中小印刷会社の業績開示を考える(前編)

掲載日:2015年4月9日

中小零細印刷会社は従業員への経営状況の開示をどのように考えるべきか。業績を高めるための経営状況の開示について、過去5年の調査結果から考える。

企業は誰にどこまで業績を開示すべきか

「企業は誰のものか」、という問いに対する答えが永遠のテーマであるように、業績開示の有無やあり方もそれに近い。株式上場企業は業績開示の義務を負うが、これは投資家から出資を集めた責任に対する義務である。上場するほどの企業になると文字通り社会の公器になり、特定親族株主の比率の高いいわゆるファミリー企業もなかにはあるが、それでも多くの出資者に対する説明責任を負う。これは、株主が出資割合に応じた企業持ち分を有するからであり、企業は一義的には株主のものだからである。

中小零細企業の業績開示はどうすればよいのか

それでは、実質的に個人資産と会社資産が一体となっているような多くの中小零細企業の場合、つまり株主=経営者という企業の場合、業績を開示する必要はあるのか。そしてそれは誰に対して開示するのか。まず、借入金があるのなら、金融機関に対して業績を開示しなければならない。当然のように経営計画も求められるだろう。また、税務署に対しても申告しなければならない。これは業績というよりも納税額算出に必要な所得申告の意味合いが強い。配当・返済・納税といった利益分配の必要なステークホルダーだから事細かに公開するのである。

法律上、従業員への業績開示の義務はない

中小零細企業は、従業員に業績を積極的に公開すべきなのだろうか?法律上は労働組合の要求に対してですらも業績公開を拒むことが認められている。それでも公開がトレンドになっているのはなぜか。情報共有、一体感の醸成といったメリット面が認められるからだ。誰しも自分の乗っている船の状況がわからないのでは不安感を払拭できないし、現在地点がわからなければ航路を考えることも難しいかもしれない。だからなのか、近年は非公開の中小企業においても、従業員ばかりでなく取引先など社外ステークホルダーまで招いて業績発表会をするケースも見受けられる。これを長く持続している会社は素晴らしい。

業績開示の功罪

しかし、業績開示のデメリットも考えられる。中小零細企業で従業員に業績開示すると役員報酬まで逆算され、逆に従業員がやる気を失うようなケースもありうる。人数の多くない企業なら逆算は簡単である。オーナー経営者が出資リスクと引き換えの高いリターンを得るのは当然だが、こうした経済基本原理への理解がない従業員の反発も考えられる。また、取引先など社外のステークホルダーにまで対象を広げて業績発表会をする場合、良い時はして悪い時は控える、といったやり方にならざるを得ない場合もある。こうしたやり方に意味はあるのか。それに、部門間の競争が良い方向に働くばかりでない。セクショナリズムが強くなり、部門間に対立構造や責任転嫁が生まれるのもよく聞く話で、従業員への業績公開も一長一短ある。

(後日公開予定の後編へ続く)

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