2021年のグッドデザインと印刷

掲載日:2021年11月8日

2021年度グッドデザイン賞の大賞をはじめとする特別賞が、11月2日に発表された。受賞提案には社会の多様性を反映したデザインが多く見られ、その中で印刷関連会社も健闘している。

グッドデザイン賞は、デザインを、暮らしや社会をよりよくするものという観点で捉え、近年ではさらに、時代を象徴するデザインを探るという性質を強めている。

2021年度は、審査対象数5835件に対し受賞件数は1608 件と、いずれも過去最多となった。

以下、最高賞のグッドデザイン大賞ほか、受賞デザインの一部を紹介する。

2021年度グッドデザイン大賞

遠隔就労・来店が可能な分身ロボットカフェ [遠隔勤務来店が可能な「分身ロボットカフェDAWN ver.β」と分身ロボットOriHime]

(株式会社オリィ研究所)

分身ロボットカフェ

障害・病気などさまざまな要因で外出困難な人が、自宅にいながら働くことのできる仕組みを作るための常設実験カフェ。
OriHimeパイロットと呼ばれる就労者が、PC・スマートフォン・タブレットを使って分身ロボットOriHimeを遠隔操作し、カフェDAWNで接客する。
来店客は、ロボットを通じて、その向こう側にいるパイロットとコミュニケーションを取ることができる。DAWNで就業訓練を受けた人は、人材紹介を通じて企業へのテレワーク就労の道も拓ける。

カフェだけではなく、いろいろな場面に活用できそうだ。コロナ禍を契機に、テレワーク推進の流れがあることも追い風となるだろう。

多彩なファイナリスト(大賞候補)

惜しくも大賞を逃したファイナリストは、全てグッドデザイン金賞を受賞した。

移動型X線透視撮影装置 [FUJIFILM DR CALNEO CROSS]

富士フイルム株式会社

高齢化社会の医療に対応した、患者の負担軽減、医療の向上と効率化の実現。

小さくても地域の備えとなる災害支援住宅 [神水公衆浴場]

株式会社ワークヴィジョンズ (東京都)
株式会社黒岩構造設計事ム所 (熊本県)
竹味佑人建築設計室 (東京都)

構造設計者が自らの被災体験から構想した、日常的な地域のつながりと防災の場。

3D都市モデル [PLATEAU[プラトー]]

国土交通省都市局 都市政策課

国土交通省が主導する、まちづくりのためのオープンデータプロジェクト。

Operations [The best sustainability-oriented organizational adaptation to climate change]

Hair O’right International Corporation (Taiwan)

台湾のヘアケアブランドによる循環型社会を目指す取り組み。


11月2日に行われた大賞記者発表会では、大賞受賞のオリィ研究所に対し、他のファイナリストから、早速コラボレーションの申し出があったというエピソードが披露された。
ファイナリストの取り組みそれぞれが連携することで、新しい動きが始まるかもしれない。

印刷関連企業の受賞

ノートブック [まほらノート]

大栗紙工株式会社

グッドデザイン・ベスト100受賞。
大阪のノート製造会社が、発達障害当事者の声に答えて開発した、誰にとっても使いやすいノートである。審査では、「どんなユーザーにとっても使いやすく、美しく、魅力的な製品」である点、「ノートを使う際の様々な感覚や気持ちに寄り添ったものづくりへの姿勢」が評価された。
受賞提案1608件から厳選されたベスト100の中に、印刷関連企業が名を連ねることは、嬉しい限りだ。受注を主体とした企業でも、身近なニーズに応えることで、事業を広げるチャンスが生まれることを示した事例といえる。
「まほら」は第30回 日本文具大賞2021でも、デザイン部門 優秀賞を受賞している。*1
今回の受賞で、さらに幅広い人々の支持を得ることになるだろう。

ファイルノート [スライドノート]

株式会社研恒社

グッドデザイン賞受賞。
商業印刷を主軸とする企業が、デザイン会社や加工会社との協業で開発した、金属クリップのスライド式リングレスノート。第32回 国際文具・紙製品展 ISOT 夏への出展や、ポップアップストア出店などで認知度を高め、ビジネス用途を中心に売り上げが好調だという。*1
審査では、「できるだけ無駄な用紙を使わないサイクルを目指して作られた」という環境保全への対応が評価された。

*1 参考:多様なニーズにデザインと印刷の強みで応える

Upcycled Stationery Brand [OFFCUT]

Allegro Print Pte Ltd (Singapore)

グッドデザイン賞受賞。
シンガポールの印刷会社による、印刷用紙の廃材を文具にアップサイクルする事業。デザインがシンプルで洗練されている。
審査では「進んで使いたい商品が知らず知らずのうちに環境負荷軽減に貢献している。理想的なアップサイクルである。」と評価された。

今回のテーマ「希求と交動」

審査委員長の安次富隆氏と、審査副委員長の齋藤精一氏によると、今回のテーマの「希求」とは、人々の中にある、微かではあるけれども切実な願い、「交動」は、それらの声をキャッチし、幅広い人々の間で共感しながら、解決のための行動を起こすことを指すという。

「希求」は、おそらく多種多様に存在するが、当事者以外には十分に知られていない場合も多いのではないか。それらは、「分身ロボットカフェ」や「まほらノート」のように、課題解決のデザインを生み出す過程で、そこに関わる人々の間に知られ、共感を広げていく。

小さな要求を実現するデザインがさまざまな分野で生まれることで、社会に生きる人々の多様性がより可視化されていくのではないだろうか。

現在のグッドデザイン賞は、見栄えや機能だけでなく、デザインの背景、プロセス、目的、成果などを多角的に審査するので、受賞のハードルは高い。
しかし、印刷会社の中にも、地域や他業種と結んだ、課題解決の取り組み事例は多くあるので、グッドデザイン賞で評価される企業がもっと増えてほしい。

なお、全ての受賞提案はグッドデザイン賞のウェブサイトで公開され、グッドデザイン・ベスト100については、11月21日まで東京ミッドタウン・デザインハブで開催されている「GOOD DESIGN SHOW 2021」で見ることができる。

グッドデザイン賞公式サイト  

(JAGAT 研究調査部 石島 暁子)

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