産業団地と地域をつなげる「会社まるごとギャラリー2019」

掲載日:2019年10月9日

横浜市の金沢臨海部産業団地で、社屋を美術館に見立て、工場の廃材から創られたアート作品を展示する「会社まるごとギャラリー2019『熱〜パッション〜』展」が開催されている。

「会社まるごとギャラリー2019」山陽印刷会場のエントランス

アートの力で地域と産業をつなぐ取り組み

「会社まるごとギャラリー(以下「まるギャラ」)」は工場の部品や廃材を利用したアート作品展示と、ワークショップで構成される。主催は、金沢産業団地に拠点を置く山陽印刷が運営する「アーティストネットワーク+コンパス」である。横浜市の助成を受けて2013年に始まり、今年で7回目となる。

今回は山陽印刷のほか、坪倉興業(鉄鋼製品)、鶴見金網(金網総合)、協和タイヤ商会(中古タイヤ販売)、ヨコハマ機工(工業用ファスナー)、山装(防水資材)、東海シヤリング(輸送用機械器具製造業)、竹内紙器製作所(梱包資材)、中込製作所(スチール製品)などが自社の商材や廃材を提供している。そこから地域のアーティストがインスピレーションを得て作品を制作し、発表する。
横浜シーサイドラインをはじめとする地域の企業、大学も協力し、地域住民と企業、アーティストの交流が繰り広げられる。

9月28日の初日にはオープニングイベントがあり、山陽印刷の社員によるおもてなし隊と参加アーティストが作品を解説するギャラリーツアーが行われ、アーティストへの質問タイムも設けられた。

「会社まるごとギャラリー2019」オープニング

今年のテーマは「熱〜パッション〜」。
発熱、情熱、白熱、灼熱など、「熱」のついた言葉はたくさんある。
「まるギャラ」は、アーティストが発する、創作の「熱」を力に動いてきた。今回は、その「熱」にフォーカスして、さらに魅力を増すイベントを目指したのだという。

参加アーティストは、絵画、写真、立体作品、フラワーデザインなど、それぞれの分野で「熱〜パッション〜」に、それぞれどう向き合ったのだろう。作品の一部を紹介する。

五十嵐 道子氏

「密かな情熱」
フラワーデザイナーの五十嵐氏は、情熱を込めて育てられた花を、情熱を込めて生けた。ドライフラワーや苔でベースを構成し、生花を生けた試験管や蓮の実を飾っている。

川名 マッキー氏

「百顔繚乱(ひゃがんりょうらん)プロジェクト」
「魅力的な顔」と「変顔」を百人分集めてアート写真集を作る企画を紹介した。
変顔と言ってもSNSなどでしばしば投稿される、受け狙いの顔ではなく、「いちばん人に見られたくない顔」のこと。モデルとなった人々にとっては、自分をさらけ出す機会となり、やがてはユニークなムーブメントを起こせるのではないかと考えている。
これまでSNSでの募集で50人近いモデルを撮影しており、今回残り50名をクラウドファンディングを活用して募集する。
「会社まるごとギャラリー」では、本番と同じセットを用意し、参加者に変顔の撮影をちょっとだけ経験してもらうというワークショップを実施している。

百顔繚乱プロローグ百顔繚乱の体験ワークショップ

田中 清隆氏

「光」を素材とした立体造形作品を制作している田中氏は、「まるギャラ」ではプロデューサーを務めながら、自身の作品も発表している。
写真の作品は「遊影装置」と「複眼感覚」。影をゆらゆらと動かして遊ぶ装置。
さらに、作品の横に置かれた複眼レンズを通して別世界を見ることができる。

田中清隆氏の「遊影装置」

石田 美穂氏

「balloom bomb」(写真左)
「みっちゃん 蚕になる」(写真右)
石田氏の作品は、タイトルやモチーフの中に、核問題に対する意識がのぞくが、それを前面に出すのではなく、ユニークな形や愛らしいキャラクターの中に包み込むような表現となっている。普段は木彫をメインに制作をしているが、今回は、テラコッタや、廃材を組み合わせたインスタレーションも制作した。

石田美穂氏「balloom bomb」石田美穂氏「みっちゃん 蚕になる」

布施 新吾氏

「SMOG SKY」
布施氏は、衛生的で便利な都市生活の中に見る人工的な光景をテーマに創作活動を続けている。
今回は光化学スモッグをイメージしたミクストメディアを展示。
キャンバスに、いろいろな色材を何重にも重ねては削り、横に垂れがつららのように層になる。ブルーのグラデーションを描いている。

布施新吾氏「SMOG SKY」

ミノティカ(つちやみのる)氏

「matsuri」(タペストリー)
和のモチーフを洋風に可愛く表現するつちや氏は、今回のテーマに対して、人々の熱気が発揮される「祭り」の場を表現しようと試みた。オフセット印刷機のインキ汚れを拭き取る不織布を集め、和柄のように見える部分を選んでパッチワークのように組み合わせて反物のようなベースを作る。その上から、丸く切りぬいて動物などを描いた不織布を貼った。画材はアクリル絵の具であるが、プロセス4色印刷を意識してスミ、シアン、マゼンタ、イエローに相当する4色しか使わず、混色もしていない。動物の形はスミベタを基調にしているので、他の3色の鮮やかさが引き立ち、ステンドグラスのように輝いて見える効果が生まれている。

つちやみのる氏  「matsuri」

竹本 真紀氏

「ラックのキオクを集める旅」
作品制作に先立ち、参加各社を訪問して会社の変遷、商材、仕事へのこだわり、アピールポイントなどを取材した。各社とも、従業員が楽しそうに働いている姿が印象に残り、そのモチベーションの源を、ストーリー仕立てで探ってみようと思い立ち、地域の工場で使われている部品を組み合わせて作られたラックというキャラクターを生み出した。(写真はラックのイメージを描いた絵画作品)
会期中、ラックと一緒に「まるギャラ」参加企業を回って、体の部品の記憶を集めるというワークショップを実施しており、来場者は、ものづくりの素材や技術への理解を得ることができる。

竹本真紀 氏「ラックのキオクを集める旅」

女子美術大学大学院 環境デザイン領域 飯村ゼミ+α

「動きやすい空間」―廃材利用計画―
製品を型抜きした後に残る、穴の空いた板材をパーテーションとして活用した、オフィス空間の提案である。

女子美術大学大学院「動きやすい空間」

女子美術大学デザイン・工芸学科 プロダクトデザイン専攻 アップサイクルデザインプロジェクト(松本ゼミ)

廃材から価値のあるものを生み出す「アップサイクル」の考えに基づいた作品を毎年展示している。

女子美術大学「アップサイクル」

今後、アーティストを講師に迎えるワークショップや、クロージングイベントが予定されている。

台風15号で被災した地域を励ます

横浜市金沢区は、9月の台風15号で甚大な被害を受けた。「まるギャラ」参加企業の中でも、毎年ドレンやストレーナなどを提供してきた山装(防水資材)が被災し、同社で展示する予定だった作品は山陽印刷に会場を移すこととなった。

主催者とアーティストたちは参加企業各社と親密な関係を築いてきただけに、被災に対して心を痛めながら、イベントを継続することこそ、地域の人々を勇気付けることになるのではとの思いを共有している。

2013年の開始当初は山陽印刷が単独で行っていた「まるギャラ」も、年を追うごとに規模を広げ、地域に浸透しつつある。参加アーティストの輪も広がり、「まるギャラ」がきっかけで活動範囲を広げているアーティストもいる。
例えば今回も参加している五十嵐氏は昨年の「まるギャラ2018」をきっかけに横浜市の名勝、三渓園で開催する菊花展 に作品を展示する機会を得たという。

地域とつながり社内を活性化

「まるギャラ」運営母体となる山陽印刷は、今年5月ごろからテーマの設定や関係者との交渉などを続けてきたという。通常業務の合間を縫って運営する苦労はあると思うが、オープニングイベントで出会った職員の表情は皆生き生きとしていた。一つのイベントを成功させることや地域とつながることが、社員のモチベーションアップに繋がっているのだろう。

被災からの復興など、地域が抱える課題は大きいが、アートの力で社会貢献したいと考えるアーティストと連携し、地域を励ます活動をこれからも続けていってほしい。


「会社まるごとギャラリー2019『熱〜パッション〜』展」

会期:2019年9月28日(土)〜10月26日(土)

主催:アーティストネットワーク+コンパス

連携:女子美術大学 デザイン・工芸学科 プロダクトデザイン専攻 アップルサイクルデザインプロジェクト、女子美術大学大学院 環境デザイン領域、関東学院大学 人間共生学部 共生デザイン学科、ヨコハマアートサイト2019開催イベント他市内開催のアートとの連携

助成:横浜市地域文化サポート事業・ヨコハマアートサイト2019

協力:山陽印刷㈱、㈱坪倉興業、㈱山装、鶴見金網㈱、㈱南部フーズ、㈱ニットー、㈱横浜シーサイドライン、㈱横浜八景島、玉家運輸倉庫㈱、㈲協和タイヤ商会、(一社)横浜金沢産業連絡協議会、横浜シーサイドフォーラム、並木コミュニティハウス、女子美術大学デザイン・工芸学科 プロダクトデザイン専攻 アップサイクルデザインプロジェクト(松本ゼミ)、関東学院大学 人間共生学部 共生デザイン学科、㈱中込製作所、㈱セキド、女子美術大学大学院 環境デザイン領域(飯村ゼミ)、㈱メルヘン、関東プリンテック㈱、㈱ヨコハマ機工、㈲竹内紙器製作所、㈱HIGASHI-GUMI、東海シヤリング㈱、NPO法人Aozora Factory(敬称略)

内容:作品展示/ワークショップの開催/ヨコハマアートサイト2019開催イベント・産学連携

展示会場
山陽印刷株式会社(社屋内外)他

各工場より提供された素材(インク缶・不織布・切断紙等廃棄物や製品)を使用した作品と各作家のオリジナル作品、インスタレーションにて構成。

ワークショップ
【第1回】 9月28日(土) 15:00時〜 *オープニング内にて
川名マッキー「百顔繚乱」撮影体験 場所:山陽印刷㈱ *終了

【第2回】  10月12日(土) 10時〜15時30分
関東学院大学 人間共生学部 共生デザイン学科 淡野ゼミ学生の皆さん
「不織布で作っちゃおう」 不織布で色々な小物を作ります。随時受付
参加費:500円  場所:金沢区産業振興センター(Aozora Factory)
*台風接近のため中止が10月9日に決定しました

【第3回】 10月26日(土) 16時〜19時 *クロージングにて
秋元直樹「利き酒」(うんちく酒クイズもあります。)
参加費:3,000円  場所:ヨコハマ機工  要予約

【第4回】 11月4日(振・月) 10時〜11時30分、13時30分〜15時 (予定)
小川敦子「アイシングクッキーでハッピータイム」
参加費:4,000円 *材料費・ケーキセットまたはサンドイッチセット代込 場所:横浜金沢公会会議室  要予約

【第5回】 11月9日(土) 9時30分〜16時(予定)
川名マッキー「金沢区・工場撮影散歩」
参加費:3,000円 *シーサイドライン1日周遊券、ランチ代含(中学生〜大人)  要予約
川名マッキーさんと一緒に金沢区の工場や界隈の街並みを撮影しながら巡ります。
*横浜シーサイドライン新杉田駅集合

(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)

アーティストネットワーク+コンパス Webサイト

参考:
印刷会社がまるごとアートギャラリーに

産業団地発のアーティストネットワークがつくる「会社まるごとギャラリー2018」