脱Word 脱DTP トピック指向ライティングとは

掲載日:2018年9月3日


取扱説明者や製品カタログの制作において、トピック指向ライティングという手法が注目されている。


コンテンツデータをデータベースで管理して自動組版を行うという手法や印刷物のデータをWebなど別のメディアでも容易に活用できるようにするワンソースマルチユースという考え方は決して新しいものではないが、取扱説明者や製品カタログに求められるニーズが変化するなかで、コンテンツ管理の在り方やドキュメント制作の手法が見直されている。株式会社サイバーテック 取締役 小野雅史氏にお話しを伺った。

取扱説明書に対する顧客ニーズの変化

以前の取扱説明書に対してのニーズは、わかりやすい表現やデザイン、グローバル対応、品質基準への対応などであった。これらのニーズはすでに充足されており、現在はスマホやタブレットなどさまざまなデバイスへの対応による利便性、情報発信のスピードの速さ、それから掲載されている情報をマーケティング活動に利用したり、コールセンターで利用したりという相互運用性が求められている。
つまり、「見やすい紙のマニュアルを作る」だけでは顧客ニーズは満たせなくなっている。また、エンドユーザのITリテラシーや業務環境の進化がある。Google検索やLINE、チャットなどの活用、あるいはモバイルネットワークの高速化やクラウドサービスの利用拡大などにより「Webファースト・デジタルファースト」のニーズが高まっている。

用途に応じたコンテンツの最適化

デジタルファーストとは、紙とデジタル両方のアウトプットがあることを前提に情報コンテンツを設計し、利用目的に合わせて情報コンテンツを組み合わせ、最適なタイミングで配信することと定義している。
たとえ発信のタイミングはWebが先であっても、印刷用のDTPデータをHTML5等に加工変換して公開するのはデジタルファーストとは言わない。重要なのは情報コンテンツが用途や利用するデバイスに応じて最適化されていることである。
用途に応じたコンテンツの最適化の例を紹介したい(図)。

例えば照明器具の取扱説明書のコンテンツを利用する人を想定してみる。器具を設置する施工会社の人であったり、海外向けに販売や保守を行うディストリビュータであったり、日本の国内の販社であったり、個人ユーザであったりする。
そうすると、すべての対象に共通する取扱説明書というのは存在しない。施工会社が対象であれば、施工方法を解説する動画があれば便利だし、保守をするディストリビュータであれば、故障の症状から原因を自己診断してくれるツールがあれば便利である。また、販社であれば、スペックで製品を検索できる検索ツールがあれば便利だし、検索結果に取扱説明書が紐づいていればなお良い。
個人ユーザであれば、製品選定のナビゲーションツールや、不明点を簡単に問い合わせることができるチャットやFAQなどのコミュニケーションツールがあると便利である。そして、利用者とのコミュニケーションが双方向となれば、利用履歴を解析してお客さまのニーズを把握し、それに基づいてコンテンツを改訂し、さらには製品、設計部門へフィードバックすることもできる。
紙の取扱説明書や製品カタログがなくなることはないと思うが、それらのコンテンツをマーケティングツールとして活用したいというニーズは高まり続けるだろう。

二つの設計作業が制作フロー構築のポイント

トピック指向ライティングを採用するとドキュメントの制作フローが根本的に変わる。
まず最初に複数のドキュメントで共通する部品がどの程度あり、流用率はどの程度なのか、そして組版の自動化によるコスト削減がどの程度見込めるのかを目標設定をする。
次に設計を行う。設計には情報設計と運用設計の2種類がある。 情報設計とはドキュメントの構造を分析して、どの単位で部品化するのかを決めたり、共通要素の洗い出しを行う。そして、基本レイアウトの設計を行う。情報設計により、ドキュメントの構成要素であるトピックとトピックをどう組み合わせるかという設計図にあたるマップの設計ができる。

運用設計では、誰がどのような役割を担当し、どのタイミングで何をするかを決める。DTP作業では、執筆からレイアウトデザイン、組版作業から改訂作業まで一人で自己完結できることが利点でもあったが、トピック指向ライティングでは、複数の担当者が役割分担してドキュメントを作り上げることに力点が置かれる。

設計が完全に終わってから制作に入る。データの整理やデータベースの設定をする。その次にようやくトピックの執筆やイラストの作成、編集を行う。それから部品単位で校正・レビューを行う。部品単位で校了状態にしてから、最後にマップ情報に基づきトピックを結合させる。
この段階で決済者の承認を得る。それから、用途に応じて、HTMLやHTML5などのWebコンテンツを自動生成したり、印刷物であれば自動組版してPDFファイルを作成する。HTMLであってもPDFであっても同時に自動的に生成できるという点がポイントである。また、デザインはスタイルシートで記述するためコンテンツとデザインが完全に分離されるのが大きなポイントである。

 

メリットを整理すると以下のようになる。

  1. ドキュメント制作の手法が標準化されるので、品質と生産性が向上する
  2. トピック単位でのドキュメント再利用が容易になり、流用率を高められる
  3. トピックの共通化を図り、改訂時の編集・校正の重複やミスを排除できる
  4. トピック属性を利用した条件分岐や出力の制御が可能となり、システム化・自動化が容易になる
  5. ドキュメント構造とデザインを分離するため、様々な形式へ同時に出力することが可能

 

プロフィットセンターとしてのドキュメント部門へ

トピック指向ライティングは、非効率的なドキュメント制作部門の課題の解決手法として、また印刷物とWebマニュアルの同時発刊を実現する手法として普及していくだろう。 そして、データベースにコンテンツが蓄積されていくと、コンテンツデータを活用したお客様の満足度向上や販売支援が行われるようになる。そのときには、取扱説明書などドキュメント作成部門はコストセンターからプロフィットセンターへと転換していくことになる。

(文責 研究調査部 花房 賢)

 

【参考情報】
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詳細:http://www.cybertech.co.jp/xml/seminar/20180914.php