「確認」などを行うことで「正解性」が高まる。

要素⑥:簡潔性
情報の不足は、コミュニケーションの効果を妨げる原因になる。しかし、過度な情報もコミュニケーションの効果を妨げる原因になる。「聴取」や「閲読」に関わらず、情報の受信者が内容を理解するために集中力を持続する時間は限られている。したがって、受信者の集中力が持続できる範囲で、伝えるべき情報を発信することが求められる。要点を早い段階で提示し、受信者の関心が薄れる前に情報発信を終える技術が必要である。

JAGAT CS部
Jagat info 2014年11月号より転載

【クロスメディアキーワード】コミュニケーションの基本

さまざまなメディアをコーディネートする上で、生活者の「コミュニケーション」に関する基本的な知識は、非常に重要になる。

コミュニケーションとは

メディアのコーディネートを前提とした本稿では、情報の伝達とその効用を重視し、「コミュニケーションとは、社会生活を営む生活者間で行われる、送り手と受け手による知覚や感情、思考などの情報伝達と共通理解や共同関係」であると定義する。
「送り手」は収集した情報を構造化し、「受け手」が理解できるように手を加えて、「コミュニケーション」の価値を高められる。情報を効率的かつ効果的に表現することで、「コミュニケーション」の目的を達成することが可能になる。目的や意図のある情報として明確化するには、情報の加工が必要になる。情報を人々の経験に基づく知識をもとに、生活者が理解できるように加工することで、目的や意図の伝達が可能となり、共有すべき知識の源となる。

コミュニケーションの構造

人と人による「コミュニケーション」を図る場合、事前の共有が前提となることがある。そのとき前提の中でも、表現方法や物事の関係性や背景などの状況を含めた「コンテキスト(文脈)」が、重要になる。同様の情報でも、「受け手」が異なることで、解釈も異なる場合がある。有効な「コミュニケーション」は、事前に共有しなければならない「知識」と「理解」が必要になる。受け手による誤解を避け、正確な理解を促す「コミュニケーション」手法が重要である。

コミュニケーションの要素

「コミュニケーション」において「言葉」は、情報を表現するための中心的な要素である。また「言葉」には、「話し言葉」と「書き言葉」があり、「話し言葉」では表現内容のほかに、「声の調子」「声のテンポ」「声量」「リズム」「イントネーション」「間のとり方」などが重要な要素となる。表現内容とほかの要素は、「受け手」となる人に多様な反応を誘引する。
「書き言葉」は、文字の発明により実現した。「書き言葉」は「話し言葉」が使用できない場面で、基本的に使用される。地理的や時間的に不都合がある「受け手」に対し、情報を発信する際に重要な「コミュニケーション」の要素となる。また、「書き言葉」を重要な要素として位置付け、「論文」や「小説」などとして自己表現に使用する「送り手」となる人々も存在する。
しかし、「言葉」だけが唯一の表現するための要素ではない。「ジェスチャー」の一つである「表情」「視線」についても、「コミュニケーション」の重要な要素であると考えられる。このことから、「小説」では「表情」や「視線」も、「言葉」で表現することがある。
さらに「身体の接触」も、アメリカの社会学者であるアーヴィング・ゴッフマンにより、「コミュニケーション」の要素であると提唱されている。「身体の接触」は、「話し言葉」の「強調」や「捕捉」などとして、作用することが多い。
これらの例から理解できるように「コミュニケーション」は、「バーバル(言語的)コミュニケーション」と「ノンバーバル(非言語的)コミュニケーション」として、大きく2 つに分類できる。

バーバルコミュニケーション

文字や画像、音声、映像などを使用した「コミュニケーション」は、「バーバルコミュニケーション」に分類される。「コミュニケーション」の中では、意識的に行うことを前提に、断続的であることも多く、論理的要素も求められ、意思を明確に伝達する際に用いられる。理性で訴えることが多く、「コミュニケーション」の表現において言語への依存度が高い文化圏で重要視される傾向がある。
バーバルコミュニケーションは、ペーパーメディアやデジタルメディアを活用したコミュニケーションにおいて、コンテンツを構成する中心的な要素となる。また、ビジネス上では手紙や電子メール、報告書、提案書など、さまざま「コミュニケーション」の場で、必要不可欠なものとなる。

ノンバーバルコミュニケーション

ノンバーバルコミュニケーションは、「表情」や「視線」「身振り」「手振り」などの「ジェスチャー」が分類される。「コミュニケーション」全体の中では使用比率が高く、意識的かつ無意識的に行われる。継続的な「コミュニケーション」に適用され、強い感覚的要素を伴う。感情的表現により感性に訴求し、「コミュニケーション」の表現において、言語への依存度が低い日本を含む文化圏で重要視される傾向がある。「ジェスチャー」は、「あくび」や「腕組み」など、無意識に行われるものがある。無意識の「ジェスチャー」は、感情の処理や生理的欲求の充足のために多く行われる。

メラビアンの法則

アメリカのアルバート・メラビアンによる「メラビアンの法則」は、限られた環境の中で話し手の印象は、「表情」「声の調子」「言語」の順に重要視され、非言語的な要素が比較的大きいと提唱されている。

ザイアンス効果(単純接触効果)

ロバート・ザイアンスは、何度も見聞きすることで、次第に良い感情が起こる効果があると提唱する。これは、会う機会の多い人や何度も聞く音楽は、好きになる傾向があることを意味する。経験による潜在記憶は、印象評価において誤って帰属されるという、知覚的流暢性誤帰属説で説明されている。潜在学習や概念形成など、働きも関わるとされており、この傾向を「ザイアンス効果」や「単純接触効果」と呼ぶ。
「セブンヒッツ理論」は、「ザイアンス効果」を理論的に発展させ、マスメディアやミドルメディア(インターネットメディア)により、生活者が商品に関連した情報に7 回触れることで、実店舗やEC(Electronic Commerce)サイトでその商品を購入する確率が高くなると提唱している。

JAGAT CS部
Jagat info 2014年10月号より転載

【クロスメディアキーワード】組織とメディアコミュニケーション

企業にとって顧客と同様に重要な利害関係者として、従業員が挙げられる。従業員同士の円滑なコミュニケーションにより、企業は継続的な発展を期待できる。

組織とコミュニケーション

企業を代表とするさまざまな組織は、複数の人により構成されている。メディアコミュニケーションによる情報の受発信や合意形成は、組織の根幹を支える。実際の企業による経済活動は、従業員によって行われている。企業の活動では、経営者が方針を示し、管理職が方針を理解しそれぞれの活動へ展開し、管理職が率いる従業員により実現していく。組織内のメディアコミュニケーションは企業の活動にとって、非常に重要であり、必要不可欠なものとなる。IT(InformationTechnology)の発展により、組織内のコミュニケーションのあり方は多様になるだけでなく、変化し続けている。

メディアコミュニケーションの種類

電子メールやグループウェアにより、組織内のメディアコミュニケーションは、大きく様変わりしている。全組織で共有すべき情報は、本部機能を持つ部署から、全従業員に向けられて発信されることが多い。
デジタルメディアが普及する以前は、既存のメディアとして、社内報などのペーパーメディアが多く利用されていた。デジタルメディアが普及した後は、電子メールのほか、イントラネット上のBBS(BulletinBoard System:電子掲示板)やSNS(SocialNetworking Service)、ブログ(Blobg、Weblog)などを導入している組織も多い。
また、組織内における個人と個人によるメディアコミュニケーションでは、電子メールや電話が多く用いられ、緊急性が比較的高い場合や、言葉のニュアンスまで伝えたい場合に利用されている。緊急性が低い場合や、文章によって記録を残したい場合には、電子メールが用いられる。しかし、電子メールやBBSなどのデジタルメディアによるコミュニケーションは便利な側面、使用法を誤ると、思わぬトラブルの原因となる。

新たなメディアの問題点

既存のメディアが整理されないまま新たなメディアが導入されている状況では、組織内のメディアは多様化し、既存のメディアとの間で機能的な重複や非効率を生じる可能性がある。利用されるメディアが多様化することで、メディアの選択による混乱や、メディア選択の調整、利用メディアの違いによるコミュニケーションの制限によって効率が落ち、コミュニケーション環境の有効性が低下する場合がある。
対策として、メディアの利用ルールを策定することで、非効率な状況を改善できる場合もあるが、根本的な問題解決にはつながらない。導入されるメディアが多様化しても、利用されるメディアは同じ程度には多様化せず、飽和する傾向もある。職務の特性により、メディアの多様性に対する接点も異なる。

新しいメディア導入の理由

既存のメディアを利用しているにもかかわらず、新たなメディアが導入されるのは、組織を管理する上でコミュニケーションが重要視されるからである。コミュニケーションは組織が機能するために不可欠な要素であるばかりでなく、市場環境への対応や、新製品開発での革新の形成にも影響している。このような中、新たなメディアが考案され、その効果が魅力的に訴求されることで、たとえ既存のメディアと機能が重複していても、新たなメディアの導入は正当化される可能性がある。また、他社の採用や部署からの要望などにより、新たなメディアの導入が後押しされる場合もある。
さらに、目標とすべき優良な組織が、新たなメディアを導入した事例があれば、自らも導入しようと検討する場合もある。あるいは現状の問題を解決するために、新たなメディアの導入が必要であることや、既存のメディアではその問題が解決できないことに対する部署からの主張があれば、その導入を検討せざるを得ない。その場合、要望を出した部署のみが、新たなメディアを導入すればよいといった議論がある。しかしながら、一般的にメディアには、「ネットワーク効果」が働く。

ネットワーク効果

「ネットワーク効果」とは、相互に接続される製品やサービスに見られる性質の一つであり、「同一の製品やサービスを利用する人々が増加するほど価値が高まる」といった効果を指す。同様の概念に、「通信網の価値は利用者数の二乗に比例する。また、通信網の価格は利用者数に比例する」という「メトカーフの法則」がある。また、エベレット・ロジャース(Everett Rogers)が提唱した「クリティカルマス」は、ある商品やサービスの普及率が一気に跳ね上がるための分岐点となっている普及率を表している。この考え方を応用すると、双方向のコミュニケーションを実現するメディアも、利用者数がある程度増加しないと十分な効果が期待できないために利用者も増えない。したがって、一部の部署だけが新たなメディアを導入し、限られた人だけに利用させることは、必ずしも得策とは限らない。

新たなメディアの導入へ

SNS は利用者の人間関係を可視化することで、新たな人的ネットワークの形成を支援するメディアの一つである。しかし、わずかな利用者でSNSを利用しても、真の価値を享受できる可能性はあまりないので組織全体に導入されることが望まれる。
さらにIT の低廉化は、新たなメディアの導入へのハードルを下げる効果が期待できる。ハードウェアは、性能の向上と価格の低下が飛躍的に見られる。ソフトウェアも、オープンソースで提供されているものも多く、それらの組み合わせにより、低コストで実用に耐えられる情報システムの構築が可能になった。メディアやIT に対する正しい見識を持つことで、「大きな改善」の可能性がある。

JAGAT CS部
Jagat info 2014年9月号より転載

【クロスメディアキーワード】顧客とのメディアコミュニケーション

企業にとってステークホルダー(利害関係者)は複数存在するが、多くの場合、顧客はその中でも重要視される。

コンタクトポイント

顧客が製品やサービスを購入することで、企業は利益を確保できる。顧客とのコミュニケーションは、企業の継続性を担保するために、不可欠なものとなる。情報を顧客へ向けて発信する際、コミュニケーションが発生する点(場)を「コンタクトポイント(顧客接点)」と呼ぶ。
また、インターネットと対応したモバイル端末の普及により、「コンタクトポイント」は大きな影響を受けた。現在は、顧客とのコミュニケーションに対し、インターネットメディアである「電子メール」や「さまざまなWebサイト」を「コンタクトポイント」として企業は活用しているが、「テレビ」や「ラジオ」、「新聞」「雑誌」「電話」「DM(Direct Mail)」などの旧来からのメディアも当然のように併用されている。
企業が顧客との有効な関係を構築するためには、対象となるそれぞれの顧客に向け、「コンタクトポイント」を見極め、「求められている情報」を最適なタイミングで提供することが求められる。また、「顧客が企業や商品に対し抱いていること」を読み取り、素早く回答していくことも必要となっている。

情報とメディア

メディアによるコミュニケーションは、「情報(コンテンツ)」と「メディアの選択」が重要であり、双方の適切な組み合わせにより、「顧客にとって必要な情報を最適なタイミングで提供する」ことを実現する。また、顧客が企業となる「B to B(Business to Business)型」の事業を展開する企業にとっては、「顧客となる企業にとって必要な情報を最適なタイミングで提供する」こととなる。
「顧客が求めていない情報を望んでいないタイミングとメディアで提供する」といった、一方的なメディアによるコミュニケーションは、現在でも複数存在している。このようなメディアによるコミュニケーションでは、顧客との有効な関係の構築自体が難しいものとなる。

コミュニケーションプランニング

企業が顧客とのコミュニケーションを設計するには、まず、「顧客を知る」ことが必要となる。顧客の嗜好や行動について知ることが求められる。次に「顧客を知る」に基づき、「顧客が求めている情報を予測する」行動が必要となる。求めている情報が明確であれば、企業が顧客とコミュニケーションを行う大きな機会となる。さらに求めている情報を分析し、「顧客に提供すべき情報を選別する」ことから、企業にとっても有効なコミュニケーションを実現する。最後に「顧客に情報を提供するメディアを選定する」ことで、「顧客にとって必要な情報を最適なタイミングで提供する」ことが可能になる。

顧客の行動

顧客との適切な「コンタクトポイント」を明確にするには、メディアによるコミュニケーションの対象となる顧客が持つ「嗜好」を把握し「行動」を予測する。「顧客視点」によるマーケティング戦略を立案し、「顧客の立場」を最重要視する。
「ソーシャルメディアが一般的に注目されているから」「新商品を開発したから」などの企業側の理由だけで、顧客とのコミュニケーションを図ろうとしても、むしろ、費用だけを要してしまい、成功の可能性を低めていく結果をもたらしてしまうかもしれない。まず「日々、顧客が経験する生活における行動」を理解することが大切になる。
また、顧客の行動を理解するために、顧客の行動を「プロモーションの段階」では「問題認識や情報検索」、「セールスの段階」では「代替品の評価や購買決定」、「アフターセールスの段階」では「購買後の行動」といった分類をして分析することが重要であると、アメリカ合衆国の経営学者である「フィリップ・コトラー」は提唱している。

提供すべき情報

「顧客の行動」を把握し、コミュニケーションの必要性を得ることができたら、「顧客が求める情報」を分析し、「提供すべき情報」を選定する。
EC(Electronic Commerce)サイトから商品を購入する際、「クレジットカードを利用し注文することは可能であるか」「クレジットカードの情報を入力しても安全であるか」「何か問題が発生したときに保証はあるか」などは、顧客にとって大変重要なこととなる。さらに注文後に「正確に注文が行えているか」といった確認も必要であり、「商品の到着日時」などの情報も求められる。
ネット(インターネット)通販を展開する大手の事業者は、前述した情報提供のほか、顧客の行動を詳細に把握し、必要な情報を適切なタイミングで提供することで、顧客から信頼を獲得している。

メディアの選択

「コンタクトポイント」を設定し、「提供すべき情報」の選定後は、コミュニケーションに使用するメディアを選択する。
メディアは多種多様なものが存在するが、「顧客の行動」と「提供すべき情報」によりメディアの選択は大きく影響を受ける。
インターネットを利用できる「パソコン」や「スマートフォン」「タブレット」などとのデバイス(端末)で使用が可能である「デジタルメディア」は、多くの「コンタクトポイント」での活用を見込むことができる。しかしながら「デジタルメディア」は、必ずしも万能なわけではない。「プロモーションの段階」で、大量な電子メールの送付や、ソーシャルメディアへの執拗な投稿は、顧客に不快感を与える可能性もある。
メディアの選択肢が旧来のマスメディアやSP(Sales Promotion)メディアに限られていた時代と比較すると、インターネットの普及は、企業と顧客のコミュニケーションのあり方に、大きな影響を与えている。大切なことは、手段を優先せずに「顧客の立場」を考慮したメディアによるコミュニケーションにより、「情報」と「メディアの選択」を慎重に組み合わせることにある。

JAGAT CS部
Jagat info 2014年8月号より転載

【クロスメディアキーワード】メディアの特性

メディアはインターネットが普及する以前、広告を目的としたものと、SP(Sales Promotion:販売促進)を目的としたものとして位置付け、メディアプランニングを実施するのが一般的であった。

ATL とBTL

広告メディアはマスコミ4 媒体(新聞、雑誌、ラジオ放送、テレビ放送)が主な役割を担い、ATL(AboveThe Line)と呼ばれ、「認知度」を高めることを目的で利用されている。
一方、プロモーションメディアについてはBTL(Below The Line)と呼ばれ、OOH(Out Of Home:交通広告、屋外広告など)、折込広告、DM(Direct Mail)、フリーペーパー、フリーマガジン、POP 広告(Point Of Purchase advertising)などといったさまざまなメディアが含まれており、生活者の「興味」を高めたり、「購入」を促進する目的で利用されている。
ここで「Line」が示す意味は「境界線」を指し、メディア特性に応じてそれぞれを位置付ける考え方とされている。したがって、ATL は主に「ブランディング」を目的としたメディアであり、BTL は主に「プロモーション(販売促進)」を目的としたメディアと位置付けることができる。

インターネットメディア

インターネットの普及と技術の進化に伴い、インターネットメディアはATL とBTL をシームレスに担う第3のメディアとして、地位を確立した。
インターネットメディア(ミドルメディア)は、パソコンのほか、ケータイ、スマートフォン、タブレットなどといったさまざまな端末を通じ、コーポレートサイト、EC(Electronic Commerce)サイト、ネット広告、ブログ、SNS(Social Networking Service)などが展開されている。インターネットメディアでは、電子決済システムとの連携により、告知から販売に至る処理をワンストップで提供することが可能になった。昨今では物流にも影響を与え、生活者の購買行動に変化も及ぼしている。さらに、スマホやタブレットといったモバイル端末が普及することで、インターネットメディアはさまざまな市場に影響を与えることが予想される。また、インターネットメディアには、生活者の購買行動に関する詳細なデータを蓄積できる特性がある。この特性により、行動変数による精度の高いターゲティングや、マーケットバスケット分析による傾向値を踏まえた商品のレコメンド(推薦)などをはじめとするマーケティングを実現している。
さらに、インタラクティブ性と購買行動データを生かし、電子メールやBBS(Bulletin Board System:電子掲示板)をはじめ、「LINE」や「Skype」などのソーシャルメディアによる対話形式のコミュニケーションを行うことも可能になった。「Facebook」や「twitter」などによる口コミ手段の発達により、生活者間の情報交換が盛んに行われることに起因する「バイラルマーケティング」や「バズマーケティング」が手法化された。企業にとって口コミは、広告やプロモーション、人的販売、パブリシティに並ぶ生活者とのコミュニケーション手段として活用されている。

メディア特性

従来の広告メディアやプロモーションメディアに加え、インターネットメディアが普及した昨今では、生活者にとって適切な時間や場所を意識したメディアを選定し、情報の受発信を行うことにより、設定した目的や目標を果たす効果を期待できる。そのためには、さまざまなメディアの特性を理解する必要がある。

【ATL】
<マスコミ4 媒体>
マスコミ4 媒体は、ほかのメディアと比べ「情報伝達の範囲が広い」「注目度が高い」などのメリットがある。しかしながら「多くの費用を要する」といったデメリットもある。
対象については、ある程度のセグメントを意識しすることができるが、不特定多数に対する情報発信となる。企業と生活者のコミュニケーションでは、マーケティングやPR(Public Relations)、IR(Investor Relations)の手段として利用される。また、従来の「ながら聴取および視聴」は、ラジオ放送が主だったものと考えられていたが、モバイル端末の普及により「テレビ放送を視聴しながらスマホでインターネット検索」や「雑誌を閲読しながらタブレットでECサイトから商品を購入」などの行動をとる生活者も増えてきた。

【BTL】
BTL にはさまざまな種類のメディアあり、プロモーションに対し直接的に関与するため、高い到達率が期待できる。例としてOOH とDM を取り上げる。

<OOH>
OOH は、ほかのメディアと比べ広い範囲に設置および掲示できることから「表現に柔軟性を持たせることができる」などのメリットがある。しかし、「多くの費用を要する」「一定期間は変更することができない」などのデメリットもある。対象は設置場所に訪れる生活者となるが、企業と生活者のコミュニケーションではマーケティングやPR の手段として利用される。

<DM>
顧客リストにより対象者に直接送付する紙広告であり、工夫により高いレスポンスが期待できるメディアである。他社との違い(オファー[特典]提供)により、生活者の購買意欲を高めることも重要視される。セグメンテーションを的確に行えば、費用対効果も期待でき、キャンペーンなどでは有効に利用されている。的確に大量な情報を提供することも可能であり、視覚に訴求することができるなどのメリットがある。しかし、「1 件当たりの費用が高い」「送付先の収集が必要となる」「発送までに時間がかかる」「封書の場合、開封率が低い」などのデメリットもある。

企業のメディア戦略

プロモーションメディアは、本稿で取り上げたOOHやDM のほか、チラシやPOP 広告、フリーペーパー、フリーマガジンなどさまざまなメディアが存在する。また、新たなマスメディアが登場する可能性もある。さらにインターネットメディアは、際限なく新たなサービスが登場するほか、モバイル端末の進化も予想され、眼鏡型や腕時計型などのウェアラブルデバイスが普及することが予想される。そのような中、企業が継続的な発展を遂げるには、さまざまなメディアを駆使し、ステークホルダーとの適切なコミュニケーションを図る必要がある。経営戦略に則ったメディア戦略を実現するために、本稿で取り上げたメディアだけでなく、さまざまなメディアの特性を理解した上で、活用を計画的に行うことが求められる。

JAGAT CS部
Jagat info 2014年7月号より転載

【クロスメディアキーワード】ステークホルダー(利害関係者)

企業は、さまざまなステークホルダーと関わり合いながら経済活動を行う。企業のメディアによるコミュニケーションでは、情報の受信者がステークホルダーとなる。企業が活動を続けていく上で不可欠となるステークホルダーは、
①生活者(顧客):商品を購入する人や組織、②出資者(株主、金融機関など):資本を提供する人や組織、③従業員:企業の経済活動に従事する人、④取引先:商品を提供するために必要な材料を購入する先となる人や組織、⑤社会:企業が活動を行う拠点がある国やその地域、の5 つを例として挙げることができる。
製品やサービスなどの商品を提供する企業にとって、「顧客」の存在がなければ経済活動が成立しない。また、「出資者」がいなければ、資金調達の選択肢が減り、企業の設立や運営に支障をきたす。「従業員」は、さまざまな事業活動を支えている。すべての生産活動を単独で実施する場合は別だが、「取引先」がいなければ、材料の仕入れができない。例えば通信販売事業を行う企業なら、商品の仕入れが滞り、経済活動を行うことができない。企業は「社会」を構成する要素であり、納税や社会貢献により、存在価値が認められる。
企業はステークホルダーとのコミュニケーションによる相互理解に支えられ、経済活動を行っている。

企業のコミュニケーション

企業が行うコミュニケーションは、情報の受信者や発信する情報により区分できる。企業としての理念をステークホルダーに明確に伝達し、企業の姿勢に対する理解を促すために、CI(Corporate Identity)に関するコミュニケーションを実施する。CI は、MI(Mind Identity:理念の統一)、BI(Behavior Identity:行動の統一)、VI(Visual Identity:視覚の統一)から形成され、シンボルマークやカラー、ロゴタイプなどの視覚的なデザインの統一のみを意味するものではない。

生活者(顧客)

「要求を捉え、需要のある商品を開発する」「ダイレクトメールを送付する」「セールスを行う」「商品の購入意思を明示してもらう」「商品を配送する」「商品購入後の意見を聞く」など、多種にわたるコミュニケーションが、企業と生活者の間には発生する。
「収益」を得ることが一つの目的となるので、「顧客」の獲得による売り上げの拡大が重要な課題となる。企業はコミュニケーションにより、単なる「生活者」から「顧客」へと育成を行い、さらに「固定客(リピーター)」になるよう、「マーケティング」などさまざまな施策を講じる。「マーケティング」では、「生活者」が商品を購入したいと感じられる仕組みづくりが目的の一つとなり、昨今では企業と「生活者」によるさまざまな体験を通じた中長期的な関係構築を実現する共創的な取り組みが注目されている。

従業員

「従業員」には、企業の活動目的や戦略の理解を促すことや、業務の指示や報告、会議などによるコミュニケーションが発生する。
コミュニケーションを通じた組織運営は、企業の成長を支える「経営(マネジメント)」により実現する。企業は従業員と目的や価値観などの共有を図るため、イントラネットや社内報により「形式知」や「暗黙知」といったKM(Knowledge Management)を含めた情報発信を行う。また、特定の目的を達成するための組織である「プロジェクト」を運営する「プロジェクトマネジメント」も含まれる。

出資者(株主)

「出資者」とのコミュニケーションは、IR(Investor Relations)と呼ばれ、企業にとって重要な活動の一つとなる。企業の財務状況や事業計画などのディスクロージャー(情報開示)により、株主の企業に対する正しい評価を醸成する。また、適切なIR により、「説明責任」を果たし、有利な資金調達を目指す。

取引先

取引先とのコミュニケーションは、企業が属する業界によりさまざまなものが存在する。SCM(Supply Chain Management)は、取引先を視野に入れたコミュニケーションの代表的なものとなる。

社会

「社会」とのコミュニケーションとして代表的なものは、PR(Public Relations)や社会貢献活動などが挙げられる。企業は社会から理解や信頼を得るため、PRによるコミュニケーションを図る。プレスリリースの発信や、記者会見などの実施がこれに当たる。企業は存立基盤である地域社会の健全な発展を支える、環境や教育、文化などの多方面にわたる貢献活動として、「コーポレートシチズンシップ」といったコミュニケーションを実施する。文化、芸術活動を支援する「メセナ」、社会的な公益活動全般を指す「フィランソロピー」などがある。

コミュニケーションの目的とメディア

企業におけるコミュニケーションの構成要素は、受信者で大別され、メディアも複数存在する。テレビや雑誌などのマスメディアによるコミュニケーションや、屋外広告やパンフレットなどのSP(Sales Promotion)メディアによるコミュニケーション、電話や手紙といったパーソナルメディアによるコミュニケーションのほか、さまざまなメディアの特性を網羅するインターネットメディアなど、企業におけるコミュニケーションでは、目的や状況に合わせ特性を踏まえたメディアによるコミュニケーションが求められる。
紙や立体物、デジタルなど、さまざまな形状やサイズ、素材のメディアが存在し、活字や画像、音声、映像などと、表現方法も複数存在する。情報の受信者となるステークホルダーとの効果的で効率的なコミュニケーションの実現には、専門領域に捉われないメディアコーディネート能力が求められる。
コーディネートにはメディアプランニングの一環として、「認知度を高めるため幅広く情報を伝達する」「興味を高めるため詳細な情報を伝達する」「求める行動を促すため特典に関する情報を伝達する」など、情報内容に合わせ、適切なメディア選択が不可欠になる。

JAGAT CS部
Jagat info 2014年6月号より転載

【クロスメディアキーワード】企業とメディア

高度情報化社会が到来し、経営戦略の要が「改善」から「革新」へと変化し始め、効果的かつ効率的な情報の受発信が重要視される。経営戦略におけるメディアは、顧客だけではなく投資家も含めたさまざまなステークホルダー(利害関係者)とのコミュニケーションを支える企業価値の源泉となっている。企業の理念や方向性、商品開発やステークホルダーに対する意識などを伝達することで、事実の正確な認識と理解を社会に対し促す活動が必要とされている。

企業のコミュニケーション

企業の経済活動による目的達成には、明瞭かつ迅速なコミュニケーションが重要となる。
経営戦略は、事業戦略や商品戦略、財務戦略、人材戦略などを足したものだけではなく、経営戦略の下にそれぞれが有機的に統合されていることが望まれる。
広報や宣伝、渉外などの統合的な管理運営には、近年の経済情勢による資源的制約の厳しさの中で、IT(Information Technology)の発展によるインタラクティブメディアの普及、さらに発言力を持つステークホルダーの拡大などを伴う。しかし、明確な戦略に従う組織の横断的な連携によるコミュニケーションをステークホルダーと図る企業は着実に増えている。

企業とメディア

生活者向けのペーパーメディアであれば、チラシやカタログ、新聞広告、ダイレクトメールなどへの展開が、販売戦略を支える。例えばチラシを発行する場合、配布エリアによって生活者の属性は異なり、発行する時期によって商品に対する需要が変化するため、さまざまな対応が迫られる。
「商品が欲しい」と潜在的に思っている生活者が、紙面を手に取り、商品を購入するためには、過去のメディア展開実績や市場の動向など、さまざまな角度からの分析が必要となる。その分析結果から導き出した仮説を基に、配布する時期や掲載する商品の構成、エリアにより配布するチラシの種別を決定する。ここで立案される戦略は、企業の収益に影響を与えるため、何度も検証を繰り返し、最も効率的かつ効果的な展開を目指して取り組むことが望まれる。また、メディアを使用するキャンペーンでは、各メディアを横串でつないで取り組む施策が取られることもある。
さまざまなメディアが相乗効果を発揮するためには、キャンペーンの骨格が重要であり、組織の横断的な連携が必要なこともある。

生活者の購買行動

生活者を取り巻く環境は、IT の発展とメディアの多様化により、情報過多の傾向にあるといえる。生活者が受動的だけでなく能動的に情報を入手する中、商品の差別化が困難な状況を企業は迎えている。1920 年代にローランド・ホールが提唱した「AIDMA」に見られる生活者の購買決定に至る心理プロセスでは、「注意(Attention)」「関心(Interest)」「欲求(Desire)」「記憶(Memory)」「行動(Action)」といった効果階層による分類をたどる生活者の購買行動が一般的だった。
インターネットの普及により、昨今の心理プロセスの変化を捉え、「検索(Search)」「共有(Share)」を考慮した電通の登録商標である「AISAS」モデルや、ソーシャルメディアを念頭に入れ「比較(Comparison)」「検討(Examination)」を押さえた「AISCEAS」モデル、「共感する(Sympathize)」「確認する(Identify)」「参加する(Participate)」「共有・拡散する(Share &Spread)」により構成される「SIPS」モデルなどが登場した。生活者の心理プロセスを捉えた企業による情報発信には、ストーリー性が不可欠となっている。その中で、販売戦略を包含するマーケティング戦略の一つとして、クロスメディアが一般化している。

クロスメディア

クロスメディアとは、文字や画像、音響、映像などさまざまな表現を用いた、複数メディアによる複合的な情報発信手法を指す。「多様なメディアを駆使し、効果的な情報伝達を行う」といった意味を含む。また、クロスメディアと混同される傾向があるメディアミックスは、ターゲットとなる生活者へ情報を到達させるためのメディア配分を重視する手法を指す。
メディアミックスがメディアの足し算による情報発信であることに対し、クロスメディアは掛け算によるメディアの相乗効果を利用する手法である。クロスメディアにより、ターゲットとなる生活者だけではなく、投資家も含めたさまざまなステークホルダーを動かすためのシナリオ(導線)づくりが実現できる。

メディアコーディネート能力

企業のメディアによるコミュニケーションをコーディネートできる人材は、さまざまなビジネスシーンで求められている。求められる人材には、複数のメディアに関する知識や技術を継続的に学習する姿勢と経験が必要になる。
コミュニケーションを目的とした情報の受発信では、対象や内容、時期、場所などの明示が不可欠である。また、メディアが混在する今日では、メディア特性の理解や取り扱いに関する経験の重要性が高くなる。
メディアに関するサービスが散在する中、関連する知識や技術を習得するには、大きな困難を伴う。しかし知識や技術を習得する方法は無数に存在し、習得から距離を置くことは、高度情報化社会から自身を乖離させてしまう恐れがある。
企業は、多くのステークホルダーとの関係性を視野に入れた、メディアによるコミュニケーションを重要視している。度重なるコミュニケーションにより有効な関係が構築できれば、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)の向上も期待できる。コミュニケーション手段としてさまざまなメディアを活用するのであれば、効果的なコンテンツ(クリエイティブ戦略)やメディア戦略が必要となり、幅広い知識や技術の習得が不可欠となる。
クロスメディアの採用は、さまざまな専門家との連携が欠かせない。そのためメディアのコーディネーターとして、複数のメディアによる効果的な情報発信をコントロールする上では、進行管理能力も重要である。したがって、プロジェクトマネジメントなどコミュニケーションに関する知識や技術の習得も必要である。
IT によるメディアの発展と変化は、際限なく続くことが予想される。メディアのコーディネーターを目指すには、これまでの経験に加え、新しい知識や技術を体系化し、見直しを改めて行う積み重ねが大きな力となる。さらに、少なくとも2〜3 年以上先を見据えたメディアに対する見識も求められる。また、クリエイティブに主眼を置くだけではなく、課題を明確にした上で目的を定め、それを達成することが大切である。企業のメディア活用には、リスクの検証も必要であり、社会の動向をマクロ的視点で捉え、ミクロ的視点で需要や課題を捉える能力が重要となる。

JAGAT CS部
Jagat info 2014年5月号より転載

【クロスメディアキーワード】HTML5とCSS3

今後のWeb コンテンツの方向性を示す規格であるHTML5 とCSS3 について、その技術の特徴と歴史的背景を確認する。

HTML5 登場の背景

「HTML(HyperText Markup Language)」は、標準化団体「W3C(World Wide Web Consortium)」により策定された、Web ページを記述するためのマークアップ言語である。「HTML5」は、1999 年に勧告となった「HTML4.01」の大幅な改定版であり、「XML(Extensible Markup Language)」の文法で記述する場合は、「XHTML5(Extensible HyperText Markup Language 5)」と呼ばれることもある。
「HTML5」では、文書のマークアップの改善とWebアプリケーションへの応用に向けた対応が図られている。
第一には、マルチメディアに関する仕様が追加されている。第二には、セマンティックWeb の実現を図るため、Web ページのスタイル(視覚的な表現)に関する幾つかのタグが削除され、「CSS(Cascading Style Sheet)」による集中的なスタイル記述といった仕様になっている。

対応Web ブラウザー

「HTML5」は2014 年に勧告となる見通しではあるが、2008 年以降に発表された主要なWeb ブラウザー(Internet Explorer、Firefox、Safari、Chrome、Opera など)は、「HTML5」に段階的に対応している。
「HTML5」対応のWeb ブラウザーは、後方互換性を保つために、既にWeb で公開されている「旧バージョン対応」や「誤った文法」で記述されたWeb ページに対し、一貫したふるまいで動作するように規定している。
これは、主要なWeb ブラウザーやWeb オーサリングツールによる「HTML5」への対応が、勧告時点で実現した場合でも、既に公開されている膨大なWebページの対応が、極めて長期間に渡ることが予想され、それを考慮した結果である。
「HTML5」では、プロプライエタリー(ソフトウェアの使用、改変、複製を法的かつ技術的な手法で制限)なプラグインとして提供されている「RIA(Rich Internet Applications)」のプラットフォーム(JavaFX、Adobe Flash、Silverlight など)と代替することを標榜しており、Web アプリケーションに対するプラットフォームとしての機能や、マルチメディア要素が追加されている。

HTML5 における変更点

「HTML5」における主な変更点は、次のとおりである。
・文書構造の表現を充実
・文書構造とスタイルを分離
・マルチメディアの実現(プロプライエタリーなプラグインを代替)
・使用されていなかった要素の廃止
文書構造の表現の充実を目的に、「header(ナビゲーションのグループ化)」「hgroup(セクションのヘッダー)」「section(セクション)」「footer(セクションのフッター)」「nav(ナビゲーションとなるセクション)」などの要素が追加される。この要素は、「EPUB」のようなhtml の応用分野において、重要なマークアップになることが予想される。
一方、文書構造とスタイルを分離するために、「basefont(基本フォント)」「center(中央揃え)」「font(フォント)」「strike(打ち消し線)」「frame(フレーム)」などの要素が削除され、CSSで集中的にコンテンツを表現する。マルチメディアを実現するために、「audio(オーディオの再生)」「video(ビデオの再生)」「canvas(グラフィックスの描画)」などといった要素が追加される。これらの要素により、「API(Application Programming Interface)」を介すことで、動作が可能となる。

CSS3

「CSS」は、文書構造とスタイルを分離するため、「HTML」や「XML」の要素に対してスタイル(フォント、色、文字間など)を指定する規格である。「HTML」の規格と同様に「W3C」により策定されている。
「CSS3(Cascading Style Sheets, level 3)」の仕様はドラフト段階であるが、「HTML5」と同様に、対応したWeb ブラウザーが既に普及している。
「CSS3」の仕様策定では、セレクター、テキスト、カラー、ボックスモデル、バックグランド、ボーダーなどの各仕様がモジュール単位になっている。モジュールごとに承認されるといった期待により、Web ブラウザー開発者には、モジュールごとに段階的に対応していく余裕が与えられている。

CSS3 における追加機能

「CSS3」における主な変更点は、次のとおりである。
・「XPath」のように文書構造を指定できるセレクター
・テキストのハイフネーション、空白文字、揃えについての指定
・カーニングの効果とドロップキャップの揃えについての指定
・ヘッダー、フッター、ページ番号、脚注、相互参照についての指定
・複数コラム(段組み)のレイアウトについての指定
・日本語表示のルビ(横書き、縦書き)
セレクターでは、「XPath(XML Path Language)」のような表現で属性の値を指定し、その要素の内容表示を変更できることから、文書構造とスタイルの分離を可能にしている。ただし、内容の文字列を指定することはできない。指定する場合は、HTML により記述されたコンテンツデータに対する「XSL(Extensible Stylesheet Language)」変換やスクリプトとの組み合わせによる対応が必要となる。

JAGAT CS部
Jagat info 2014年4月号より転載