次世代の動画圧縮技術

掲載日:2015年7月29日

次世代の高精細テレビ放送として、4K や8K の実用化が注目を集めている。高精細化を推進するにはハードウェアの進化だけでなく、圧縮技術の標準化や普及が不可欠である。圧縮技術の最新動向と課題について、高度圧縮技術研究所の常務取締役秋元タカシ氏に伺った。今回はそのうち一部を紹介する。

4K・8K放送と次世代動画圧縮

昨今、超巨大データを必要とする4K・8K のテレビ放送が注目されている。日本では2014 年にCS チャンネルの4K 放送が試験的に開始された。BS チャンネルでも2016 年にスタートされる。さらに、8K 放送も2020 年にスタートする予定である。

韓国では2014 年のワールドカップを機に4K 放送が開始されており、現在も3〜4ch が実施中である。アメリカでもCATV などでドラマを中心に4K放送が始まっている。

4K・8K 放送に必要なのが、2013 年に国際標準となった次世代の動画圧縮技術、H.265 /HEVC(High Effciency Video Coding)である。

H.265の圧縮率 は、現在の地上波デジタルで使われているMPEG2 の約4倍、H.264/MPEG-4 AVCの約2倍である。CS チャンネルの4K 放送やNHK 技研の8K 放送の圧縮方式として使用されているほか、ULTRA HD Blue-rayの標準圧縮方式として採用されている。ただし、H.265を使用する場合はMPEG LA へのライセンス費用が発生する。

その他の動画圧縮として有望視されているものに、Google が開発したVP9 がある。

VP9 は、H.265 とほぼ同等の圧縮効率を持つといわれている。動画サイトのYouTube でもサポートされている。ライセンスが無償であり、Google Chrome の他にFirefox、Opera など多数のブラウザーに採用されている。

また、FireFox を提供しているMozilla(モジラ)社の次世代動画圧縮が「Daala」である。H.265/HEVC やVP9 よりも高い圧縮率を目標に現在開発中であり、ライセンスも無償を予定している。

次世代動画圧縮の課題と用途に応じた圧縮技術の最適化

これらの動画圧縮技術はより複雑な演算を用いるため、消費電力の増加や高性能CPU や専用のハードウェアIP コアが必要となる。さらに、パラメーター設定も複雑で圧縮アルゴリズムの持つ性能を使い切れないという問題がある。

また、H.265 による放送を実現するには、撮影カメラや編集ツール、衛星放送や地上波伝送、ケーブルテレビの機材やアンテナなどの放送インフラ、H.265 チューナーを搭載した表示デバイスなどが必要になる。環境が整備されるには、時間がかかるだろう。

(JAGAT 研究調査部 千葉 弘幸)

(全文は『JAGAT info』2015年7月号に掲載)